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第六話 バトルロワイヤル 後編

「ユシヤさん、私、一目見た時からユシヤさんのこと…チョロくて殺しやすそうだなぁって思ってたんですよ!」


 サキ・ツカサの振り上げたナイフが俺の胸元に刺さる。

 しまった、鎧を着ていないからモロに…!

 俺に馬乗りになったサキ・ツカサが、汚いものでも見るように俺を見下ろす。


「私と付き合えると思った!?バッカじゃない?あんなみたいなキモヲタとだーれが付き合うかっつーの!」


 これがあの優しく美しいサキ・ツカサかと思うほどの汚い言葉で俺をののしり、何度も何度も俺にナイフを突き立てた。

 俺の胸元から鮮血が噴き出し、白いベッドを赤く染めていった。


 …ああ、俺は騙されていたということか…。

 そういえばよくパーティの仲間たちにも“ユシヤは騙されやすいんだから気を付けろ”と言われていたな…。

 もっと仲間の言葉は聞いておくべきだったなぁ…。


 そんなことを考えながら、俺の意識は薄れていった―――




 ***




「お、死んだか?ったく、このデカブツ。突き刺しすぎてこっちの手のが疲れたわ」


 ユシヤが動かなかくなったことに気が付いて、佐木司は立ち上がる。

 そしてかつての佐木司とは思えない、恐ろしくゲスな不敵な笑みを浮かべた。


「100億円はこの天才詐欺師、佐木司のもんだからな!」


 体に付いた返り血をシャワーで流し、佐木司は帰ってきたプレイヤーたちにしれっと加わった。

 途中でユシヤに襲われて命からがら逃げてきた、今もユシヤは島のどこかに潜んでいると詐欺師の才を使って言葉巧みにプレイヤーを騙し、それぞれが一人になるよう誘導した。

 そして佐木司は一人、そしてまた一人とプレイヤーを消していった。

 まるでゲームを楽しむかのように…。


 しかし他のプレイヤーもただで殺されるような間抜けばかりではなかった。


「金が欲しいのはこっちも同じなんだよ!」


 潜んでいた他のプレイヤーに反撃され、佐木司は重傷を負う。

 それでも佐木司の目は死んでいなかった。


 血で血を拭う殺し合いが始まった。

 もはやこの島にもう“人間”はいなかった。


 ここにいるのは、全員“悪魔”だった。


『クックック、わかっていたよ、こうなることは。何故ならば金の為ならなんでもできる人間だけを集めたんだからな…。ハーッハッハッハ!』


 モニターを眺めながら黒幕は笑う。

 そう、今回のプレイヤーのほとんどが、何がなんでも金が必要だった。


 ある者は友人の連帯保証人になってしまったがために借金を背負わされていた。

 ある者は寝たきりの母親とまだ幼い妹弟たちを養うための金が必要だった。

 ある者は投資に失敗して莫大な借金を背負っていた。

 ある者は将来を約束したホストをナンバーワンにするための金が必要だった。

 ある者は横領がバレて勤めていた会社をクビになり、返済するための金が必要だった。

 ある者は病気を治すための大金が必要だった。

 ある者は傾きかけた会社を立て直す金が必要だった。

 ある者はギャンブルをやめることができずに借金を繰り返していた。

 ある者は薬物依存症で薬を買う金が必要だった。

 ある者はママ友に自慢したいがために夫の貯金でブランドものを買いあさり、それがバレて離婚目前だった。

 ある者は過去に起こした犯罪をネタに大金を揺すられ続けていた。

 ある者は次々とサイドビジネスに手を出したもののどれも失敗し、莫大な借金を背負っていた。


 例外はユシヤと佐木司の二人だけだった。


 佐木司はただ純粋に金が好きで、金のためなら人を陥れることもいとわない冷酷な心の持ち主だった。

 佐木司が詐欺にかけて陥れた人間の数は数知れず。

 かなりの数の自殺者も出ているが、佐木司は“騙される方が悪い”と罪悪感を覚える事すらなかった。

