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第十九話 ゾンビパニック

 黒幕だ。

 前回恥を忍んで黒魔術やオカルトを得意とする“魔女”に協力を求めたが、ヤツの呪いでもユシヤを殺すことはできなかった。


 …ま、そうだよな!

 だってこの私が何回やっても殺せなかったんだからな!

 そう簡単にユシヤが殺されてたまるか!


 って、これじゃまるでユシヤに死んでほしくないみたいじゃないか。

 違う、私はユシヤを殺したいのだ。


 今回はアイツに協力を要請するか…。

 アイツのは私から見ればデスゲームじゃなくてパニックホラーだから、私とはジャンルが違うと思うのだが、ユシヤを殺すためならば仕方ない…。




 ***




 ヤツの部屋に入る。

 床には怪しげな薬品がちらばっており、辺りにはよくわからない生き物が入れられた培養槽がところせましと並んでいる。

 部屋の真ん中にはなんの実験に使うのか、謎の固定具のついたベッドが鎮座している。

 いつ見てもいかにもマッドサイエンティストの研究室といった感じの悪趣味な部屋だ。


「ヒーッヒッヒッヒ。ワタシに何か用かね、クロミヤ君」


 瓶底眼鏡をかけ、白衣に身を包んだやせこけた男が眼鏡をクイと上げながら振り返る。


「だから本名で呼ぶな、鏡博志」


 どいつもこいつも何故人を本名で呼ぶのだ。


「おっと、ワタシのことはハカセと呼んでくれたまえ」

「…貴方の力を借りたい、ハカセ。ユシヤという男を殺せるならば、他に何人殺しても構わない」

「ホウ、キミはワタシのデスゲームはデスゲームではないと否定的だったはずだが」


 ハカセは再び眼鏡をクイと上げると、身を乗り出すように私に顔を近づける。


 そう、こいつの開催するデスゲームはもはやゲームではない。

 こいつのデスゲームは致死率100%のウイルスをバラまいたり、人間を化け物にしたりといったもので、それはただのパニックホラーだ。

 勝つか負けるかのヒリヒリしたスリルがデスゲームの醍醐味だというのに、こいつがやっていることはただの無差別大量殺人だ。

 そんなものをデスゲームと呼んでほしくはない。


 …いや、ユシヤを殺すためとはいえ、新幹線乗っ取りまでやった私が言えた義理はないのかもしれないが。


「そうも言っていられなくなったんだ。大量殺人を得意とするハカセならば、きっとヤツも…」

「ヒーッヒッヒッヒ、キミがそこまで手を焼くとはね。興味がわいたよ。ワタシに任せてくれたまえ」


 ハカセは楽しそうに笑いながら、机の上に置かれていた注射器を手に取った。


「ちょうど新しいウイルスも完成したところだ。早く試したくて仕方なかったんだよ。ヒーッヒッヒッヒ!」


 しかしこの下品な笑い方はなんとかならないものか。

 黒幕仲間だけど引く。




 ***




 俺は勇者ユシヤ。

 前回はえらい目にあった。

 呪いを解くために教会に行ったというのに、何故か自警団を呼ばれしばらく牢屋に入れられていた。

 呪いを解くには教会だろう…!?

 俺は間違っていないぞ!?

 なのに何故捕まったんだ…!?


 それはさておき、今回も気が付くと知らない場所にいた。

 いや、正しくは知らないのかどうかはわからない。

 真っ暗で何も見えないんだ。


 手探りで辺りを探ってみる。


「ちょっと誰よ!」

「す、すまない!暗くて何も見えないんだ!」


 誰かに触れてしまった。

 どうやらこの真っ暗な部屋にはいつも通り、俺と同じようにさらわれてきた人たちがいるようだ。


 あまり動くのは得策ではないかもしれない。

 目が慣れるまでじっとしよう。




 ***




 だんだんと目が慣れてきたときだった。

 急に部屋が明るくなったかと思うと部屋中にやたらと甲高い男の声が響き渡った。


『ようこそ!ワタシの新薬のお披露目会へ!!』


 ま、まぶしい!

 急に明るくなったものだから対応が遅れてしまった!

