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第二十一話 VSクラーケン

 黒幕だ。

 あいつの思い込みの強さを利用して催眠術で意のままに操ることができればと思ったのだが、“ヒプノ死スト”も失敗してしまった。

 どうやらユシヤの思い込みの強さは“ヒプノ死スト”の催眠術を上回るようだ。

 ユシヤに負けたことがよほどショックだったのか、“ヒプノ死スト”はあれから部屋に閉じこもったまま出てこない。

 なんて打たれ弱いのだ。それでも黒幕か。

 所詮“ヒプノ死スト”は黒幕歴の浅い新参者。

 期待した私が間違いだったのだ。


 ここはやはりもっと年季の入った相手に協力を仰ごう。





 ***




「で、アタシのところにきたってわけかい」


 ハワイの土産物屋で見るような派手な仮面をつけた中年の女性が振り返る。

 彼女は“カメハメハ”

 自分を海の神だと思っている自意識の高い女だ。


 しかしその実力は私と同等か、それ以上。

 特に水に関するデスゲームをやらせたら彼女の右に出る者はいない。

 私も以前ウォーター・デスルームというデスゲームをユシヤに仕掛けたことがあるが、あれを彼女がやっていればもっとうまくやれていただろう。


「“カメハメハ”、是非私に力を貸してほしい」

「その名前で呼ぶなっつってんだろ!アタシのことは“海神”と呼べと何度言ったらわかるんだい!」


 だったらそのド派手な仮面をなんとかしたらいいと思うのだが…。


「すまない、“海神”。それで頼みたいことなんだが…」

「知ってるよ。ユシヤだろ?“魔女”も“ハカセ”も“ヒプノ死スト”もみんなやられちまったらしいね」


 “カメハメハ”…いや、“海神”はウェーブがかった長い黒髪をかきあげながらそう言う。


 やはりユシヤのことは彼女の耳にも入っていたようだ。


「だったら話は早い。ヤツを殺してもらいたい」

「いいよ。でもこの貸しは高くつくからね」


 意外にも二つ返事で了承してくれた。

 後で一体どんな法外な料金をふっかけてくるのか少々不安だが、ユシヤを殺せるならばそれも必要経費だ。

 幸い私は金と時間だけは有り余るほどあるからな。


【デスゲームのお約束 何故か無限の資金を持つデスゲーム主催者】


 …ん?何か今よぎったような…?

 まあ、いい。


「今度こそ貴様の最期だ!ハーッハッハッハ!」

「うわ何、こわっ」




 ***




 俺は勇者ユシヤ。

 いきなりだが俺は今、海の上にいる。

 実は先日酒場から出たら変な仮面をつけた女に“おめでとうございます!あなたは来場10,000人目のお客様でした!”とか言われ、“ごうかきゃくせんくるうず”というものに招待されたのだ。


 俺には魔王を倒して世界を救うという使命があるのだから、遊びにうつつを抜かしている場合ではないと一度は断ったのだが、


「いいんですか?ペアチケットですよ?気になってるあの子も豪華客船クルーズに誘えば “やーん!豪華客船だなんてユシヤ様素敵!好き!抱いて!”とかなっちゃったりして…?」


 とか言われて…。

 いや!別に!俺はレイヤに“やーん!豪華客船だなんてユシヤ様素敵!好き!抱いて!”とか言われたいわけではなく!


 ん?ところで何故俺の名前を知っていたんだろうか。

 いや、俺は勇者だからな。

 ロプーレ中に俺の名前が知られているのは当然か。


 まあ、というわけで俺は今、レイヤと共にえらく高そうな船の甲板にいる。

 会ったとき何故かレイヤは酷く不機嫌だったが(※番外編②参照)、“ごうかきゃくせんくるうず”に誘ったら機嫌を直してくれた。


「んー!いい風!誘ってくれてアリガト、ユシヤ!」


 海風に髪をなびかせながらレイヤが俺に微笑みかける。


 …っ、好きだ!


*説明しよう!

 ユシヤはちょろいぞ!


「それにしても高そうな船だよね。めっちゃ映えるじゃん」


 バエルジャン…?

 俺の知らない呪文だろうか。

 無知を晒してレイヤに嫌われるわけにはいかないな…!


 バエルジャン→呪文→響きからして多分全体攻撃魔法→


 つまり、レイヤは今、過去の戦闘を思い出している!

