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第二十二話 シュレディンガーの白い部屋

 黒幕だ。

 年季の入った“カメハメハ”…おっと、失礼、“海神”だった。

 その“海神”もユシヤを殺すことはできなかった。

 残りの黒幕も少なくなってきた。

 次はどんな手を打とうか…。


「あ、あの、不死身のユシヤを殺すことができたら黒幕王になれるって聞いて来たんですけど…」


 ゆっくりとドアが開き、隙間からペストマスクを付けた気が弱そうな声の男…“ペスト医師”が顔を出した。


 黒幕王ってなんだ。

 海賊王みたいなものか?


「ユシヤを殺すと言っても…君の得意分野は毒薬だろう?毒はもう私がとっくに試したが、ユシヤは死ななかった」


 “ペスト医師”、参加者全員に遅効性の毒を摂取させ、生き残った一人だけに特効薬を与えて治療し生還させるというデスゲームを主としている。

 自分で生み出した病人を自分の手で治す…。それで医師とはよく言ったものだ。


「あ、ど、毒も使うんですけど、それだけじゃなくてですね。真っ白い何もない部屋にユシヤを閉じ込めて毒入り催涙ガスを噴射するんです。まあユシヤに毒は効かないそうなので毒はおまけみたいなものです。このガスの目的は毒ではなくユシヤを眠らせないことなんです。それから三ヶ月間放置します。その間も催涙ガスは絶えず噴射しますし、ついでに大音量の音楽を流し続けます。もちろん食事は一切出しませんよ。飲まず食わず眠らせず…三ヶ月後、それでもユシヤは生きてるんですかね…?フヒ…ッ」


 急に“ペスト医師”が早口になってまくしたてる。


 ハァ…。こいつは…本当に…。

 害のなさそうな普段の態度とは裏腹に、とてつもない残虐性を秘めている。

 まるで楽しいおもちゃを見つけた子供ではないか。

 これをデスゲームと呼んでいいものかはわからないが、楽しそうにしている“ペスト医師”に水を差すほど私も無粋ではない。


「わかった、やってみろ。あ、ユシヤの腰の袋は没収しておくのだぞ」


 何故かあの袋からは無限に食料が出てくるからな…。

 四次元ポケットか。


「は、はい…!フヒッ…、こ、これで僕が黒幕王だ…」


 だから黒幕王ってなんだ。


 しかし飲まず食わず眠らせず…か。

 まあ…普通なら間違いなく死ぬのだが…。


 どうせまたなんやかんやで生き残るのだろうな…。




 ***




 俺は勇者ユシヤ。

 どうやら敵の罠にハマってしまったらしい。

 今いるのは何もない真っ白な部屋だ。

 先ほどから出口を探しているんだが、本当に何もない。

 ドアはもちろん、窓もないしスイッチらしきものも見当たらない。

 仕掛けがあったところで俺では解けないんだが…!


*説明しよう!

 ユシヤはずっと謎解きをパーティの仲間たち任せにしてきたぞ!


 しかし、俺がここにいるということはどこかに出入り口があるはずだ…。


 白い壁をペタペタと触ってみる。

 だが何も反応がない。

 どうしたものかと首をひねっていたところ、突然天井の隅が開き、そこから筒状の何かがニュっと出てきた。


 あそこが出口か!?


 筒状の何かを凝視したその時だった。

 筒状の何かから霧のようなものが噴き出した。


「うっ!目が痛い…!」


 何も見えない…!めくらましか!

 クソッ、モロにくらってしまった…!

 これでは攻撃が魔物に当たらなくなってしまう!


*めくらまし状態

 一定ターン目が見えない状態になる状態異常。

 めくらまし状態になるとモンスターに攻撃が当たりにくくなる。

 何故か何も見えなくても間違えて味方を攻撃することはないし、何故かめくらまし中も魔法攻撃は命中率100%。


【お約束㉞ ツッコミどころの多いめくらまし状態】


「しかもこの匂いは…毒霧か!」


*毒状態

 一歩進むごとに1ダメージを受ける状態異常。

 何故か動かなければノーダメージ。


【第三話よりお約束② 毒は一歩ごとに1ダメージ】


 俺のHPは999999あるから毒は大丈夫だろう。

 問題はめくらましの方だ。

 今敵に襲われたらまずいことになる…!