 な、なんだ?何がおこったんだ?

 魔法か!?


 チカチカする目をこらして声の先を見てみると、檀上に立てかけられた魔法の盾が厚い眼鏡をかけ白衣を着たやせこけた男を映し出していた。


 どうやらここは大広間のようだ。

 あちこちにうまそうな料理の乗った机が設置されており、部屋には正装した50人ほどの男女がいた。

 何故か俺だけは張りぼての鎧のままだったが。


『こんなに沢山の人たちがワタシの新薬のお披露目会に集まってくれてとっても嬉しいよ!ヒーッヒッヒッヒ!』

「は…は?呼ばれた覚えないんだけど…!」

「どこだよここは!?」


 どうやらやはりみんなさらわれてここに連れてこられたらしい。


 しかし、妙だ。

 今回もまた、魔法の盾が映し出しているのはクロマクではない。


 まさか、勇者(俺)を殺すのに何度も失敗したから、クロマクは魔王に処分されてしまったのか…!?


 たしかにクロマクはロプーレを脅かす敵だ。

 だが、もしクロマクが家族を人質にとられ仕方なく魔王に従っていたとしたら…!

 クソッ!俺はクロマクも救いたかった…!


『さーて、どいつに実験体になってもらおうかな…。ユシヤって奴でもいいんだけど、どうせならあいつが殺せなかったユシヤの絶望の顔が見たいよねぇ!』


 眼鏡の男が楽しそうに部屋を見渡しながら舌舐めずりをする。


 俺の絶望が見たい…?

 一体何をする気だ…!?


『じゃあキミたちに決めた!』


 眼鏡の男が何やらスイッチのようなものを押すと、壁から五本の機械の腕が伸び、大広間にいた男女をわしづかみにした。


「キャアアア!」

「な、なんだ!?」


 辺りに五人の悲鳴が響く。


 魔物か!

 まずい!ロプーレの民のピンチだ!


 張りぼての剣を構え、高く飛びあがると機械の腕を叩き切る。


『おっと!たしかにキミはできるようだね、ユシヤ。だが、全員は救えまい!ヒーッヒッヒッヒ!』


 四本の腕を叩き切った直後のことだった。

 機械の腕が太った男に何かを突き刺した。


 なんてことだ、間に合わなかった…!

 こんなことなら呪いの剣を装備したままにしておけばよかったか…!

 あれなら一気に斬ることができたのに…!

 鈍器では五本の腕を倒すのに5ターンもかかってしまう!


【お約束㉗ 戦闘はターン制】


 いや、まだ死んだと決めつけるのは早い!


 最後の一本も叩き切り、機械の腕から太った男を救出する。


「大丈夫か!?」

「う…うあ…」


 太った男の目がぐりんと白目を剥き、瘴気のようなものを放ち始めたかと思うと顔色が見る見るうちに緑色になっていく。

 これは…


「ゾンビ化だ!」

『だーいせいかい!この天才ハカセ様は人間をゾンビに変える薬を発明してしまったのだよ!』


 ゾンビ化した男が俺の首元に噛みつく。


「キャアアアア!!!!!」


 辺りは一気にパニック状態となり、悲鳴と怒号が飛び交う。

 大広間にいる全員が出口に向かって走り出すが、鍵がかかっているようで口々に“ここから出して!”“開けてお願い!”“ふざけんなよ!”などと悲痛な叫びとドアを叩く音が聞こえてくる。


『しかも…』


 そんな面々を無視するかのように眼鏡の男はニヤリと笑い、言葉を続ける。


『ゾンビは噛みつかれると感染す…』

「わかっている!ゾンビ化すると味方に攻撃するのだろう!?」

『へ?』


 ゾンビ化のことはよーくわかっている。

 ゾンビ化した者は味方を攻撃してくるんだ。

 前に俺がゾンビ化してしまったときは全滅寸前になったからな…!


