表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/34

第二十話 催眠デスマッチ

 黒幕だ。

 “魔女”に続き、“ハカセ”もユシヤを殺すことに失敗した。

 二度の失敗を経て一つ気づいたことがある。

 どうもあいつは思い込みが強いのか、呪いもゾンビ化も自分がこうだと思った効果に捻じ曲げてしまう認識改変能力を持っているらしい。

 しかしあいつの思い込みの強さは逆に利用できるかもしれない…。




 ***




 というわけでまた黒幕仲間のところにきた。


「おや、どうしました?黒宮さん」

「何故どいつもこいつも私を本名で呼ぶんだ、才津明樹」


 顔の半分を隠した仮面をつけた優男、才津明樹が振り返る。


 こいつらは黒幕の意味をわかっているのだろうか。

 正体を隠してこそ黒幕だろうに。


「はっはっは、冗談ですよ。で、何か御用ですか?」

「君の力を借りに来た」

「もしかして、“魔女”も“ハカセ”も殺せなかったというあの不死身のユシヤのことですか?」


 どうやらユシヤのことは黒幕仲間の間でも広まりつつあるらしい。

 不死身のユシヤとはまた随分と大層な名前を貰ったものだ。


「ああ、ヤツには手を焼いていてね。力を貸してくれないか?」

「願ってもないことですよ。実は僕も不死身のユシヤには興味を抱いていたんでね」


 才津は仮面越しからでもわかる


「“ブラックスター”も“魔女”も“ハカセ”も殺せなかった不死身のユシヤ…そんな不死身のユシヤを僕が殺してしまったらこの“ヒプノ死スト”の僕の名前も一気に知れ渡る…フフ、フフフ…」


 才津…いや、“ヒプノ死スト”は楽しそうに肩を揺らして笑っている。

 ん?待て、私の通り名って“ブラックスター”なのか?

 フフ、ちょっとかっこいいな…。

 ブラックスターのブラックと黒幕の黒がかかってていい感じだし…。


 …って、ブラックスター…黒星…。


黒星くろぼし

 相撲の星取り表で負けを表す黒い丸。転じて、負けること。失敗すること。⇔白星。


「私のことを“ブラックスター”とか言い出したのはどいつだ。ちょっと殺してくる」

「えー、じゃあ“連敗先輩”でいいですか?」

「お前かよ!」




 ***




 俺は勇者ユシヤ。

 今回も気が付いたら知らない場所にいた。

 ここは…大広間だろうか。

 何もない広い部屋に20人ほどの男女が集められている。

 俺達は手足を縛られ、猿轡をされた状態で椅子に座らされているようだ。


「んー!?んー!!」


 気が付いたのであろう、隣にいた長い髪の女が必死に何かを訴えかけている。

 他の者も次々と目覚めたらしく、皆一様に縛られたままもがき、うめいている。


 ふむ、縄か。

 きつく縛ってあるようだが、俺にとってはこんな縄を引きちぎるのは造作もない。

 すぐに全員救出してここから脱出…と、考えたその時だった。


 突然大広間に音楽が流れ始めた。

 こんな緊迫した場だというのに、なんと心地の良い…。

 なんだか眠くなってきたぞ…。


 ハッ、まさかこれは、セイレーンか!

 しまった…こんなところにセイレーンがいたとは…。

 油断…して…しま…った…。


【お約束㉚ 眠りの歌や甘い香りなどで眠らせてくるモンスターが高確率で登場する。大体美女かキノコ】


*セイレーン

 ロプーレの海に出現するモンスター。聴いたものを深い眠りへと誘うねむりのうたを得意とする。大抵複数で出てくるので、眠らされる→起きる→また眠らされるのコンボでハメ殺しにされることもよくある。