 パーティの全員がHPもMPも残りわずか、生きるか死ぬかの瀬戸際、大ピンチのレイヤたち。

 そんなとき、道具袋の隅に“魔法の薬”※を発見。

※ロプーレにあるMPを回復する薬。違法薬物ではない

 MPを回復する魔導士!

 魔導士のバエルジャンが炸裂!

 敵は殲滅!喜び抱き合うレイヤたち…!


 これだ!

 きっとレイヤは船上での戦闘を思い出しているんだ!


*説明しよう!

 ユシヤは妄想癖もあるぞ!

 よく言えば想像力豊かだぞ!


 海の上での戦闘なら俺も数えきれないほど経験している。


「そうだな、俺もクラーケンを倒したときは苦戦したな。だが、苦戦したからこそ勝った時の喜びもひとしお…」

「あ!それ“魔王城傍の村にすむ村人ですが、村の傍の雑魚モンスターを倒してたらLV999になってました”の四十五話でしょ!クラーケンなんかトビラムにとっては雑魚なのに、勝手にトビラムがクラーケンを強敵だと思い込んで…」


 …?

 …????


 時々レイヤが何を言っているのかわからなくなる…。

 あとそのトビラムとやらのことを語るとき、たまにすごく早口になるからちょっと怖い…。


「ね!せっかくの豪華客船なんだし、撮影しよ!あたしも衣装持ってきてるから!」


 レイヤが俺の腕を引く。

 …む、胸が…当たる…。


 …っ、好きだ!


*説明しよう!

 ユシヤはとにかくちょろいぞ!


 と、俺とレイヤが甲板から客室へ向かっているときのことだった。


『船内の紳士淑女のお前らサマ、豪華客船クルーズの旅は楽しんでくれてるかい?』


 突然船中に設置されていた魔法の盾たちに、一斉に変な仮面を付けた女の姿が映し出された。


 あ、あれは俺に“ごうかきゃくせんくるうず”のチケットをくれた女だ!


「そうか!あの女はこの船の船長だったんだな!今回はよい旅をプレゼントしてくれてありがとう!」


 魔法の盾に向かって手を振り、礼を告げる。

 そんな俺に面食らったように、変な仮面の女は大げさに肩をすくませた。


『話に聞いてる通りおめでたい男だね、アンタは…』


 よくわからないが、褒められたのだろうか?


「キャアアアアア!」


 褒められたことに照れながら頭をかいていると、甲板から甲高い声が聞こえた。


 悲鳴…!?

 まさか、魔物か!


「どうした!?」

「な、なにアレ…!?」


 レイヤと共に甲板に戻ると、巨大なイカ…クラーケンの触手が数人の乗客をつかんでうねっていた。


 クラーケンの触手から逃れようとするも叫ぶことしかできない女。

 他の乗客を突き飛ばして一心不乱に客室に向かって走る男。

 逃げようにも腰が抜けてしまい、助けを求めて手を伸ばす老婆。

 錯乱して笑いだす中年の男。

 親とはぐれ泣き叫ぶ子供。


 甲板は阿鼻叫喚と化していた。


 油断していた…!

 そうだ、海には魔物が出るものだ!

 船があまりに豪華だから、ここは安全なんだと思い込んでしまった…!

 そんな当たり前なことを忘れるなんて、俺は勇者失格だ…!




 ***




『“カメハメハ”』

『次カメハメハって言ったら海に沈めるよ』


 私の言葉を受け、“海神”がギロリと睨む。

 仮面越しでもわかる殺気に一瞬気後れしそうになるが、私も黒幕だ。

 こんなことで動じるわけにはいかない。


『すまない、“海神”。しかしユシヤは普通に強いから化け物をぶつけても無駄だと言わなかったか?』

『知ってるよ、でもアイツは泳げないんだろう?アタシの作戦はこうさ』


 そう言うと“海神”はどこからかホワイトボードを取り出した。


①ユシヤが逃げられないように海のど真ん中に誘導する

②そこにクラーケンを召喚し、船の外から攻撃する

③ユシヤが反撃しそうになったらクラーケンは海の中に潜る

④泳げないユシヤはクラーケンを追って海に入ることはできない

⑤ユシヤは手も足も出ないまま死ぬ

注意:

