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水龍討伐2

いつでも出発できるのが冒険者ってもんだよ。

そんなわけで、昼前には馬車の上。

馬車と言ってもワゴンじゃないよ。天井の無い荷車みたいな馬車だよ。二頭立てで速度はまあまあ、快適さを無視した輸送車ってところ。

4輪馬車は、いちおう板バネを装備しているから荷車ってわけじゃないけどね。バネを装備するのは贅沢なんだけど、そうしないとスピードを出した時に揺れて大変なことになる。アデルモは必要なところにはお金をかける合理主義者だ。その代わりに、御者席はともかく、後ろは見事にただの板張りの荷台状態だ。

ガタゴトと走っていく。

海沿いの道を1時間ほどでフォクシー村に着くはず。


しかし、暑いよ。

季節は夏。屋根の無い馬車は、まるでフライパンだ。私なんか服が黒な上にロングスカートなものだから、ひどく暑い。

直射日光を遮るために頭から白い布を被ってはいるのだけど、無いよりはマシってだけだ。

「サーラ、暑かったら脱いでもいいんだよ、その鬱陶しい黒服を」

そう言ったのはロレーナ。暑さに耐えられず、タンクトップ一枚になってる女性。黒髪に日に焼けた褐色の肌をしている。年齢は19歳だって聞いた気がする。

「いえ、お構いなく・・・」

「だってサーラ、あんた、獣人だってこと隠すために着てるんだろ、それ。だったら気にすることないじゃないか。どうせあたしら、みんな知ってるんだ」

「でも・・・」

馬車の御者をしているのはオルランド。地図を広げて難しい顔をしているのがアデルモ。アデルモの広げた地図を覗き込んでいるジャン。そしてロレーナ。


最初は、みなさんのことを、アデルモさん、とかオルランドさん、とか呼んでいたんだけど、最初の討伐依頼の時に、いちいち敬称を付けないでくれ、と言われてからつけてない。戦闘中に、いちいち「さん」付けで名前を呼んでいたら、その分だけ反応が遅くなるから、だそうだ。

うん、些細なことだけど、そういうの大切かもね。遠慮しないで声を掛けられる関係じゃないと戦闘連携なんて出来ない。リーダーはアデルモだけど、私達は軍隊じゃないから。一人一人に戦い方があるパーティーだからね。


ところで・・・

「ジャン、私の事、秘密にしてくれるって約束じゃなかったの?」

地図を見ながらアデルモと相談していたジャンが振り向いた。

「ん?サーラ、何か用か?」

「何か用?じゃないわ。私の耳のことよ」

「ああ、そのことか。この3人なら問題ない。獣人だからって差別したりはしねえし」

「でも!」

 アデルモが顔を上げた。

「サーラちゃん、僕はね、ヒト種だけが人間だ、なんて考えは奢りだと思っているよ。世界を変えることは容易ではないが、せめてこの時ばかりは堂々としていて欲しい」

「アデルモさん・・・ありがとう・・・」

大人の余裕を感じさせるアデルモの言葉だった。

「サーラ、俺はサーラのためを思ってパーティーの皆には耳の事を話したんだ。俺達はサーラの力になりたいと思っているんだ」

「ジャン・・・」

なんか、誤魔化された気もしないでもないけど・・・。

みんなが気にしてくれてるってのはわかった。


けど、脱がないけどね。


だって、暑いのわかってたから、このロングワンピースの下は下着だけだから。脱いだら大変なことになってしまうよ。

前世の記憶では、ファンタジーな異世界物では、女性はドロワーズとか、上下が繋がったツナギ型の下着だとかを着ているようだけど、この世界にはブラジャーもパンツもあるよ。

というのも、ゴムが普及しているから。

ドロワーズを始めとして、中世の下着が垂れ下がるようなデザインだったのは、腰に紐で縛るか、全身を覆う形にするか、いずれにしても伸び縮みがしない材料で出来ていたかららしい。

けど、ゴムがあるっていうことは、体にぴったりした衣服が作れるってことで、下着はかなり進化してるんだ。


なので、私が今、履いてるのは普通にパンツだし、普通にブラなのだ。まあ、なんの色気も無いスポーツブラみたいなものだけどね。どうせ威張るほどの胸も無いし。

でも、少しはあるんだよ、スポーツブラも意味はあるから。


まあ、それはともかく、脱ぐわけにはいかないのだよ。


ロレーナは長い黒髪を手で梳いてポニーテールに縛り始めた。

「もうすぐフォクシー村だね。アデルモ、情報を仕入れたらすぐに出るんだろ?」

「いや、可能なら食事をしたいと思う」

「そうか、そういや飯も食わずに出てきてしまったな」

そっか、そろそろお昼だし・・・。


普通、食事は昼と夜の二回だよ。

昼前くらいにしっかりとご飯を食べて、日暮れ頃に夕飯を取るって感じかな。

私は3回食べるけどね。なんか、朝ご飯を抜くのって、健康に悪いっていうか、育ち盛りの時期に悪影響って気持ちがあって・・・たぶん、前世の記憶のせいなんだろうけど。

 

今回は、急ぎだったから、みんなとにかく準備優先で馬車に飛び乗ったからね。

私は朝ご飯を食べてるけど、みんなは違うと思うよ。


「アデルモ、食事はいいけど、食堂なんてフォクシー村にあったっけ?」

「ジャン、街道沿いにピザ屋があるはずだ。海で採れた魚介類を使ったボリューミーなやつだ」


おいしそう・・・。

「それ、私も食べたい!」

ぱっと手を上げたらロレーナさんが笑い出したよ。

「サーラ、まるで子供だね。仕方ない、ピザを食ったら出発、それでいいかい?」

アデルモさんが頷く。

「情報もピザ屋で集めるとしよう。出来れば水龍の現在位置を知っておきたいもんだが・・・」


ピザ・・・初めて聞く食べ物だ。

初めて聞くはずなんだけど、なんだか懐かしい。


あ、これも前世の記憶か。

あーもやもやする。前世の記憶を見るのは夢の中なので、起きると結構忘れてるし、はっきり思い出せないことも多いんだよね。

ピザ、と聞いて思い浮かんだのは真っ赤なソースのかかった具沢山で生地が分厚いやつだ。とてもおいしい、という感想と一緒に思い出された。


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