 むしろ相手が死ぬことで達成感すら覚えていた。

 そんな非人道的なプレイヤーがこの場をひっかきまわすためには必要だった。


 ユシヤは単に“今度こそ殺してやる”という黒幕の意地と私怨で選ばれていた。




 そして惨劇の夜が明けた―――




「ハァ…ハァ…。やった!あたしが最後の一人だ!100億円はあたしのものだ!」


 夜通し殺し合いを続け、最後の一人になった佐木司は勝利の雄たけびを上げる。

 顔も服も赤黒い血がべっとりと付き、この夜がいかに凄惨だったかを物語っていた。


 プツリと音を立てて壁にかけられたモニターの電源が入ると、仮面をつけた魔物の姿が映し出された。


『ゲームクリアおめでとう、司君。砂浜に君専用のプライベートジェットを用意したから行ってみるといい。副賞もその中にある』


 仮面越しでもわかるほどに至極楽しそうにそう告げる。


 安全なモニター越しに人間の醜い部分を見れ、あの憎き不死身のユシヤも葬ることができた。

 これほどすがすがしい気持ちになったことがあったであろうか。

 この高揚感のためなら100億円など安いものだ。


 と、思った瞬間


「おはよう」


 昨日の惨劇などなかったかのように爽やかな顔をしたユシヤが、玄関ホールに姿を現した。




 ***




「!?」


 サキ・ツカサと盾に映し出された魔物が驚いた顔で俺を見ている。


 ?

 なんだ、幽霊でも見たような顔をして。


「って、なんだこれは!?みんなどうしたんだ!?まさか殺し合ったのか…!?」


 クソッ!俺が宿屋で寝ている間にこんなことになるとは…!

 勇者としてあるまじき失態だ…!


「え?いや、え?なんで生きてるの?」

『お、お前アイツを殺したんじゃなかったのか!?』

「殺したよ!あんだけ血が出てたのお前もカメラ越しに見ただろ!?」


 サキ・ツカサと盾に映し出された魔物が何やら揉めているが、今は二人に構っている場合じゃない!


*説明しよう!

 HPが1でも残っている状態で宿屋に泊まればユシヤのHPは全回復するぞ!

【お約束③ 宿屋に泊まれば全回復】


「みんな、しっかりしろ!」


 血だまりの中に倒れているフジノヤ・マイを抱き起す。

 こんなに血が…。


「無駄だよ、みーんな出血多量で死んでるから」


 サキ・ツカサが舌を出して真っ赤に染まったナイフを舐める。

 サキ・ツカサがみんなを…。

 俺は、サキ・ツカサに騙されていたのか…。


「クソッ!ロプーレの民を救えずして何が勇者だ!俺は勇者失格だ!」

「えー、こんなときまで勇者ごっこしてんだけど…」

『えー、人が死んでるのに不謹慎ー…』


 しかし俺は気づいた。

 みんなHP1で瀕死状態にあるだけだった。


「早く!これを飲むんだ!」


 腰に下げた道具袋から回復薬を取り出し、瀕死状態だったみんなの口に流し込む。

 するとみんなの頬に赤みが戻り、みるみるうちに体の傷がふさがっていく。


【お約束④ どんな瀕死でも回復薬で回復】


「は!?」

『いや何それ!?』


「う…、私何を…」

「ここは天国か…?あー、親父に会えっかなー…」

「ううっ、ごめん!社員のみんな…!助けられなかった…!」

「違う…、ここは天国じゃありませんよ…!私たち生きてます…!」


 みんながゆっくりと体を起こす。

 よかった…!回復薬を持っていてよかった!


「え…?あれ?体が軽い…!私、不治の病だったのに…!」

「ほら、やっぱり天国なんだって。死んだから病気もなくなったんだろ」

「ハッ、地獄かもしれないぞ」


 フジノヤ・マイが胸元をおさえて驚いた顔で辺りを見渡す。


「ああ、上級回復薬だからステータス異常を治す効果もあるぞ」

「!?」


 みんなが驚いた顔で俺を見ている。

 …?

 俺はそんなに変なことを言ったか?