【お約束㉘ ゾンビ化すると味方を攻撃するようになるが、ゾンビ化した仲間に攻撃された味方もゾンビ化するわけではない】


『えーと、そうじゃなくて、噛まれた者もゾンビに…』

「わかっている!前に俺が感染したときも仲間を攻撃してしまった!あの時と同じだ!」


 ゾンビ化した男が俺の首元の肉を食いちぎっているのがわかる。

 腕ならば張りぼてとはいえど鎧でガードできたのに、無防備な首元を狙ってくるとは…!


 しかし俺のHPは999999ある。

 これくらい大したダメージではない!


『えーと…え?あれ?平気なの?結構グロいことになってるけど…』

「いや!とっても痛いぞ!でも大丈夫だ!俺は勇者だから!」

『えー…』


【お約束㉙ 明らかに致命傷に見える傷を負っていても、HPが残っているならば普通に会話も戦闘もできる】


 だがこのままというわけにもいかないな。

 ゾンビ化は自然回復しないんだ。

 このまま俺が攻撃を受け続けていればみんなには被害はいかないが、いつかは俺だって死んでしまう。

 あの時はヒーラーに魔法でゾンビ化を解除して貰えてなんとか助かったが、ここにヒーラーはいない…。

 いや、待てよ、そうだ。アレで治せるはずだ!


 腰元を探る。

 よかった、今回は道具袋を没収されていない!


「これだ!聖水!」


 道具袋から聖水を取り出すと蓋を開けてゾンビ化した男に頭から浴びせる。

 緑色だった男の肌は見る見るうちに血色を取り戻していき、我に返ったのか叫び声を上げながら俺から離れる。


「ギャー!何!?何!?え、俺の口の中、なんか血が…うぇ…!」


 そして口の中に俺の血や肉があるとわかるとその場で嘔吐した。

 うんうん、気持ちはわかるぞ。

 俺もゾンビ化を解除してもらった後、俺のせいで全滅しかけた自己嫌悪でしばらく落ち込んでいたからな。


『え?え?なんでゾンビ化治せるの…?もしかしてキミも研究者…?』


 眼鏡の男がおろおろしながら俺を見ている。

 いや、俺は勇者だが?


 それにしても…


「しかしよかった、感染したのが俺じゃなくて。俺が感染していたらここにいる全員を殺していたかもしれないからな!」


 いや、かもしれないじゃないな。

 ゾンビ化は自然回復しないから、ヒーラーや聖水がない中で俺がゾンビ化してしまったら間違いなく皆殺しにしていただろう。

 そして俺は通りすがりのヒーラーに出会わない限り、永遠に獲物を求め続けるゾンビになっていた…。


 ああ、考えただけでも恐ろしい…!


『聞いたか?最初にユシヤをターゲットにしていれば我々の勝利だったらしいぞ。“どうせならあいつが殺せなかったユシヤの絶望の顔が見たいよねぇ!”とか余裕こいたからこうなったんだぞ』

『ワタシの作った薬の効果を捻じ曲げるとか誰が想像できる!?もう二度とあんなのこっちに回さないで!!』



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

茂本しげもと ながれ(サラリーマン)

やしろ 陽建ようけん(住職)

月戸つきと 夕一ゆういち(読者モデル)

大間おおま みのる(タクシー運転手)

剣田けんだ ゆい(美容師)

他50人弱



第十九話 完




■おまけ情報■

ゾンビ化も呪いもユシヤの周りでは勝手にRPG内での効果に変換されるぞ!

これがRPGのお約束だ!


■おまけ情報2■

ゾンビ化から回復した茂本流はその後、肉が一切食べられないようになり、別人と見紛うほどに痩せたぞ。

その後、執筆した「ゾンビ化ダイエット法」が大ヒットし、一時期メディアを騒がせたぞ。

ちなみに本人はノンフィクションとして執筆したつもりだが、フィクション作品としてヒットしたぞ。


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

茂本しげもと ながれ(サラリーマン)…モルモット

やしろ 陽建ようけん(住職)…被験者

月戸つきと 夕一ゆういち(読者モデル)…ターゲット

大間おおま みのる(タクシー運転手)…実験台

剣田けんだ ゆい(美容師)…検体


かがみ 博志ひろし(黒幕)…狂博士(狂った博士)

黒宮くろみや まこと(黒幕)…黒幕



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