第二十七話 ボスラッシュ~VS魔女~ 後編
俺は勇者ユシヤ。
とんがり帽子のクロマクが放った蛙化の罠にかかり、蛙になってしまった!
蛙化すると敵に与えるダメージは1になってしまう…!
しかも戦闘が終了しても解除されないし、自然回復もしない。
治すにはアイテム“プリンセス・リップ”が必要だが、道具袋は没収されている…!
*プリンセス・リップ
蛙化を解除する効果があるピンク色の口紅。
化粧品としてもロプーレ界の若い女性たちに大人気のアイテム。
『さあサタン!今度こそユシヤを殺しなさい!』
とんがり帽子のクロマクが声を上げると同時に、辺りに煙のようなものが立ち込め、部屋の中心に描かれた魔法陣から羊のような角が生えた巨大な魔物が現れた。
あれは…デスゲーム!
前回は幻覚だったが、今回は本物に違いない!
しかし…蛙化した状態でどうやって戦えばいい…!?
幸い蛙化してもHPはそのままだが、こちらが与えるダメージは1。
しばらくはデスゲームの攻撃を受けても持ちこたえることはできると思うが、攻撃を受け続ければそのうち死んでしまう…!
「我の眠りを妨げるものはお前か…」
地の底から響くような声が俺の頭上から落ちてくる。
ラスボス…この貫禄はまさにラスボスだ…!
ゴクリとつばを飲む。
「ゲロゲーロ!(しかし勇者が引くわけにはいかない!勝負だ、デスゲーム!)」
蛙状態では武器も握ることができない。
デスゲームに駆け寄りカエルパンチをお見舞いするが、当然ダメージは1…。
くっ!かっこつけたはいいものの、どうすりゃいいんだこれ!
「なんだ今の攻撃は…。では、今度はこちらの番だ!」
デスゲームが今の俺の体の何倍もある拳を振り下ろす。
まずい!
両手をクロスさせて頭をガードする。
その次の瞬間、デスゲームの拳が俺の頭上から落ちてきた。
***
「アーッハッハッハ!ざーんねん!生還しっぱーい!」
やっぱり私の黒魔術は最強だった。
前回は油断して失敗してしまったけど、蛙に変えてしまえば不死身のユシヤも雑魚以下だったわね。
さあ、無様に潰れた蛙でも見てあげようか…。
んー、さっきの衝撃で出来た砂煙のせいで何も見えないわ…。
じっとモニターを見つめていると、段々と砂煙が引いて部屋の様子が見えるようになってきた。
ほら、早くユシヤの無様な姿を見せて頂戴。
だけど、そこに映し出された光景は私の想像からかけ離れたものだった。
「は…?なんで生きてるの…?」
***
「ゲロゲーロ…(なんだ、お前も幻覚だったのか…)」
クロスした俺の腕がデスゲームの拳を受け止める。
その重たそうな一撃から放たれたのは、予想外にも雑魚モンスター程度の弱い攻撃だった。
おそらくこのデスゲームは幻覚。
正体はただの雑魚モンスターだが、俺からはデスゲームに見えるようにいつの間にか幻覚魔法をかけられていたに違いない。
じゃなきゃこんな強そうな魔物の攻撃がこんなに弱いわけがない!
*説明しよう!
ユシヤがめちゃくちゃに強いだけだぞ!
しかしそれは俺にも言えること…。
勇者であるはずの俺が相手にあたえるダメージはたったの1。
この雑魚モンスターも俺と同じように「勇者の攻撃がこんなに弱いわけがない!」と思っているかもしれないな…。
ああ!勇者として情けない!
それにしてもお互いこんな弱い攻撃をしあっていたら戦闘がいつ終わるのかわからない…!
何日…いや何週間かかるかわからない…!
別に眠らなくても食わなくても平気だが、こんなことをしている間に魔王がロプーレを征服してしまったら…!
【第二十二話よりお約束㊱ 宿屋に泊まることなく何日も徹夜で歩き続けてもHPが減ることはないし、その間飲まず食わずでも元気な冒険者たち】
まさか…それが狙いか!?
俺を足止めして、その間にロプーレを征服しようと…!
な、なんて卑怯なんだ!
クソッ!今は蛙化を治す手段がない…!
プリンセス・リップを使う以外にもう一つ蛙化を解除する方法があるが、その方法も今は使えない…!
だったら方法は一つ…!
「ゲロゲーロ!(逃げるしかない!)」
逃げてプリンセス・リップを手に入れて元に戻るんだ!
逃げるのは勇者として恥ずかしいことかもしれないが、時には逃げるが勝ちもあるんだ!
*この戦闘からは 逃げることができない!
【お約束㊻ ボス戦は逃走不可】
に、逃げられない…!
こんなに弱いのに、こいつは中ボスなのか…!?
もしかして幻覚ではなく、攻撃力は弱いがHPが何万もあるタイプの中ボスなのか…?
そ、そんな中ボスの相手をしていたらロプーレが滅びてしまう…!
かつてない大ピンチだ…。
ど、どうするユシヤ!?
***
「ど、どうする私!?」
なんでサタンが蛙一匹殺せないの!?
召喚に失敗した!?あれはサタンじゃなかった!?
それとも蛙に変化させるのを失敗してユシヤの見た目だけ蛙にしちゃった!?
強さはユシヤのままなの!?
どうする?どうしたらいい!?
私の黒魔術が失敗したなんてバレたらあの性悪どもになんて言われるか…!