「貴方は医者だったんですか…!?ありがとうございます!ありがとうございます!」


 フジノヤ・マイが泣きながら俺の手を握り、何度も何度も頭を下げる。


「え!?アンタが俺たちを助けてくれたんスか!?」


 ヒノ・クルマが驚いた顔で俺を見ている。


「そうね、生きていればなんとかなるわよね…。私、もう少し会社のために頑張ってみるわ!」


 チカマ・ミフユは何かを決意したようだ。


「私も頑張ります!ありがとうございますユシヤさん!」


 ガモウ・シノブが希望を宿した強い目でそう感謝の言葉を口にする。


「俺もうギャンブルやめるよ!」

「俺ももう薬に手は出さねぇ、まっとうに生きる!」

「あーしも目が覚めた。№1になったら結婚しようなんてもう信じない、あーし、ホスト卒業する!」


 トバミヤ・ケイとイムラ・ショウ、ホズミ・トライが、憑き物が落ちたような晴れやかな顔で声を上げる。


「もう俺に失うもんは何もねぇんだ。生まれ変わったと思って人生やり直してみるよ」


 ブ・フミヒトもかつての生気を失った目ではなく、未来に希望を宿したような光の灯った目でそう言う。


「私、旦那と話し合ってみます。もう遅いかもしれないんですが、くだらないプライドよりも旦那の方が大切だって気づいたんです…」


 ミツコシ・シュリが目に涙を浮かべながら微笑む。


「借金はこつこつ働いて返すことにします。誰かを傷つけてまで自分が幸せになろうなんて、華道の教えに反しますから」


 カネイエ・ミヤコが自分の犯した過ちを反省し、深々と頭を下げる。


「俺、戻ったら自首する。元はと言えば俺が悪かったんだ。罪を償って、また一から出直すよ」


 ウミハラ・タケシは真剣な表情で真っ直ぐに俺を見てそう言った。


「あたしも…もっと真っ直ぐに、これからは女優一筋で生きることにする。やっぱり、あたしはこの仕事が好きだから」


 チタニ・サコトが過去の自分を懐かしむように遠い目をしながらつぶやくようにそう言う。


 それから、生き残ったみんなで砂浜にあった空飛ぶ魔法の鉄塊で島から脱出した。

 サキ・ツカサは帰ったら自警団に引き渡すらしく、さるぐつわをされてロープで手足を縛られていた。

 中にあった紙切れはただの紙切れではなく、フジノヤ・マイたちのいる街で使える通貨らしい。

 まさかロプーレに通貨の違う街があるとは思わなかった。

 しかしロプーレはとても広いから、独自の発展を遂げる街があってもおかしくはない。

 そう思えばみんなが変わった格好をしている理由もわかる。


 紙切れ…円というらしい、は是非全て俺にと言われたが、勇者として当たり前のことをしただけなので断った。

 それでもと、無理やり束になった円をいくつか道具袋に入れられてしまったが。

 残りはサキ・ツカサ以外のみんなで分けるようだ。

 サキ・ツカサは納得がいかないらしく、うーうーうなっていた。


 とりあえず、一件落着だな!

 めでたしめでたしだ!


『ユシヤめ…。今度こそ、今度こそあいつを殺す…!』



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

佐木さき つかさ(保育士)

浦生がもう しのぶ(介護士)

日野来馬ひの くるま(土木作業員)

金家かねいえ みやこ(華道家)

保栖ほずみ 十来衣とらい(サービス業)

 文一ふみひと(無職)

藤ノ谷(ふじのや)マイ(女子高生)

近間三冬ちかま みふゆ(会社経営)

鳥羽宮とばみや けい(フリーター)

伊村いむら しょう(トラック運転手)

三越春璃みつこし しゅり(主婦)

海原うみはら たけし(野球選手)

地谷沙琴ちたに さこと(女優)



第六話 完


■おまけ情報■

ユシヤが眠って全回復するにはベッドや寝袋などが必要なので、道端で気絶した場合は回復しないぞ!


■おまけ情報2■

その後、藤ノ谷マイはユシヤのような医者になるために医学部に進学、保栖十来衣はキャバ嬢をやめて大学に通い始め、近間三冬の会社は持ち直し、三越春璃は旦那とやり直し、海原猛は過去に犯した罪を自白し、地谷沙琴が海原猛のゴシップを流すかのように莫大な借金があったことを公言して大いに週刊誌を賑わわせたぞ!

その他のみんなもギャンブルやドラッグをやめたり借金を返済したりしてまっとうに生きているぞ!

佐木司は絶賛服役中だ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

佐木さき つかさ(詐欺師)…詐欺師

浦生がもう しのぶ(介護士)…保証人

日野来馬ひの くるま(土木作業員)…火の車

金家かねいえ みやこ(華道家)…金欠

保栖 十来衣ほずみ とらい)(サービス業)…ホスト狂い

 文一ふみひと(無職)…無一文

藤ノ谷(ふじのや)マイ(女子高生)…不治の病

近間三冬ちかま みふゆ(会社経営)…倒産間近

鳥羽宮とばみや けい(フリーター)…賭博狂

伊村いむら しょう(トラック運転手)…依存症

三越春璃みつこし しゅり(主婦)…見栄っ張り

海原うみはら たけし(野球選手)…もう限界

地谷沙琴ちたに さこと(女優)…借金地獄


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