第九話 クイズ!マグマ・ザ・ダイブ! 後編
『第二ラウンドは書き問題!全員が同じ問題を解いてもらいます』
その言葉と同時に目の前の台が開き、板のようなものとペンのようなものが出てくる。
問題を解けと言っていたな…。
次は何か謎を出されてそれを解けということか…。
前にも謎を解いて進むダンジョンはあったが、あいにく俺は頭を使うのが苦手なんだ。
ずっと仲間任せにしていたことが悔やまれる…!
『第一問!世界で一番長い名前の国は!?正式名称でお答えください!』
む?
これなら考えればわかるぞ。
ファスティア…セカンダム…サーディオ…フォスランド…フィーフティオン…フィーフティオンだ!
自信満々でフィーフティオンと書いたが、他の皆は“グレートブリテン及び北アイルランド連合王国”と書いていた。
…???
なんだ、その国は…。
俺は知らないぞ…?
『残念!6番の椅子だけ下降します!』
ガクンと音を立てて俺の椅子が下降する。
それからも俺だけが次々と間違い続け、俺の椅子がどんどんと下降していった。
こうして第二ラウンドが終了したが、もうマグマが見える位置まで来てしまった。
熱い、汗が止まらない。
「ど、どうするでありますか?このままではあの人が死んでしまいますぞ?」
「どうするって言われても、答えを教えるわけにはいかないし…」
「大体なんであんなできないのが混じってんだよ。クイズの猛者を集めたんじゃなかったのか?」
「なんらかの手違いで紛れ込んでしまったのかもしれませんね…」
「あの…、もし次がさっきみたいな全員解答の問題でないのなら、誰も答えなければあの人の椅子はもう下降しないんじゃ…?」
はるか上空でみんなが何か話しているが、離れすぎていて何も聞こえない。
『…これだから頭のいいヤツは…。お前らは余計なことは考えなくていいんだよ…』
俺の頭上で仮面の魔物が苛立った様子で呟く。
上空でみんなが戦っていて、魔物側が押されているということか!
みんな頑張れ!
すまん、俺は今日だけは無力だ!
『ルールを追加しよう。“誰か一人でも脱落したらゲームクリア”これでやる気になったかな?』
「え!?」
こいつは…、みんなに俺を蹴落として生きろと言っているのか…?
『最終ラウンド、横取りクイズ!答えがわかった方はお手元のボタンを押してご解答ください!正解した人は誰か一人を指名できます!指名された人は椅子が下降します!』
「…!」
しかも、どうやら俺たちの中から誰か一人、ヨコドリクイズが受けたダメージと同等のダメージを受けてしまうらしい…!
俺は勇者だ、俺が受けよう!
今はなんの役にも立たない俺だ。
壁くらいにはなろう!
みんな、俺に気にせず戦ってくれ!
『第一問!日本語に訳すと“よそよそしい態度を取ること”という意味になる、ホームランを放った打者がベンチに戻った際、他の選手がすぐに祝福することなく無視し、しばらくしてからその打者を祝福する行為を何という?』
「サイレントトリートメント!」
『第二問!まるで笑ったり驚いたりしているようにも見える、哺乳類が臭いに反応して唇を引き上げる生理現象を何反応と言う?』
「フレーメン反応!」
『第三問!アルファベットで12番目の文字は何!?』
「L!」
『第四問!将棋の駒の総数は40枚。では、麻雀の牌の総数は?』
「136!」
『第五問!バレーボールにおいて攻撃ができない守備専門のプレイヤーのことを何と言う?』
「リベロ!」
みんなが魔法でヨコドリクイズに攻撃する。
…さっぱりわからない。
聞いたこともない呪文ばかりだ…。
そして仮面の魔物が言った通り、ヨコドリクイズが受けたダメージが俺にも飛んでくる。
よし、みんなちゃんと俺にダメージが来るようにしているみたいだな!
マグマはもう俺の足先まで来ているがそれでいい、それでいいんだ!
