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第三十話 ボスラッシュ~VS海神~

 俺は勇者ユシヤ。

 ヒプノ死ストへの怒りを込めながら力強く鉄扉を開けると、また同じ構造の部屋が現れた。

 しかし今までと一点違っていたことは、部屋の中央に大きな水たまりのようなものがあったことだった。

 向こうの鉄扉の上にある魔法の盾は何も映していない…。


 罠かもしれないと思いつつ水たまりに近づく。

 近づいてみてわかったが、意外と深いということだ。

 水たまりではなく泉だったようで、無数の魚が悠々と泳いでいた。

 しかも泉の傍にはおあつらえ向きに釣り竿と魚用のエサが置いてある。


 ………うずうずしてきた。


 釣り竿を手にすると、俺は慣れた手つきで針にエサをつけて泉に釣り糸を垂らした。


【お約束52 ゲーム中で釣りができる】


 早速魚がかかったようだ。

 浮きがピクピクと動いている。

 こう見えても釣りには自信があるんだ。

 もっとしっかり魚が食いついてから…。


「ここだ!」


 そう声を上げて勢いよく竿を引く。

 魚が暴れ回り、水しぶきがかかる。

 しっかりと魚が餌に食いついた瞬間、竿を引き上げた。


「フナだ!」


【お約束53 現実とはかけ離れた設定のファンタジーでも、釣れる魚は現実に存在している魚だったりする】


 ふふ、俺の腕も鈍っていないようだな。

 懐かしいなぁ、つい魔王そっちのけで釣りに夢中になっていたことがあったなぁ。


【お約束54 どんなに危機が迫っている時に釣りやカジノに明け暮れても、取り返しがつかなくなったりはしない】


 おっと、魚袋がないから魚がしまえないな…。

 仕方ないからこのフナは逃がすか。


【お約束55 釣った魚は道具袋のようなものにしまわれるが、道具袋同様、大量の魚を入れることができる。また、エサをやらなくても世話をしなくても生き続けるし、魚同士で共食いすることもない】


 しかし楽しくなってきたな。

 あとちょっとだけ遊ばせてもらうか。


 なんてことを考えながら再び釣り糸を垂らす。

 まったりしていると、突然泉に引っ張り込まれるかのようにグンと強く糸が引かれた。


 こ、これはすごい大物のようだ…!

 なんだろう?

 イトウか?ピラルクか?


 力を込めて竿を引き上げると、そこにかかっていたのは魚ではなく、魚によく似た魔物だった。


「な!?わ、罠だったのか!」

『引っかかったねユシヤ!』


 魔物を釣り上げると同時に魔法の盾が変な仮面を付けた女を映し出した。


 えーと、あれは…“ごうかきゃくせんくるうず”の船長だ!

 いやー、あの時は魔物に襲われるというトラブルもあったけど楽しかったなー。

 あれ?でもなんで魔法の盾が“ごうかきゃくせんくるうず”の船長を映し出してるんだ?


『…やっぱり、なんでか知らないけどアンタが傍にいるとウチの子たちは水の外でも動けるらしいね…。まあいい!今回はそれを逆手に取らせてもらうよ!』


 “ごうかきゃくせんくるうず”の船長がバッと手を上げると同時に、泉の中から魚やタコによく似た魔物が飛び出した。


「ま、まさかお前もクロマクなのか!?」

『今更何言ってんだい!当然だろッ!』


 そんな!ちょっと変な恰好はしてるけど、優しい人だと思っていたのに!


『アタシは水のある場所ならいくらでも魔物を召喚できるのさ!いくらアンタが強くても何千何万の魔物相手にどこまでヤれる見ものだね!?』


 な、何千何万だって!?

 くそ!俺にできることは戦うだけだ!

 何千何万でてきたって全部倒してやる!


*キラーフィッシュが あらわれた!

*マッドオクトパスが あらわれた!

*デスヒトデが あらわれた!

*人食い鮫が あらわれた!


 変な仮面のクロマクの言った通り、次々と泉から魔物が飛び出す。


 …ん?

 ちょっと待て、あの魔物たちの大きさに対してこの部屋の大きさ…。

 何千何万と出てきたら俺はこいつらに押しつぶされてしまうんじゃないか…!?


『気づいたかい!?アタシのしもべたちに押しつぶされて死んじまいな!さあおいでアタシのしもべたち!』


 まずい!ここは一度退却しないと!


 慌てて奥の鉄扉に向かって走ったが、扉には鍵がかかっていて引いても押しても開きそうにもなかった。


 くそ!逃げる方向を間違えた!

 このままでは俺は魔物たちに押しつぶされて、死…!


*しかし なかまは あらわれなかった!


「ん?」

『ん?』


 すごい勢いで泉から魔物が飛び出していたが、4匹で止まってしまったぞ…?


『あれ!?どうしたんだい!?早く出てきな!』


*しかし なかまは あらわれなかった!


【お約束56 一度に出てくるモンスターは小型なら8匹くらい、中型なら4匹くらい、大型なら2匹くらい、と、画面に表示される数まで】


「フッフッフ、そうか…」


 わかったぞ、わかってしまったぞ。


『なんだい!?何がわかったってんだい!?』

「お前、魔物をこきつかいすぎたせいで魔物に嫌われたんだな!?」

『な…!?』


 変な仮面のクロマクをビシッと指差し、声高にそう言い放った。


 そうだ、そうに違いない!

 このクロマクは魔物使いなのだろうが、魔物使いが魔物を使役することができなくなったらおしまいだ!


『そ、そんな、嘘だろ…?』


 仮面で表情は読めないが、ショックを受けているようだ。

 ちょっと可哀想な気もするが、現実はちゃんと受け止めてもらわなきゃな。


 肩を落として嘆く変な仮面のクロマクを眺めていると、俺の背後でガチャリと鍵が開く音がした。


 そうか、変な仮面のクロマクの心が折れてしまったから鍵を解除してくれたんだな。

 よし、次の部屋に向かわせてもらおう!


『毎日ちゃんと散歩もさせてるし、病気にならないよう水の中も綺麗に掃除してるし、人間もいっぱい食わせてやったのになんで…!』


 多分最後のがダメだったんじゃないかなぁ…。

 なんてツッコミを心の中で入れながら、次の部屋へ続く鉄扉を開いた。



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)



第三十話 完

■おまけ情報■

ユシヤは釣り竿一本でなんでも釣り上げることができるぞ!

メダカやアジから、果てにはジンベエザメまで釣り上げてしまうぞ!

ちなみにジンベエザメの重さは最大約35tだ!

それを釣り竿一本で釣り上げるぞ!

そんなことが当たり前にできてしまうのもRPGのお約束だぞ!


■おまけ情報2■

自分がしもべたちをないがしろにしてきたことに気付いた“海神”は黒幕を引退し、水族館を始めたぞ!

心を入れ替えた“海神”の愛溢れる飼育に魚たちはより一層生き生きし、ちょっと変わった珍しい魚が見られるということで水族館は盛況しているらしいぞ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者


亀波愛羽かめなみ あいは(黒幕:海神)…カメハメハ


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