第二十八話 ボスラッシュ~VSハカセ~
俺は勇者ユシヤ。
とんがり帽子のクロマクの想いに答えられなかったことに心を痛めながらも、次の部屋へとやってきた。
先ほどの広く薄暗い部屋とつながっており、この部屋も先ほどとまったく同じ構造をしている。
今入ってきた扉の直線上に大きな鉄の扉があり、その上には魔法の盾…。
先ほどと唯一違う点は、魔法の盾が映し出しているのが厚い眼鏡をかけ白衣を着たやせこけた男だということだけだった。
『“魔女”を倒したようだな、ユシヤ!なかなか運のいいヤツだ!だがキミの悪運もここまでだ!』
あいつも見たことがあるぞ…。
たしか…
「ゾンビ化の術を使うクロマクだな!」
『おや覚えていてくれたのかい?それはとても幸栄だな!ヒーッヒッヒッヒ!』
今度は俺一人だ…。
ということは俺をゾンビ化させるつもりか?
俺がゾンビ化したところでここには俺以外に誰もいない。
俺が誰かを襲って殺してしまうということはないが、ゾンビ化したら俺は自分をコントロールできなくなってしまう…。
やはり足止めか!
俺をゾンビ化させて足止めし、その間にロプーレを征服しようとしてるんだな!
『何を考えているのか知らないが、お前にゾンビは効かないことがわかったから今度は違うモンスターを用意したよ』
ん?そうなのか?
俺にもゾンビ化は効くんだが、まあいい。
モンスターと言ったな…。
一体どんなモンスターが現れるんだ…?
『いでよ!ワタシの最高傑作!バーサーカー!』
奥の鉄扉が開くと、血管が浮き出るほどに筋肉が盛り上がり、目は白目を剥いてよだれをダラダラと垂れ流した三体のモンスターが現れた。
両手足には手枷と足枷がされており、それを引きちぎろうと暴れているようだ。
三体とも頭に機械みたいなものをつけているが、あれはなんだ…?
そ、それにしてもなんてでかくて強そうなモンスターなんだ…。
特に一番でかいモンスターは俺の5倍はありそうだ…!
だが勇者がひるむわけにはいかない!
「先手必…!」
『待てユシヤ!まだバーサーカーの拘束を解いてないだろ!卑怯者め!』
う、俺を足止めしてロプーレを征服しようとしている卑怯者に卑怯者と言われてしまった…。
『戦いの前に説明しておこう。今からコイツらの拘束を解く。コイツらから見事生き延びることができればユシヤ、キミの勝ちだ!ちなみに…』
張りぼての剣を構えたまま、バーサーカーたちから目を離さずに眼鏡のクロマクの話に耳を傾ける。
それが説明なのか…?
普通の戦いと一緒じゃないか。
一体なんでわざわざそんなことを…。
『ソイツらは人間だ。ワタシの発明した人体改造マシーンで実験体の筋肉を何十倍にも増強することに成功したのだよ。今やコイツらは目の前のものをただひたすらに破壊しつくすことしか考えられなくなったモンスターだ!ユシヤ、キミに人間を殺せるかな!?ヒーッヒッヒッヒ!』
な…んだって…?
このバカでかいモンスターが人間…?
『さあ行け!ワタシの最高傑作たちよ!ユシヤを殺せ!』
眼鏡のクロマクが何か押したと思うとバーサーカーたちを拘束していた手枷足枷が外れ、大地を響かせるほどの咆哮を上げながら俺の方へと走ってきた。
素早い!
でかいモンスターは攻撃力が高い代わりに素早さが低いのが定石だと思っていたが…こいつは攻撃力も素早さも桁違いだ!
まあ俺のHPは999999あるから当たっても死ぬことはないだろうが、このまま逃げ続けていてもらちが明かない…!
『そうだユシヤ、ひとつ話をしてやろうか。とあるところに仲のいい家族が旅行に出かけたそうだ。しかし哀れな家族は道に迷い、もう間もなくガソリンも尽きようとしていた』
いきなりどうした…!?
俺は今戦闘中だぞ…!?
あとがそりんってなんだ…!?
『季節は冬、外は雪、寒さと不安でぐずりはじめる後部座席の幼い娘…。このままでは凍死してしまいそうだった。そんなとき目に飛び込んできたのは古ぼけた館だった。家族は助かったと思い一晩泊めてくださいと館のドアをノックする…』
怖い話か!?
今はそれどころじゃないって見てわかるだろう!
それとも俺の気を散らそうという作戦か!?
と、バーサーカーたちの攻撃を避けながら心の中でツッコミを入れる。
『それが、ワタシの研究所だったのだよ』
…ん?
