第五話 バトルロワイヤル 中編
あれから全員で島の中心部にある宿屋に移動し、互いに自己紹介をした。
「浦生忍です。介護士をやってます」
モノクルに似た何か…メガネというらしい、をつけた黒髪の女がガモウ・シノブだ。
そういえばみんな俺が今まで見たことがないような変わった格好をしているし、王都では今そういうのが流行っているんだろう。
「日野来馬っス。土木作業員やってるんで体力には自信があるっス」
頭に白い布…タオルというものらしい、を巻いた赤い髪の男がヒノ・クルマだ。
「金家都と申します。生け花を嗜んでおります」
異彩を放つ恰好…キモノというらしい、の中年の女がカネイエ・ミヤコだ。
「アタシは保栖十来衣デース。キャバ嬢やってマース」
ウェーブがかった茶色い髪の派手な女がホズミ・トライだ。
「…武 文一だ。さっきは悪かったな」
無精ひげの中年の男がブ・フミヒト。
さっき俺と一悶着あった男だ。
「藤ノ谷マイです。…学生です」
黒い髪を三つ編みにした白い肌の若い女がフジノヤ・マイ。
「近間三冬よ。チカマフーズの社長をやってるわ」
白髪混じりの短い髪の中年の女がチカマ・ミフユ。
「鳥羽宮京だ。まあ、いろんなバイトで食いつないでる」
ボサボサの髪を後ろでひとつに結った若い男がトバミヤ・ケイ。
「伊村翔だ。トラックの運転手をしてる。昼夜問わず飛び回ってるぜ」
首にタオルをかけたガタイのいい中年の男がイムラ・ショウ。
「三越春璃です。主婦です」
にこにこ笑っている茶色の髪の女がミツコシ・シュリ。
「知ってる人もいるかもしれないが、海原猛だ。東京パンサーズで野球をやってる」
長身で筋肉質の短髪の男がウミハラ・タケシ。
どうやら著名人のようで、“あの海原選手…?”と周りがざわついていた。
トーキョーパンサーズ…?
俺は知らないが王都で有名なギルドだろうか。
筋肉の付き方も他の者とは違うし、さぞ名のある戦士に違いない。
「地谷沙琴。女優よ」
肩までの茶色い髪をした整った顔立ちの女がチタニ・サコト。
彼女も著名人のようで、“すごい、本物の地谷沙琴だ…”と周りがざわついていた。
いかん、魔王討伐後はずっと田舎にいたものだから今の王都のことがさっぱりわからない…。
「佐木司です。神奈川で保育士をやってます」
そして先ほどの長い黒髪の女性がサキ・ツカサ。
ホイクシ…魔導士のようなものだろうか。
ヒーラーではなかったのか。
カナガワとはいったいどんなギルドなんだろうか。
気になるな。
い、いや、けしてやましい気持ちではなく…。
「俺はユシヤ、勇者だ」
「は?」
「え?」
俺の言葉にみんながざわついている。
しまった、ウミハラ・タケシやチタニ・サコトのように驚かせてしまったか。
「そういや変な恰好してるな。あー、コスプレか」
「いやそれどう見てもぬののふくっしょ。レイヤーならもっと勇者らしい恰好すればいいのに」
ヒノ・クルマとホズミ・トライがいぶかしげな目で俺を見る。
違った。
ウミハラ・タケシやチタニ・サコトのように著名人がここにいるとざわつかれているのではなく、どうやら勇者の名を騙る不届き者がいるということでざわつかれていたようだ。
いや、勇者だって旅に出るとき以外は鎧や兜は身に着けないぞ。
なんていうのも言い訳くさいな…。
「あー、すまん。実はただの村人だ」
「いやいや村人のコスって斬新すぎるっしょー!」
俺が頭を下げるとホズミ・トライが背をのけぞらせて大笑いする。
そんなに笑うことだろうか…。
しかし、寂しいものだな。
魔王を倒し、凱旋した時は世界中のみんなから祝福されたが、みんなもう俺の顔を覚えていないのか。
長い年月が経てばどんな功績も人々の記憶からは消え失せてしまう、ということか。
だが俺は感謝されたくて勇者をやっているわけじゃない。
俺のことを忘れたということはロプーレが平和になったということだ。
喜ぼうじゃないか。
って、待て、しかし今はもう平和ではない!
また新たな魔王が産まれてしまったんだった!
