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第三話 猛毒ロシアンルーレット

 俺は勇者ユシヤ。

 魔王のアジトから脱出したはずなのだが、気が付くと不気味な館に囚われていた。


「どこ、ここ…?」

「え?え?私学校から帰ってる途中だったはずなんだけど…」

「オイ!ドアに鍵がかかってるぞ!」

「なんだこの窓!板が打ち付けてあるぞ!」

「私たち、閉じ込められた…?」


 魔王のアジトに囚われたときと同じように、混乱した様子の数人の男女が不安を口にしている。

 しかし板くらいなら素手ではがせるだろう。

 窓の板に手を伸ばした瞬間、聞いた事のある声が館に響いた。


『ようこそ諸君。本日は晩餐会にお集まりいただき、誠にありがとう』


 この声は…あの時の盾に擬態した魔物!

 あの時はデスゲームという魔物に挑んでもらうとか言いながら、結局どこにもデスゲームはいなかった…。

 どうやら逃げられてしまったようだ。

 だが、今度こそ仕留めてやる!


『隣の部屋に夕食を用意した。好きな席についてくれ』


 そう言うと同時に盾から顔は消え、ギイと音を立てて扉が開いた。

 隣の部屋は暗くてここからではよく見えない。


 俺は勇者だ。

 ここは俺が先導するべきだろう。


 隣の部屋に足を踏み入れると、一瞬で灯がついた。

 ライトニングの魔法か…!


 一歩踏み込んだそこは大広間で、大理石の柱にシャンデリア、真っ赤な絨毯が俺の目に飛び込んできた。

 大広間の中央には白い机があり、いかにも作り立てといった湯気をたてた6人分の豪華な料理が並べられていた。


 とてもうまそうではあるが、明らかに罠だ…!


 俺に何もないとわかると、残された面々も大広間に入ってきた。


「何ここ…?」

「こんな怪しいもん食えるわけねーだろ…!」

「でもすごく美味しそう…」


 太った男がふらふらと前に出ると席に着き、俺たちがとめる暇もなく料理を口に運び始めた。


「オイ!やめろ!」

「何これ!すごく美味しいよ!こんなの食べたことない!」


 太った男の右手をつかんで食事の手を止めようとしたが、今度は左手で料理をわしづかみにしてなおも食べることをやめようとしない。


 なんだこれは…!?

 中毒性のある毒物でも入っているのか!?


「うっ」


 太った男が突然食べる手をとめ、左手で胸元をおさえる。

 やはり毒か!


「キャー!」


 太った男の様子を見て髪をふたつに結った女が叫ぶ。

 まずい、みんなが混乱してしまう!

 なんとか落ち着かせないと…!


 太った男の右腕から手を放し、振り返ったと同時に太った男は机に置かれた水をすごい勢いで喉に流し込んだ。


「はー、死ぬかと思った。喉に詰まっちゃった」


 どうやら毒物を飲んだわけではなく、ただ単に食べ物を喉に詰まらせただけらしい。

 まったく、人騒がせな…。


 しかし、喉に詰まらせた以外は苦しんでいる様子もない。

 本当にただ俺たちに料理を振る舞おうとしているのか…?

 いや、そんなわけがない…!


 ぐう。


 やけにうまそうな料理を前に思考を巡らせていると、後ろから大きな音が聞こえた。

 振り返ると髪をふたつに結った女が顔を赤らめている。

 どうやら腹の音だったらしい。


「な、なんかおなかすいちゃった…」

「そういえば俺もなんかすごく腹減ってる…」

「いつから閉じ込められてるのかわからないもんね…」

「なんか大丈夫そうだし食ってみるか…?」


 口々にそう言い、席に着こうとする。


 な、なんということだ。

 まだ安全かどうかもわからないのに、こんな怪しいものを食おうというのか!


「待て!俺が毒見をする!」


 席に着こうとしたみんなを押しのけ、料理に手を伸ばす。

 そして骨の付いた肉をかじった瞬間…


「うっ」

「オイオイ、アンタも喉詰まらせたのかよ」


 金髪の男が俺を見て笑うが、その笑顔はすぐに凍り付いてしまった。


 俺の口元からタラリと血が垂れる。

 だんだんと顔色も青くなっていくのが自分でもわかる。


 毒だ。


「やっぱり毒じゃん!」

「イヤー!ここから出して!」

「ひ、ヒィイイ!」


 みんなが口々に叫ぶと同時に、どこからかあの声が聞こえてきた。

 気づかなかったが、天井付近にあの盾に擬態した魔物がいた。


『ハーッハッハッハ!ヤツが猛毒ロシアンルーレットの当たりをひいたようだな!見事生き残った君たちは次の部屋に…ん?』


 盾に擬態した魔物は楽しそうに高笑いしていたが、急に言葉を止めた。

 そしてみんなと一緒に盾を見上げている俺を見て、震える声でこう言った。


『何故、生きている?即効性の猛毒だぞ?お前毒が効かないのか…!?』


「いや、効いているぞ?大丈夫だ、歩かなければHPは減らない」

『は?HP?』


 それに俺のHPは999999あるからな。

 相当な距離を歩かない限り死ぬことはない。


【お約束② 毒は一歩ごとに1ダメージ】


 キュアポイズの魔法があればすぐに治せるんだが、あいにく俺は魔法が使えないから毒を消すには毒消し薬を調合しなきゃいけない。

 デスゲームを倒したらゆっくり調合させてもらおう。


 そうと決まれば早くデスゲームを倒さなければ!


「そこの盾に擬態した魔物!デスゲームはどこにいる!今度こそ倒してやる!」

『あー…うん…そう…』


 盾に擬態した魔物が歯切れの悪い言葉を並べたかと思うと、ブツンと音を立てて姿を消した。


「あれ?ドアが開いてる」

「向こうの部屋のドアも開いてるよ」

「帰っていいっつーことか?」

「ヨシ、帰ろうぜ」

「待って待って!これ全部食べてから帰ろうよ!」


 …?

 よくわからないが、デスゲームは逃げてしまったのか?


 結局、今回もデスゲームは倒せなかった。

 クソ!次こそ倒してやる!デスゲーム!



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

宮井真歩みやい まほ(料理人見習い)

羽良はら えにし(専門学生)

小中水太こなか みずた(男子高生)

原辺はらべ かおり(女子高生)

福田ふくだ そら(事務員)



第三話 完

■おまけ情報■

直線距離にして函館から熱海くらいまで歩けばユシヤも毒で死ぬぞ!

東京ドームの外周を歩いたとしたら大体1143周だぞ!


■おまけ情報2■

10年後、宮井真歩はカリスマシェフとして名をはせることになるぞ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

宮井真歩みやい まほ(料理人見習い)…食いしん坊

羽良はら えにし(とび職)…はらへり

小中水太こなか みずた(男子高生)…おなかすいた

原辺はらべ かおり(女子高生)…はらぺこ

福田ふくだ そら(事務員)…空腹だ

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