待て、話の流れが変わったぞ。
まさか…。
『そう!そのバーサーカーたちは仲良し家族のなれの果てなのだよ!楽しいはずの旅行がこんなことになるとは可哀想になぁ!ヒーッヒッヒッヒ!』
「な…なんてことを!お前、自分のやったことがわかってるのか!?」
眼鏡のクロマクは心から楽しそうに笑っている。
なんて残虐非道な…!
人間のやることじゃない!
いや、こいつは魔物だった!
俺を好きになってくれたとんがり帽子のクロマクとは分かり合えるような気がしたが、所詮魔物は魔物なのか…!!
(“魔女”談:好きになってないわよ)
『なーんにも悪いことはしていない、善良に生きてきた家族だ。どうするユシヤ!?そんな家族をお前に殺せるか!?まあ化け物として生き続けるよりも家族全員一緒に死ねるならソイツらも幸せかもしれんがなぁ!ヒーッヒッヒッヒ!』
プツリ。
俺の堪忍袋の緒が切れた音がした。
お前だけは許せない、眼鏡のクロマク!
『お?お?殺すのか?だったらお前も今日から人殺しだぞ!』
「俺が狙うのは、ここだー!」
壁を蹴ってバーサーカーたちの高さまで飛び上がると、バーサーカーの頭についている機械へと張りぼての剣を振り下ろす。
ミシミシという音がしたかと思うと機械は粉々に砕け散った。
『な、何を無駄なことを…。装置を破壊したところで体は元には…』
機械が砕け散ると同時にバーサーカーの体がしぼみ、みるみるうちにバーサーカーたちは若い夫婦と幼い子供の姿へと戻った。
慌てて駆け寄り子供を抱き起すと、子供はゆっくりと目を開いた。
「…パパ…?ママ…?」
「よかった…、もう大丈夫だ!」
よかった、ちゃんと元に戻っている!
子供が目を覚ましたことにホッとしていると、子供に遅れて両親も目を覚ましたようで、両親がうめき声を上げながら体を震わせている。
「うう…ハッ、メモルは!?メモル!?」
「メモル!!」
両親がこちらに駆け寄り、俺の手から奪い取るように子供を抱き寄せ、子供が無事とわかると安堵の涙を流し始めた。
『は!?なんで!?どういう仕組み!?』
「前にも似たような敵と戦ったことがあったんだ。あのときももうダメだと思ったんだが、仲間の機転で人間に寄生した魔物だけを倒して寄生された人を助けることができたんだ!」
【お約束㊽ 一見村を助けるためにモンスターに寄生された村人を殺さなくてはいけない胸糞イベントに見えるが、カーソルを動かすことで人間に寄生したモンスターだけを倒せる初見殺しなマルチイベントがあったりする】
「さて…、眼鏡のクロマク、覚悟はできているな?俺は本気で怒ってるんだ。地の果てまでも追いかけてお前を退治してやる」
『ひ、ヒィイイ!ごめんなさい!もう研究とかやめます!心を入れ替えます!ごめんなさい!ごめんなさい!』
抱き合いながら涙を流す親子に向けていた優しい表情を一転させ、魔法の盾に映る眼鏡のクロマクを睨みつけると低い声でそう告げると、眼鏡のクロマクは顔色を青くして早口でそうまくし立て、逃げるように魔法の盾に映し出していた映像を消した。
あ!逃げたな!
クソ!絶対にあいつだけは退治してやる!
魔法の盾から眼鏡のクロマクが消えたと同時に、バーサーカー…いや、家族が出てきた扉の方からガチャンという音がした。
どうやら鍵が開いたらしい。
三番目の部屋か…。
次は一体誰が出てくるんだ…?
次の戦いに向けて俺は顔を上げ、一歩踏み出した。
でも忘れてないからな!
デスゲームを倒したら次は眼鏡のクロマクだからな!
■今回の生還者一覧■
ユシヤ(自称勇者)
河辺 太(営業マン)
河辺豊世(専業主婦)
河辺メモル(幼稚園児)
第二十八話 完
■おまけ情報■
無事生還した河辺一家だったが、バーサーカーと化していた時の記憶が残っていたために娘のメモルが将来は勇者になると宣言して両親はほとほと困っているぞ!
毎日壁を蹴ってジャンプする練習をしているので新築の壁はもうボロボロだぞ!
■おまけ情報2■
ユシヤの報復を恐れた“ハカセ”は黒幕を引退し、山奥に引きこもったぞ!
山の中で自給自足をしながら、いつユシヤが自分を倒しに来るのか毎日怯えながら過ごしているぞ!
たまーに登山者に目撃されることがあるのだが、「あの山には仙人が住んでいる」と一部で噂になっているようだぞ!
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
河辺 太(営業マン)…変化+メタモルフォーゼ
河辺豊世(専業主婦)…変化+メタモルフォーゼ
河辺メモル(幼稚園児)…変化+メタモルフォーゼ
鏡 博志(黒幕:ハカセ)…狂博士(狂った博士)




