第七話 デス・タワー
俺は勇者ユシヤ。
今回も気が付くと知らない場所にいた。
床は石造りになっており、窓から外を見ると眼下に雲が見えた。
どうやら雲よりも高い塔にいるらしい。
窓の外には同じくらいの高さの塔がもう一つ見える…。
ハッ、そういえば世界のどこかに天空に続く塔があると聞いたことがあるんだが、これがそうなのだろうか…?
「ここどこ…?」
「なんか空気が薄い…」
俺に遅れて目覚めた面々が戸惑った様子で辺りを見渡している。
今回の人数は俺を含めて四人。
きっとまたあいつの仕業なのだろう。
しかしいつもの魔法の盾がない。
特別広くも狭くもない石造りの小部屋。
形は八角形をしているようだ。
壁には七つの窓があり、残る一辺には扉があった。
部屋の中に階段などは見当たらないから、きっとあそこが出口につながっているのだろう。
扉に手をかけてみる。
鍵はかかっていないようだ。
ゆっくりと扉を開くと、そこは外につながっていた。
しかし、あるのは向かいの塔に続く四本の綱だけだった。
『お目覚めかね、諸君。デス・タワーへようこそ』
塔の外側に設置されていた盾に仮面をつけたいつもの魔物が映る。
やっぱりまたこいつか!
毎回毎回こいつは一体何がしたいんだ!
「お兄ちゃん、怖いよ…」
「だ、大丈夫だ、風翔。お兄ちゃんが守ってやるからな」
フウガと呼ばれたまだ年端も行かない子供が、お兄ちゃんと呼ばれた若い男にしがみついている。
こんな小さな子供まで巻き込もうというのか!
なんという外道なんだ!
『残念ながら君たちのいる塔には出口がない。だが、安心したまえ出口はちゃんと用意してある。…その綱の先にな』
「こ、これを渡れというの!?」
「無理だろ!こんなん!」
髪飾りをつけた女と先ほどお兄ちゃんと呼ばれた男が声を上げる。
…ふむ、これを渡ればいいのか。
「よし、じゃあ行くか」
「え!?」
『は!?』
綱の上に足を踏み出し、みんなに声をかける。
しかし何故かみんな驚いた顔で俺を見ている。
…?
俺は何かおかしいことをしたか?
*説明しよう!
ロプーレの塔ダンジョンの一部には塔と塔をつなぐ綱が設置されていて、ユシヤたちは普通にそこを通ることができるぞ!
しかも縄の上で長時間立ち止まったり、道具袋から回復薬を取り出して飲んだり、鎧(装備品)を脱ぎ着したりもできるぞ!
(注意!でも足を踏み外すと普通に落ちるぞ!)
【お約束⑤ 塔と塔をつなぐ縄は冒険者にとってはただの通路】
「いやいやいや!アンタ怖くないのか!?」
「お兄ちゃん怖いよぉ!」
「こんなところを渡るの、私達には無理ですよ!」
そ、そうか、冒険者以外は綱を渡ることができないのか!
自分中心で物事を考えていた。
深く反省しなければ。
俺しか渡ることができないのならば…
「こうするしかないな」
「!?」
子供と髪飾りの女を小脇に抱え、お兄ちゃんと呼ばれた男を背中に背負う。
「お兄ちゃんと呼ばれたキミ」
「き、黄所響です」
「そうか。ではヒビキ、しっかりと俺にしがみついてくれ!」
キドコロ・ヒビキにそう声をかけると俺は綱の上を駆けだした。
「いやああ!走ってるうう!」
「うわああん!お兄ちゃん怖いよおお!」
「俺も怖いいいい!」
小脇に抱えた子供と髪飾りの女が泣き叫び、背負った男の俺にしがみつく手に力が入る。
む、早く向こうの塔に着いた方がみんな喜ぶかと思ったのだが、少し浅はかだったようだ。
『ふ…フフフ、君は高いところが平気だったようだな。少し面食らったが、ユシヤ、貴様もここまでだ!』
「何…!?」
向かいの塔にたどり着いたと思って床に足をついた瞬間、無残にも床が崩れ、俺は空中に放り出された。
「何!?」
「キャアアア!」
『運に見放されたようだな、ユシヤ!正しい綱さえ選んでいればクリアだったんだがなぁ!』
奈落の底に落ちていく俺に仮面の魔物の声が声を上げる。
だから綱が四本あったのか!
こいつは初めから三人は落下させるつもりだったんだな!
『ハーッハッハッハ!ついにユシヤを殺したぞ!私の勝ちだ!』
ダン!
「いやー、こんな高いところから落ちたのは初めてだ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
地上に着地し、俺たちが落ちてきたであろう塔を見上げる。
おー、あんなに高かったのか。最上階が見えないぞ。
【お約束⑥ 塔の最上部から飛び降りてもノーダメージ】
小脇に抱えた二人と背中の男は目を見開いたまま固まっていたが、しばらくしたら小刻みに震え出した。
「風翔、お兄ちゃんもうどんな高いところも平気だと思う…」
「ぼくも…」
「あたしも…」
なんだか悟った目をしている。
よくわからないが、なんの犠牲もなく無事生還できたな!
よかったよかった!
『ねぇ…、どうやったらあいつ死ぬの…?』
■今回の生還者一覧■
ユシヤ(自称勇者)
黄所 響(男子高生)
黄所風翔(小学生)
高井のだめ(女子高生)
第七話 完
■おまけ情報■
ユシヤはどんな高いところから落ちても平気だぞ!
なんなら階段を下りるのが面倒なときはわざと最上階から飛び降りたりもするぞ!
■おまけ情報2■
10年後、黄所響はとび職に、高井のだめはパルクール選手になったぞ!黄所風翔はパイロットを目指して勉強中だ!
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
黄所 響(男子高生)…高所恐怖症
黄所風翔(小学生)…高所恐怖症
高井のだめ(女子高生)…高いのダメ