何故かユシヤは水中でも息ができるようなので、万が一海中まで追ってきた場合は海底には近づかず、海面近くもしくは海底から離れた海中からクラーケンに攻撃させること

※ユシヤは泳げないのでたとえ海中まで追ってきたところで、海底を歩くことしかできないため


 ご丁寧にイラスト付きで解説してくれた。

 それにしてもファンシーな絵を描くんだな、“海神”は…。

 字も丸っこくてまるで女子高生のようだ…。

 意外すぎる…。


 しかし、これはいいぞ。

 これならば今度こそユシヤを殺せるかもしれない。

 正直どうせこんどもダメだろうと期待はしていなかったのだが、さすが年季の入った“海神”…。

 今までのポッと出の黒幕とは違う…!


『イケる…!イケるぞ!今度こそユシヤの最期だ!』

『うるさいよ、黙ってな』




 ***




「戦闘開始だ!」


 張りぼての剣を構え、そう叫ぶ。


*クラーケンが あらわれた!


 それと同時にクラーケンが甲板に飛び乗った。


『ん?』

『ん?』


 強そうだ…。

 しかし勇者が折れるわけにはいかない!

 襲い掛かってくるクラーケンに張りぼての剣を振り下ろす!


『ちょっと待ちな、アタシの召喚する化け物たちはみんなエラ呼吸だよ!なんで甲板に飛び乗るんだい!?まさかこんなときに進化しちまったっていうのかい!?でもアンタが甲板に飛び乗ったら作戦が台無しだよ!』


【お約束㉝ 明らかにエラ呼吸に見えても、陸では動けなさそうな魚類タイプのモンスターでも、船に乗り込んで襲い掛かってくる海のモンスターたち】


「ふう、見かけ倒しだったな!」


 強そうに見えたが、クラーケンは俺が一発殴ると死んでしまった。

 中ボスクラスの魔物かと思ったら雑魚だったらしい。


*説明しよう!

 ユシヤが強いだけでクラーケンは普通に中ボスクラスの魔物だぞ!


 あ、もちろんクラーケンにつかまっていたみんなも無事救出した!


「今のもしかして“魔王城傍の村にすむ村人ですが、村の傍の雑魚モンスターを倒してたらLV999になってました”の四十五話の再現!?ねえねえどうやったのユシヤ!?あたしへのサプライズ!?すごいすごい!」


 レイヤが興奮した様子で俺を褒めている。

 見かけ倒しの雑魚だったんだが、ものすごい強敵を倒したと思っているのだろうか…?

 ちょっと後ろめたさもあるが、レイヤに好かれたようなので…まあいいか!


「さあ“ごうかきゃくせんくるうず”を楽しむぞ!」

「おー!」


『またユシヤの認識改変か…』



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

風越麗夜かざこし れいや(コスプレイヤー)

田樹海月たき みつき(整形外科医)

萩浦都真はぎうら とおま(マラソン選手)

長椿杏子ながつばき きょうこ(演歌歌手)

鈴木大太郎すずき おおたろう(実業家)

熊隠美乃くまがくれ みの(小学生)

他乗客乗員1000名ほど



第二十一話 完




■おまけ情報■

今回の件は“魔王城傍の村にすむ村人ですが、村の傍の雑魚モンスターを倒してたらLV999になってました”とのコラボ企画だったということにされて、その後何事もなくみんなクルーズを楽しんでいたぞ!


■おまけ情報2■

その後、“海神”は自分の召喚する化け物が陸でも生活できるように進化したと思い込み、陸でのデスゲームに魚類の化け物を召喚したものの、化け物はその場でピチピチと跳ね回った後息ができなくて自滅してしまったらしいぞ!

あと余談だが“海神”の本名は亀波愛羽かめなみ あいはだ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

風越麗夜かざこし れいや(コスプレイヤー)…コスプレイヤー

田樹海月たき みつき(整形外科医)…電気クラゲ

萩浦都真はぎうら とおま(マラソン選手)…ウマヅラハギ

長椿杏子ながつばき きょうこ(演歌歌手)…チョウチンアンコウ

鈴木大太郎すずき おおたろう(実業家)…スズキ+オオタロウ

熊隠美乃くまがくれ みの(小学生)…カクレクマノミ


亀波愛羽かめなみ あいは(黒幕:海神)…カメハメハ

黒宮くろみや まこと(黒幕:ブラックスター)…黒幕


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