嫌だ!私は“ブラックスター”みたいなみじめな思いはしたくない!
私は誇り高き黒幕!
落ちぶれた“ブラックスター”なんかとは違う!
黒魔術が失敗したならもう一度術をかければいい!
「今度こそ本物の蛙になりなさい!ユシヤ!」
ユシヤに向かってモニター越しに黒魔術をかけ、黒魔術を演出するためにボタンを押して部屋にスモークを焚く。
部屋はスモークで何も見えない…。
でも大丈夫、今度こそユシヤは本物の蛙になったはず…!
私は“ブラックスター”とは違う…。
私は誇り高き、本物の黒幕だから―――!
***
「ゲロゲーロ」
スモークの中から現れたのはぶさいくな顔をした蛙だった。
ぶさいくな蛙…ユシヤは情けない声を上げながらその場で跳ねている。
この間抜けな行動…
よっし!今度こそ大成功!!
やっぱり私は誇り高き本物の黒幕!
“ブラックスター”とは違うのよ!
ちょっと誰か見てよ、あのぶっさいくな面!
ユシヤを素材に使えばさぞいい魔物が召喚できるに違いないわね。
フフ、今から楽しみだわ。
スモークの中にもう一つ大きな影が見える。
サタンね。
ソレは素材として使うからもう殺さなくていいわよ。
と、勝利を確信しながらモニターに映る影に目をやる。
しかし次に見えた光景に私は目を疑うことになった、
「ユシヤ、復活!」
スモークが消えたモニターが映し出したのは、人間の姿に戻ったユシヤだった。
「は!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
ってことはあのぶさいくな蛙は…サタン!?
でも私が蛙化の黒魔術をかけたのはユシヤだけ!サタンにはかけてない!
「なんで…?ねえ、なんでよ!?」
***
『なんで…?ねえ、なんでよ!?』
魔法の盾に映し出されたとんがり帽子のクロマクが混乱した様子で何かわめいている。
「なんでって…お前がケロンの魔法を使ったからに決まってるだろう?」
*説明しよう!
演出の為に放たれたスモークをユシヤはケロンの魔法だと解釈し、RPGのお約束が発動して一緒にいたサタンが蛙になったぞ!
『ケロンの魔法…!?何言ってるかわかんないけど、だったらなんでアンタは人間に戻ってるのよ!?』
そっちこそ何を言ってるんだ…?
さっき俺が言った“プリンセス・リップがなくても蛙化を解除する方法”をどうしてだかは知らないが、そっちがやってくれたんじゃないか…。
「蛙化の状態異常中にもう一度ケロンの魔法をかけたら元に戻るのは常識だろうが!」
『何その謎の法則!』
【お約束㊼ 蛙や小人などに変化させる魔法を重ね掛けすると何故か元に戻る】
もしかしてとんがり帽子のクロマクは初心者なのか…?
だとしてもデスゲーム(によく似た中ボス)にまでケロンの魔法をかけたのはなんでだ?
一体なんでこんな意味不明な行動を…。
ま、まさか!
とんがり帽子のクロマクは俺に恋をしている…!?
俺を足止めしろという魔王の命令と、俺への恋心のはざまで、ずっと葛藤していた…!?
そして魔王の命令に従ったものの、俺への恋心を抑えきれずに蛙化を解いたのか!
魔物まで虜にしてしまうだなんて、ああ、俺はなんて罪深いんだ!
*説明しよう!
ユシヤは思い込みが激しいぞ!
「すまない!俺には心に決めた相手がいるんだ!」
『は?なんか気持ち悪いからもう私の負けでいいわよ…』
魔法の盾はプツリと音を立てた後、何も映さなくなってしまった。
よくわからないが勝ったらしい。
傷つけてしまったのだろうか…。
だがすまない、俺にはレイヤがいるんだ…!
どうか他にいい男が見つかりますように…。
そんな祈りをとんがり帽子のクロマクに捧げながら、俺は奥の鉄扉を開けた。
■今回の生還者一覧■
ユシヤ(自称勇者)
第二十七話 完
■おまけ情報■
ユシヤはちょろい上に思い込みが激しいのでパーティのみんなからちょっと引かれてたぞ!
でもユシヤ本人はパーティのみんなに慕われ頼られていると思い込んでいたぞ!
■おまけ情報2■
なんだか黒幕を続けることがバカバカしくなった“魔女”は黒幕から足を洗い、ドールショップ“ソルシエール”を始めたぞ!
ソルシエールで買ったドールが夜中に勝手に動いたとか動かないとかで噂になって、わりと店は繁盛しているらしいぞ!
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
玄津麻樹(黒幕:魔女)…黒魔術
鏡 博志(黒幕:ハカセ)…狂博士(狂った博士)
才津明樹(黒幕:ヒプノ死スト)…催眠術
亀波愛羽(黒幕:海神)…カメハメハ
国平 至(黒幕:ペスト医師)…黒死病
文木屋 羅一(黒幕:オーナー)…ギャンブラー
空野剛夏(黒幕:レッドフレイム)…悪の業火
空野紫吹(黒幕:ブルーアクア)…悪のしぶき
空野 颯(黒幕:グルーンサイクロン)…悪の疾風
空野大地(黒幕:ブラックソイル)…悪の大地
空野 雷(黒幕:イエローサンダー)…悪の雷
黒宮 真(黒幕:ブラックスター)…黒幕




