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マンティコア

アデルモが黙り込むと、ロレーナもオルランドも黙り込んだ。

ジャンが、ふん、とため息を一つ。

「しょうがねえよ。今更、引き返せねえ。姿の一つでも見てからじゃないとな!」

「そうだな・・・」

アデルモが張り詰めていた息を吐く。

「出発しよう。サーラ、聞き耳を立てておいてくれ。向こうに動きがあったらすぐに知らせるんだ」

「うん、わかった」


ジャンが自分のマジックバッグから地図らしきものを取り出した。

真北、1キロ先くらいに、ちょっとした沼が描かれている。その地図には沼の名前は書かれていなかった。そして沼のほとりには「×」印がついていた。

「ジャン、そのバツ印は何?」

「ん、これか。これは魔物の集まる場所を示しているんだ。例えばその魔物がゴブリンなら、バツ印にはゴブリン集落がある。ここのバツ印は・・・確か・・・」

そう言いながら、地図の裏の書き込みを見て、ジャンが続ける。

「マンティコアの巣だ・・・」

ジャンはフェード気味に口を閉じた。

「そうだ、ジャン、マンティコアが何頭もいるはずなんだ。なのに、水龍は平気でそこに居座っているようだし・・・」

マンティコア・・・。私はまだ見たことは無い。聞いたところのよれば、体長2メートルほど。赤毛でライオンに似ているけれど、顔だけが人間に似ている。それから尻尾に毒針が隠されているらしい。

強さはかなり・・・。並みの冒険者では1対1で戦うのはやめた方が良いとされている。出来るだけ遠隔からの攻撃で接近戦は避けるべき。というのも、体長の割にすばしっこく、そして力が強い。姿が似ているライオンと同等の強さを持ち、さらに毒針にも気を付けなくてはならない。マンティコアの毒は即効性のマヒ毒なのだとか。


え?なんで知ってるって?


そりゃあ・・・冒険者になるんだもん。戦う可能性のある魔物のことは一通り覚えたよ。こういう資料はギルドに行けば必ず置いてあるし。読書料も、銅貨2枚とお値打ち価格だしね。それと・・・何故だか前世の記憶にも同じような魔物の記憶があるんだよね。

前世の日本には魔物はいなかったはずなんだけど・・・。何故、知っているのかは覚えていないな・・・。

前世の記憶の魔物と、本物の魔物は、かなり似ていることが多いよ。もちろん、前世には知らなった魔物もいるし、前世でしか知らない魔物もいるけどね。


ジャンの持っている地図も、ギルドで銀貨1枚で売ってる「クルタス王国魔物分布図、南部編、2285年版」だよ。今年が創世歴2287年だから2年前に出た地図だよ。5年毎の編纂だから最新版だね。


フォクシー村から数百メートルで道が途絶えた。

これまでの道だって獣道みたいなもので、村人を始め、フォクシー村の北側へは通常、人は踏み込まないんだな、とわかるよ。

ジャンが、マジックバッグから鉈を取り出し枝や蔓を切り飛ばしながら進む。


ん?


「待って!何か来る!」

数十メートル先から、こちらへ向かってくる物音が聞こえた。

「ジャン、気を付けろ!」

「おう!」

鉈を投げ捨て、ロングソードを抜いて構えるジャン。アデルモも槍を構えながらも魔法を撃てる体勢を整える。ロレーナさんは矢を弓につがえる。オルランドもグレートソードを構えた。ロングソードよりも長く厚い刃を持つ剣だ。


「来る!」

私が叫んだ直後、目の前の藪から草や木を圧し折る物音と同時に巨大な獣が飛び出してきた。

「マンティコア!」

オルランドが叫ぶ。先頭にいたジャンがマンティコアの突進を避けるように身をよじりながらも、ロングソードで切りつけた。

「グオルォウ!」

マンティコアが唸り声を上げ、ジャンを前足で切りつけようとする。ジャンはギリギリでそれを避けた。

資料で読んだ通り、マンティコアはライオンのような体を持つ。顔は・・・アレだ、般若の面・・・ハンニャってなんだったか思い出せないけど・・・。真っ赤な体、真っ赤な般若の顔!

そして動きは、まるでデカい猫!

でも、あの、めちゃくちゃ太い腕で殴られたら、たぶんジャンでも気を失うだろう。

「アイスクラッシュ!」

アデルモが初級氷系魔法のアイスクラッシュを放った。これは氷の塊をぶつける技だ。単純な氷の塊を作り出して飛ばすだけの魔法なので、技の発動が早く咄嗟の初手としてはオーソドックスなものだ。

ジャンにヘイトを取っていたマンティコアにアイスクラッシュの大部分が命中。けれど、ほとんどダメージは与えていない。マンティコアは、アデルモを目で捉えた。

「フリージングアロー!」

アデルモの必殺技、フリージングアローは、氷の槍を投げる技だ。自分の腕で投げるのだけど、魔法によって加速し、標的に突き刺さる。

ビュオっと音を立ててフリージングアローが投げ出された。投げ出された槍はギュンギュンと加速し、マンティコアの左目に突き刺さった。

「ギヒイイッ!」

ひどい悲鳴を上げ、マンティコアが暴れる。ジャンは危険を察知して間合いを取る。アデルモも槍を構え直す。


ん、あ、私の番か。

普段から戦闘連携しないから・・・言い訳だけど。


「ファイヤーボール!」

きっちり倒してしまおう。距離が近いし、手間取ると被害が出てしまいかねない。それに今日の獲物はマンティコアじゃない。

バスケットボールくらいのファイヤーボールを作成、ドン!と空気を震わせながら強く打ち出す!

アデルモの目が大きく見開かれるのが視界の端に見えた。

ファイヤーボールは、アデルモのフリージングアローよりも速く空気を震わせながらマンティコアへ向かうマンティコアは回避しようとするけれど、間に合わない。

マンティコアの背中に直撃!

「エクスプロージョン!」

いつもゴブリンに撃ち込むのと同じだ。当たった瞬間に爆発させる。ドカーン、と衝撃音が響く。


マンティコアが倒れた。


背中のあたりに大穴が空いている。

近くの木には焦げて炭のようになった肉片が散らばっている。そのいくつかは、まだブスブスと煙を立てていた。


「サーラ・・・い、今のが本気の魔法か・・・?」

引き攣った顔でアデルモが私に尋ねた。


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