今度こそデスゲームを倒し、そしてそのデスゲームの裏にいるであろう魔王を倒す!
ひとつ不安があるとしたら今回はパーティの仲間がいないということだ。
俺は魔法が使えないから、できれば魔導士かヒーラーがいてくれたら…。
…サキ・ツカサのような…。
い、いや、下心があるわけではなく、俺はサキ・ツカサの腕を見込んでだな…。
「そういやちょうど全員分の部屋があったな。中にはユニットバスとトイレもあったぞ」
「俺の部屋よりも立派だったわ!」
「水もお湯もダイジョーブだったよー」
「倉庫に大量の保存食もありましたよ」
「あの仮面の男が言う通りライフラインは問題ないようだな」
自己紹介の後、宿屋で見つけたものを口々に報告する。
俺の知らない単語が沢山でてきて多少混乱したが、当分の生活には問題ないということらしい。
しかしいつまでもこんなところにいるわけにはいかない。
こうしている間にも魔王の侵略の手は伸びているのかもしれないのだから。
「絶対に全員でこの島から脱出しましょうね!船か何かがあるかもしれませんし、3人ずつ5組に分かれて島を探索しましょう。何か見つけたらこのホテルに戻って報告しましょう!」
サキ・ツカサが両手で拳をつくり、身を乗り出すようにして全員にそう告げる。
うん!俺もそう思っていたところだ!
「オイ、俺たちは14人だぞ。1組は2人になっちまう」
が、ブ・フミヒトはせっかくの前向きな言葉に水を差してきた。
む…、ブ・フミヒトは少し言葉がきついな。
サキ・ツカサが委縮しなければいいんだが…。
「私はユシヤさんと回ります。私を守ってくださいね、ユシヤさん!」
俺の目をじっと見つめ、サキ・ツカサは俺の腕に抱き着く。
ドキリと心臓が高鳴る。
い、意外と積極的なんだな。
これは、もしかしてサキ・ツカサも俺のことを…?
「…そういうことか。じゃあ残りはくじ引きで決めるか…」
こうして5組に分かれた…のだが、今、俺は何故かサキ・ツカサの部屋にいる。
…探索は!?
「み、みんなは島の探索にいったようだが、俺たちは行かないのか?」
「その前にユシヤさんに見てもらいたいものがあって…」
そういうとサキ・ツカサは扉に鍵をかけた。
見てもらいたいもの…?
一体なんのことかと首を傾げていると、サキ・ツカサは着ている服を脱ぎ始めた。
って、な!?
「な、何をしているんだ!?」
予想だにしなかったサキ・ツカサの行動に後退りし、声を上げる。
そ、そういうことなのか…!?
「…実は5組に分かれるって言ったの、わざとなんです。ユシヤさんと二人になりたくて…」
着ているものを全て脱ぎ捨てると、産まれたままの姿になったサキ・ツカサが俺にゆっくりと近づいてきた。
や、やっぱり、そういうことなのか!
だ、だがちょっと早すぎないか…!?
俺はまだサキ・ツカサに好きだと言っていない…!
こういうときどうしたらいいんだ?
恥ずかしい話、ずっと戦いに明け暮れていたから俺はこういうことには疎いんだ…!
じりじりとサキ・ツカサが近づき、俺は逃げるように後ろに下がる。
何かが足元にぶつかり、そのまま俺は後ろに倒れ込んだ。
背中にふかふかとしたものを感じる。
どうやらサキ・ツカサのベッドに倒れ込んでしまったようだ。
「ユシヤさん、私、一目見た時からユシヤさんのこと…」
ドクン。
ドクン。
心臓が早鐘を打つ。
だ、ダメだ、断らなければ。
俺には魔王を討つという使命がある。
今は恋愛にかまけている場合じゃないんだ…!
「チョロくて殺しやすそうだなぁって思ってたんですよ!」
そう言うと同時にサキ・ツカサは俺の胸元にナイフを突き立てた。
■プレイヤー一覧■
ユシヤ(自称勇者)…DEAD?
佐木 司(保育士)
浦生 忍(介護士)
日野来馬(土木作業員)
金家 都(華道家)
保栖 十来衣(サービス業)
武 文一(無職)
藤ノ谷マイ(女子高生)
近間三冬(会社経営)
鳥羽宮 京(フリーター)
伊村 翔(トラック運転手)
三越春璃(主婦)
海原 猛(野球選手)
地谷沙琴(女優)
第五話 完