 ***




『あなたたちはだんだんねむくなーる…と。フフ、ちゃんと全員寝たようですね』


 ブツンと音を立て、壁に設置されたモニターが顔半分をマスクで隠した男の姿を映し出した。

 男…ヒプノ死ストは楽しそうに肩を揺らすと大広間を一望し、全員が眠りに落ちていることを確認してまるで機械のような抑揚のない声で静かに言葉を続ける。


『…あなたは歴戦の勇士です。致命傷を負わない限り何度だって立ち上がる頑丈な体と岩をも砕く強い腕力を持っています。ここにいるのはあなたが心から憎くてたまらない相手ばかり。そしてこの場では治外法権が適用されます。さあ、心のままに殺してください。あなたが憎くてたまらない相手を』


 そう言うとヒプノ死ストは指を鳴らす。

 それと同時に大広間に集められた男女を拘束していたロープと猿轡がほどけ、全員が一斉に目を覚ます。


 ただ一人、ユシヤを除いて――――




 ***




『さあ、心のままに殺してください。あなたが憎くてたまらない相手を』

「殺す…殺す殺す殺す殺す!」

「うああああ!」


 モニターの向こうで殺し合いが始まりました。

 ああ、やはり僕の催眠術は無敵です。

 僕の催眠術ならばこうして殺人鬼を作り上げることも、善悪の判断を逆転させることも、合図一つで自殺させることもできるんですから。

 勝った…!“ブラックスター”も“魔女”も“ハカセ”も殺せなかった不死身のユシヤを殺すのはこの僕、“ヒプノ死スト”です!


 …って、ん?


「むにゃむにゃ…」


 ユシヤが椅子にもたれかかったまま幸せそうな顔で眠っています。

 …どうしてユシヤだけが目覚めていないのでしょうか?

 僕の無敵の催眠術が失敗した…?

 いや、でも他の全員はちゃんと催眠術にかかっている…。


 ま、まあいいです。

 だってここにいるのは全員が歴戦の勇士ですから。

 だったら彼らにユシヤを殺させるまでです!


『そこの椅子に座っている鎧の男はあなたが世界で最も憎んでいる男です。今ならその男を簡単に殺せます。さあ、殺すのです。殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ』

「うああああ!殺す!殺すぅ!!!!」


 その場にいる全員がユシヤに強い殺意を向け、常人離れした拳を振り上げる。


 行け!殺せ!

 これで僕こそが黒幕の中で一番だと証明できる!


 ゴスッ。


 顔面、後頭部、胸、ありとあらゆる急所に拳が当たり、重く鈍い音が辺りに響きます。

 辺りに真っ赤な鮮血が飛び散っても、骨の折れる音が響き渡っても、僕の生み出した歴戦の勇士たちの攻撃は止まりません。


 不死身のユシヤは普通の人間にいくら殴られても死ぬことはないでしょう。

 ですが、今ここにいるのは僕の催眠術で常人離れした力を身に着けた歴戦の勇士たちです。

 一人一人のパンチがボクシング世界チャンピオンを遥かに凌ぐ威力です。

 おまけにユシヤは眠っていて避けることもガードすることもできない。


 つまり、ユシヤに待っているのは死、のみ!

 僕の勝ちです!!




 ***




「って、いったいなー!」


 強烈な痛みに飛び起きる。

 たくさんの子犬たちと楽しく走り回っていたのに、まさか実は魔物で油断したところを一斉に襲われるとは…。


 って、夢か!

 そうか、俺はセイレーンのねむりのうたで眠らされてたんだ!

 攻撃を受けて目が覚めたんだな!


【お約束㉛ ねむり状態は攻撃を受けると解除される】


「どこだセイレーン!姿を現せ!」

『あれ?生きてる…?』


 そこで気が付いた。

 血走った目をした20人ほどの男女が俺を囲んでいることに。

 その誰もが殺気立っており、明らかに俺を攻撃対象としている…。


「うあああ!殺す!死ね!死ね!死ねェ!!!」


 全員が明確な殺意と共に俺を攻撃してくる。


 これは…混乱か!

 セイレーンは混乱攻撃もできたっけ…?

 いや、考えるのは後だ!

 どうしてかはわからないが、確実に全員混乱している!


 しかも、一撃が重い…!

 町人に見えたが、全員格闘家だったのか!

 レベルも40はありそうだ…!