 とにかく回復を待とう。




 ***




 一体どれだけの時間が経っただろうか。

 何故かあれから敵が襲い掛かってくることはなかった。

 しかしめくらましが解けると同時に再び毒霧を噴射され、そのたびにめくらまし状態にされてきた。

 その上大音量の音楽まで流され、目も耳もとても痛い。

 出口がないかと目が見えないまま部屋中を探ってみたものの、何も見つかることはなかった。

 このまま闇雲に出口を探し続ける…。

 これが本当に正しい解決策なのか…?




 ***




「ユシヤの様子はどうだ、“ペスト医師”」

「ふぇ!?は、はい!い、一日中部屋の中をぐるぐる歩き回っていたんですが、ようやくおとなしくなりました…!」


 モニターを眺める“ペスト医師”に声をかけると、“ペスト医師”は動揺した様子で声を上ずらせた。

 モニターに目をやると、確かにユシヤが壁にもたれかかって座っているのが見えた。


「に、24時間飲まず食わずで歩き回っていたんですからね、すごく疲れてるはずですよ。で、でも、眠らせませんからね…」


 “ペスト医師”が白い部屋に流している音楽のボリュームを上げる。

 その音に驚いたのかユシヤが飛び上がって拳を振り上げるが、誰も見つけることのできなかった拳は空を切った。

 しばらく誰もいない空間で殴る蹴るを繰り返していた様子だったが、誰もいないとわかるとまたユシヤは壁を背に座り込んだ。


 ふむ…、たしかに今回はこちら側が有利のようだな…。

 これは…もしや、ついにユシヤを殺せるのではないか…?


「フヒッ…!飲まず食わず眠らずでどこまで耐えられますかね…。でも僕も24時間監視をしていて疲れました…。ちょっと休みますね…」


 そう言い残すと“ペスト医師”は部屋の隅に置かれたソファに横になった。


 なんだと…?

 監視対象を残してモニターから離れるとは、何を考えているのだ。

 しかも相手はあのユシヤだぞ…?

 その慢心のために今まで仕留めることができなかったというのに。


 しかしたしかに三ヶ月もユシヤと共に起きていることはできないだろう。

 仕方ない。

 “ペスト医師”が眠っている間は私が代わりに監視しよう。




 ***




 一体なんなんだ。

 音楽はますます大きくなるし、毒霧も絶えず噴射されているから俺の目はもうずっと見えないままだ。

 なのに敵が出てくる気配はない…。

 これもクロマクの仕業なのか?

 しかし今回はいつもの魔法の盾はなかったし、クロマクの声も聞こえない。

 いや、音楽のせいでかき消されているだけかもしれないが…。


 俺は再び壁にもたれかかり、その場に座り込んだ。

 毒霧が俺に噴きかけられ、音楽はますます大きな音に変わったが、もう俺が立ち上がることはなかった。




 ***




 あれから三ヶ月が経った。

 ユシヤは途中から壁にもたれかかったままピクリともしなくなった。

 もう毒入りの催涙ガスにも大音量の音楽にも何の反応も見せない。

 私と“ペスト医師”が交代で監視しているが、偽物と入れ替わるなどの怪しい動きも見せなかったのであれはユシヤで間違いないだろう。

 ちゃんと袋も没収してある。

 だからいつものうさんくさい手品を使うこともなかった。


 おそらくもう死んでいるのだが、相手はあのユシヤだ。

 念には念を入れて当初の予定通り三ヶ月間放置した。


 確信した。

 ユシヤはもう死んでいる。


「ついに…ついにあのユシヤを殺したのだな…!」

「こ、殺したのは僕ですからね…!ぼ、僕が、く、黒幕王っですからね…!」


 はやる気持ちを抑え、白い部屋へと向かう。


「や、やった。これで僕が黒幕王…」


 “ペスト医師”がタッチパネルを操作してドアを開けたその瞬間だった。


「ようやく油断したな!お前が俺をこんなところに閉じ込めたのか!」


 ユシヤが現れた。




 ***




 どこにドアがあったのかはわからないが、ドアの開くような音が聞こえた。


 この瞬間をずっと待っていたんだ!