「6番の人、どうか許してほしいであります…!」
「すみません、すみません、6番の人…!」
「お前さえ死ねばみんな助かるんだよ…!俺の代わりに死んでくれよ…!」
「あたし死にたくないの…!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
上の方でみんなが何か話しているようだが、聞こえない。
もしかしたら俺にダメージを飛ばすことを申し訳なく思っているのかもしれないが、大丈夫だ。
「だって俺は勇者だから!」
そう口にした瞬間、椅子が下降し、俺はマグマに落ちてしまった。
「~!」
熱い…!熱い!
あまりの熱さに言葉も出ない…!
***
『ダーイブ!6番がマグマにダイブしてしまいました!生き残った皆さん、おめでとうございます!ゲームクリアです!』
「やった…!生き残ったんだ…!」
「これでうちに帰れる…!」
ユシヤがマグマに落ちるとファンファーレが鳴り響き、至極楽しそうに仮面をつけた黒幕はゲーム終了を告げる。
その言葉に生き残った面々は涙を流しながら喜び、安堵の声を上げる。
『では、生き残った皆さんには二回戦に進んでいただきましょう』
「…え?」
黒幕の言葉に喜びの表情が一気に凍り付く。
「や、約束が違うですぞ!」
「さっきのが最終ラウンドだと…!」
「どうなってんだよ!?誰か一人死ねばみんな帰れるんだろ!?」
「あたしたちちゃんとクリアしたじゃない!」
「だったら、私たちはなんのためにあの人を殺したの…!?」
絶望に泣き叫ぶ者、裏切りに激怒する者、自分たちの手で人を殺したことを後悔する者、そんな面々に黒幕は楽しそうに笑った。
『頭がいい癖に人生そんな甘くないと、わからないのかね?最後の一人になるまで君たちにはクイズに挑戦してもらうよ。ハーッハッハッハ!』
「そうはさせない!」
***
『は?』
「マグマに落ちたおかげで鉄が溶けたのさ!」
そう、マグマに落ちたおかげで俺を固定していた鉄が溶け、椅子から脱出することに成功したのだ。
あとは壁に付いていた固い紐(※ワイヤー)をつかんでここまで登ってきたというわけだ。
『いや!鉄が溶けるってことはお前も溶けるだろうが!』
「…何を言ってるんだ?まあ、たしかにかなりのダメージは負ったが…」
*説明しよう!
ユシヤはマグマの中を歩いてもダメージを受けるだけで死にはしないぞ!
【お約束⑦ マグマの中を歩いても即死しない】
【お約束⑧ 何故か装備品は溶けない】
「クイズめ!これ以上みんなに手出しはさせない!」
『え?いや、俺はクイズじゃな…』
盾に思い切り拳を放つ。
魔法の盾はパリンと音を立てて粉々に砕け散った。
「みんな無事か!」
みんなの拘束を解き、一人一人上に引き上げる。
よかった、一人の犠牲も出さずにすんだ…!
「あ…6番の人…」
「俺はユシヤだ」
「ユシヤさん…!ありがとうございます!」
「俺たち、アンタを犠牲に助かろうとしたのに…」
「貴方は命の恩人ですぞ!まさに勇者ですぞ!」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
みんなが俺に感謝する。
やはり俺にダメージを飛ばしていたことを心苦しく思っていたのか…。
しかしあれはいい判断だった!
俺にダメージを飛ばしていたから全員助かったんだ。
みんなの盾になるのも勇者の務めだからな!
めでたしめでたしだ!
『もうあいつ無敵じゃん…』
■今回の生還者一覧■
ユシヤ(自称勇者)
久井豆央(ヨーチューバー)
南 文太(クイズ作家)
大成 海(タレント)
海藤詩弥(女子大生)
早尾志夜(女子高生)
第九話 完
■おまけ情報■
ユシヤはマグマで即死はしないが、歩き続ければ普通に死ぬぞ!
■おまけ情報2■
その後、久井豆央のチャンネルは「勇者は実在した!」「勇者の謎に迫る!」といったオカルト・ファンタジー路線になってチャンネル登録者はかなり減ってしまったが、オカルトファンは増加したようだ。
あの大成海もチャンネル登録しているみたいだぞ。
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
久井豆央(ユーチューバー)…クイズ王
南 文太(クイズ作家)…難問だ
大成 海(タレント)…大正解
海藤詩弥(女子大生)…解答者
早尾志夜(女子高生)…早押しよ