『あれ?あれ?すごい血出てますし、骨が折れる音もしましたよね?あれ?』


*説明しよう!

 ユシヤのレベルは999でHPも999999あるので、レベル40の格闘家20人ごときでは死なないぞ!

 なお、お約束㉙でも説明したが、明らかに致命傷に見える傷を負ってもHPが残っているならば普通に会話も戦闘もできるぞ!


「混乱を治すには…みんな!ごめん!」


 殺さないように加減し、一人一人の背後に回り、首に手刀を打つ。

 手刀を打たれた格闘家たちは白目を剥くとその場にバタリと倒れた。


 ふう、ちゃんと気絶してくれたようだな。

 俺のレベルは999あるからな。レベル40程度の格闘家だと本気で殴れば一撃で殺してしまうから、気を付けないと…。


「まあこれで目が覚めたら混乱も治ってるし、一件落着だな!」


【お約束㉜ 混乱状態も攻撃を受けると解除される】


『は!?僕の催眠術は気絶したくらいじゃ解けないんですけど!?』


 む?どこからか声がするぞ。

 まさかクロマクか?

 いや、クロマクにしては声が若い…。


「あ!またクロマクじゃない!お前は誰だ!?」


 辺りを見渡すと壁に例の魔法の盾が立てかけられていた。

 そこに映っていたのはまたしてもクロマクではなく、顔を半分仮面で隠したクロマクよりも若い男だった。


『お初にお目にかかります。僕は“ヒプノ死スト”と申します。不甲斐ない“ブラックスター”に変わって貴方を殺させていただこうと思いまして』


 ぶらっくすたあ?

 クロマクのことを言っているのか?

 クロマクは二つも名前があるのか?


 それにしてもヒプノ死ストとやら、やたらと俺の背後を伺っているようだが…。


「うう…」

『油断しましたね、ユシヤ!僕の催眠術は気絶したくらいじゃ解けないのですよ!さあ、歴戦の勇士たち!ユシヤを殺しなさい!』


 なんだって!?

 誰かから攻撃を受ければ混乱は治るはずだぞ!?


「っつー…。なんかすげー首の後ろが痛いんだけど…」

「あたしも…。首こりかな?」


 慌てて振り向くが、みんなすっかり元に戻っているようだった。


「なんだ、治ってるじゃないか」

『え?え?なんで?なんで?この僕の催眠術が解かれた?』


 まったく、びっくりさせるなぁ。

 ハッ、これもあいつの作戦か!?

 油断させてまた何か新たな攻撃を…!


『そんな、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。この僕の催眠術が破られるなんて、こんなこと、一度もなかったのに…!僕は完璧なのに…!』


 魔法の盾は頭を抱えてうずくまり、激しく動揺している様子の男を映し出していた。


 …?

 あれも…演技なのか…?

 本気で動揺しているように見えるが…。


『こういうタイプって打たれ弱いよなぁ』


 どこかでクロマクの声が聞こえた気がした。



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

かかり 安治やすはる(会社員)

文津ふみつレラ(劇団員)

尾根おねとまり(女子中学生)

他17人



第二十話 完




■おまけ情報■

ロプーレの世界ではねむり状態は攻撃を受ける他にも自然回復、ロキオの呪文、ニワトリの笛で解除されるぞ!

混乱状態も攻撃を受ける他にも自然回復、ハリセーンの呪文で解除されるぞ!


■おまけ情報2■

ブラックスターの仮面は顔全体を覆うもの、魔女の仮面は目だけを隠すベネチアンマスク、ハカセは仮面の代わりに瓶底眼鏡、ヒプノ死ストはオ〇ラ座の怪人のような顔半分だけを隠す仮面、と、黒幕の仮面にも色々あるぞ!

黒幕たちも個性を出すのに必死みたいだな!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

かかり 安治やすはる(会社員)…暗示にかかる

文津ふみつレラ(劇団員)…操られ

尾根おねとまり(女子中学生)…マリオネット


才津明樹さいつ あき(黒幕)…催眠術

黒宮くろみや まこと(黒幕)…黒幕


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