 めくらましの効果が切れていないからわからないが、ドアが開いたということはそこに俺を閉じ込めた敵がいるはずだ!


「ようやく油断したな!お前が俺をこんなところに閉じ込めたのか!」


 ドアを飛び出し、おそらく敵がいるだろう方向に向かって拳を構えて声を上げる。


「え?え?なんで?なんで生きてるの…?」


 クロマクの声じゃない…。

 もっと若い声だ。


「お前の魂胆はわかっている!俺を闇雲に歩かせて俺のHPが尽きるのを待つ作戦だったんだな!残念だったな!お前の魂胆に気付いてから俺は一歩も歩いていないぞ!」

「い、いやそうじゃなくて…!三ヶ月も飲まず食わず眠らずだったのになんで…!?」


 ん?三ヶ月?


「いや、多分一日か二日くらいしか経ってないと思うんだが…」

「そ、そんなわけ…!」


 若い声の男が何かごそごそしている。


*“ペスト医師”は スマホで日付を確認している!


「ほ、本当だ…。え?なんで?たしかに“ブラックスター”と交代で寝てユシヤを見張ってたのに…なんで…?え?た、タイムリープしてる…!?」


 たいむりーぷ…?

 何を言ってるんだ、こいつは…。


 一歩も歩いていないんだから時間が経つわけないだろう?


【お約束㉟ 歩いていると日が暮れ、やがて夜になり、朝になる。しかしその場で静止しているといくら待っていても何故か日が暮れることはない】


「た、タイムリープしていたから飲まず食わず眠らずでも、し、死ななかったのか…!」


 ????

 こいつが何を言っているのかさっぱりわからない…。


 そりゃ飲んだり食べたり眠ったりするのは気持ちが楽になるしHPも回復するからできればしたいが、しなくてもHPが残っていれば死ぬことはないだろう!


【お約束㊱ 宿屋に泊まることなく何日も徹夜で歩き続けてもHPが減ることはないし、その間飲まず食わずでも元気な冒険者たち】


「何を言っているのかわからないが、俺をかく乱させようとしても無駄だ!どこの誰だか知らないか倒させてもらう!」

「ヒィィィ!“ブラックスター”助け…あれ!?いない!?」


*ミス!

 ユシヤの攻撃は はずれた!


*“ペスト医師”は 逃げ出した!


 手ごたえがない…。

 クッ、めくらましのせいで外したか…!

 しかもどうやら逃げられてしまったようだ…。


 あいつ、ブラックスターとか言っていたな。

 たしかクロマクの別名のはずだ…。

 やっぱりクロマクが絡んでいたのか!

 クソッ!一体俺になんの恨みがあるというんだ!


『タイムリープもするとか、もうなんでもアリだなあいつ…』

(ドアを開けた瞬間に逃げてた黒幕)



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)



第二十二話 完





■おまけ情報■

ユシヤは食事をしなくても死ぬことはないが、食べることは大好きなので毎日三食必ず食べているぞ!なんならおやつも食べるぞ!


■おまけ情報2■

“ブラックスター”と“ペスト医師”は交代でユシヤを監視していて外へ出なかったので、時間が経っていないことに気付かなかったぞ!

部屋には食料もトイレもお風呂も備え付けられていたから二人が生活するのには問題なかったぞ!

ちなみにユシヤが動かなかった間、外では時間が流れていなかったぞ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者


国平くにだいら いたる(黒幕:ペスト医師)…黒死病

黒宮くろみや まこと(黒幕:ブラックスター)…黒幕


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