水龍討伐3
フォクシー村に辿り着いた。
フォクシー村は海に面した小さな漁村だ。
このあたりの家はレンガ造りが普通で、フォクシー村も同様だ。白い塗料で塗られた家も多い。
夏の太陽が、海岸の波に反射してきらめいているよ。
ピザ屋さんは・・・閉まっていた。
そりゃそうだよね。
巨大化したモンスターが襲って来るっていうのにのんびり営業なんてしてられないよね?
閉まっている店を見て、アデルモは早々に諦めたらしい。
とにかく、水龍の情報を集めようっていうので、誰か人に尋ねようってことになった。
けど、さっきから人がいない。
「この様子じゃ、水龍は随分近くまで来てるのかもしれませんな、アデルモ」
オルランドがため息まじりに言ったよ。
「そうだな。既に一刻を争う状況だと判断する!海を背に北へ向かう。馬車は途中で置いていくぞ。各自準備しながら待機だ。オルランド!馬車を回せ!すぐに出発する!」
「おう!」
馬車まで戻るオルランドを見送りながら、私は剣を引き抜く。すぐに抜ける状態になっているか、グリップはガタついていないか。もちろん普段から点検はしているんだけど、今一度確認する。
私は、魔法士で接近戦はしないのだけど、不測の事態ってことも有るからね。
馬車が来たのでそれに乗り込む。
とはいえ、村は大きくは無い。
すぐに村の境界へとたどり着く。村の北側には、丸太を組み合わせた簡単な城壁があった。山から来る魔物から村を守るためだろう。そして、そこには勇敢な村人たちが十数人、鉈や鍬を手に集まっていた。
「冒険者ギルドから派遣された『夜明けの希望』だ。水龍討伐の依頼を受けている!誰か状況を教えてくれるものはいるか?!」
アデルモが馬車の上で立ち上がり、声を上げた。
動いている馬車に立つなんて、危ないよ・・・と思ったのだけど、アデルモは見事なバランス感覚で立ち続けていた。
すごいわ、うん。
馬車が砦近くの空き地へ停車した。
私達5人は馬車を降り、集まった村人の所へ行く。
「なんだよ、たったの5人か?」
「ああ、そうだ」
「あんたら、あれを舐めてるぜ。あれは蛇の魔物なんかじゃねえ。俺は見たんだ、背中に鱗があって、背びれのようなものがあった。足も短いが、4つ、あれは話に聞くドラゴンにちげえねえ!」
私にはトカゲのような姿が目に浮かんだけど、黙っておく。例えトカゲが巨大化した魔物だったとしても、危険な魔物には違いないだろう。
この世界には、アータルオオトカゲのように口から炎を噴くトカゲがいるし。
ま、あれは標高の高い山地に生息している種だから、ここにはいないはずだ。
村人たちは口々に魔物について叫ぶけれど、要約すると「あれはヤバい。もし来たら、こんな砦じゃ食い止められない。どうしたらいいんだ?」だった。
「皆さん、聞いて下さい!『夜明けの希望』には攻撃魔法を使える魔法士が二人いる!」
村人たちがどよめく。
この世界、魔法は珍しいものでは無い。魔導具が普及したおかげで、生活の隅々に魔法が利用されている。けれど、魔法士となると別なのだ。
魔道具の助け無しに魔法を使える人は多くない。
しかも、多くない魔法士のほとんどは、小さいうちから貴族に召し抱えられて村を出ていく。
つまり、普通の村、普通の街には魔法士はほとんどいない、ってことだ。
そして数少ない魔法士の出来ることは、せいぜい空間から水を出したり、薪に火を点けたりする程度。攻撃魔法が使える魔法士なんて、ほとんどいないのだ。
それが、5人のうち2人が攻撃魔法士だ、なんて滅多にあることじゃない。村人がどよめくのも当然のことだった。
「我々は5人だが、ここへあれが来ないように防衛戦を行うつもりだ。可能なら、どんな敵で、今、何処のあたりにいるか、そこを聞かせて欲しい」
アデルモが優しさの籠った声で村人に問いかける。
民衆の前で物怖じすることもなく堂々と声を出せる、アデルモが没落貴族だっていう噂も、案外、こういう所から出たのかもしれない。
「あれは、間違いなく水龍だった!体の大きさは倉庫一つ分。背中に背びれがあって、首も足も短い。表面はぬるっとしている。それから火を噴く」
「大きさは倉庫どころじゃねえ。二階建ての家くらいあったぞ」
「数時間前に、ここから1キロくらい先の沼のほとりにいるところを見かけた」
「二日前にはシンヴィリツッィ湖にいた。移動してるのは間違いない」
アデルモは話を聞くと、砦の扉を開けさせ、外へ出た。
「準備はいいか、くれぐれも無理はするな。今回の任務は討伐じゃなくてフォクシー村に近づけさせないための陽動作戦だ。無理に倒す必要は無いんだからな!」