第十七話 呪いのロロル人形 前編
黒幕だ。
なんか、ユシヤは普通にめちゃくちゃ強かった。
ただの手品師かと思ったら普通にめちゃくちゃ強いのかよ…!
ああ、そうか、あいつの手品のタネはわからないが、体力と腕力で何かしらゴリ押ししていたと考えると腑に落ちる面もあったな…。
インチキマジシャンじゃねぇか…!
しかしそろそろユシヤを殺せるようなデスゲームの内容も思いつかなくなってきた…。
こうなったら…
オカルトに手を出すしかない…!
正直オカルトなんざ信じていないが、黒幕仲間には怪しげな黒魔術の儀式で悪魔や化け物を呼び出してデスゲームを行う奴もいる。
ちょっと癪だがあいつの力を借りよう。
***
「あら、最近デスゲームで一人も殺せていない黒宮真じゃない」
「本名で呼ぶな、玄津麻樹」
まったく、誰が聞いているかもわからないのに黒幕の本名を呼ぶなんて何を考えているんだか。
頭に来たので俺も本名で返してやった。
「ったく。で、何?」
「君の力を借りたい。…悔しいが、どうしても殺せない奴がいるんだ」
「…へぇ、黒幕歴10年のアンタが?いいわ、そいつにも会ってみたいし」
魔女のような帽子の鍔をクイと下げ、不敵な笑みを浮かべている。
自分を魔女だとでも思っているのか、相変わらず悪趣味な恰好をしている。
そのせいか、黒幕仲間からも“魔女”という通り名で呼ばれている。
こいつに貸しを作るのは癪だが、黒魔術ならばあいつの手品にも対抗できるはずだ。
「今日こそお前の最期だユシヤ!ハーッハッハッハ!」
「こわっ。いきなり笑わないでよ」
***
俺は勇者ユシヤ。
今回は気が付いたら洋館のような建物の中にいた。
部屋には五人の女が倒れていた。
しかし…なんだこの洋館は。
なんだか、洋館全体に負の空気がまとっているような、そんなおどろおどろしさを感じる。
窓の外は薄暗く、今が夜なのか昼なのかもよくわからない。
辺りには鬱蒼とした森が生い茂っており、洋館の周りを住処にでもしているのかカラスのギャーギャーという声がうるさいくらいに響いている。
部屋の中には格調高い家具や調度品が揃っているが、外の景色と薄暗さのせいかどこか気味が悪い。
「う…」
「私、何して…」
「え!?ここどこ!?」
俺が辺りを調べていると、倒れていた女が次々と目を覚ました。
どうやらさらわれたようだといつものやり取りを繰り返しながら説明すると、五人は信じられないといった顔をしていたが、窓が開かないことや外の景色を見て納得せざるを得なくなったようだ。
「俺は勇者ユシヤ。君たちのことは俺が絶対に守るから安心してくれ」
「そういう妄想は私も好きだけど、TPOをわきまえなさいよ…。…あたしは正園寺エル。ドールの即売会の帰りに連れ去らわれたみたい」
ヒラヒラした黒いドレスのような服を着た黒髪の女がそう言う。
てぃーぴーおー…?何かの呪文だろうか。
すまない、俺は魔法が使えないんだ。
「りぼんはショッピングしてたのにぃ、気が付いたらここにいたのぉ~。あ、りぼんの名前は一隠結だよぉ~」
ショウエンジ・エルとよく似てはいるが色だけは真逆なヒラヒラしたピンクのドレスを着た茶髪の女がそう言う。
「私は久利三津子です。神社で掃除をしている最中にさらわれたみたいです」
白い服に赤いパンツをはいた(後で聞いたが巫女服というらしい)金に近い茶髪の女がそう言う。
「…粟瀬鏡よ。私は職場にいたはずなんだけど」
ローブを着た長い前髪で片目を隠した黒髪の女がそう言う。
「え、えっと…。わ、私は牛ノ谷舞璃…です…。い、家に一人でいたはずなのに、気が付いたらここにいました…」
やたらと前髪も後ろ髪も長い顔色の悪い女が指でのの字を書きながらそう言う。
ふむ、やはり今回もみんなクロマクにさらわれたようだな。
「とりあえずまずはこの洋館の中を調べてみようと思う」
ドアノブに手をかけるとすんなりと開いた。
調べるのはご自由にどうぞ、ということか…。
ドアを開けると長い廊下が続いていた。
廊下にはまるで俺たちを監視するかのように剣を携えた甲冑がズラリと並んでいた。
これは…本物の剣だ。
そういえば魔王城では動く甲冑に襲われたことがあったな…。
あの時のようにいきなり動いて襲ってくるかもしれないと、甲冑を警戒しながら先に進む。
幸いにも甲冑が動き出すことはなかった。
しかし、なんだかおかしい。
いつもと何か違うような…。
そうだ、今回はクロマクがまだ出てきていないんだ。
いつもなら目覚めてすぐに魔法の盾がクロマクの姿を映し出すのに…!
今回はいつもと違うということなのか…?
そんなことを考えながら廊下に面した部屋に入る。
部屋の真ん中には貴族のようなヒラヒラした黒い服にメイドが付けているようなヘッドドレスを付けた人形が鎮座していた。
「あ!」
俺が人形に目をやるのと同時に、ショウエンジ・エルが突然声を上げ、人形に駆け寄った。
「このドール、販売されてすぐに回収された激レアのロロルドールじゃない!どうしてこんなところに!?」
「待て!うかつに触るな!」
そう声を上げ、人形に触れようとしたショウエンジ・エルの腕をつかむ。
「ちょっと!何すんのよ!」
ショウエンジ・エルは怒り任せに俺の腕を振り払おうとするが、ちからカンストの俺の腕は振りほどけなかった。
『…チッ』
舌打ちまでされてしまった…。
さすがに少しだけ傷つく…。
「は?舌打ちしたいのはこっちなんだけど」
「え?俺じゃないぞ?」
てっきりショウエンジ・エルが舌打ちしたのかと思ったが、そうではないらしい。
周りを見渡すが、他の女たちも首を横に振っている。
まさかと視線を部屋に向けると、ショウエンジ・エルが触れようとしていた人形から黒いもやのようなものが発せられていた。
これは…ただの人形じゃない!
魔物か!
張りぼての剣を鞘から抜いて構える。
今度はこの間みたいなただの動物相手じゃない。
本物の魔物だ。
魔物相手にこのおもちゃのような剣が通用するだろうか…!?
『アーア、モウ少シダッタノニ…』
人形がカタカタと動いたかと思うと空中に浮きあがり、酷く耳障りな甲高い声でそう言った、
やはり魔物だ!
人形の姿をした魔物とは前にも戦ったことがある。
だがこの魔物は初めて見る。
油断してはいけない…!
『マア、イイヤ、君ニシヨ!』
その場に浮かんでいた人形の魔物が急にこちらに突進してきた。
張りぼての剣で魔物を叩き落そうとした瞬間、魔物が黒いもやを放ち、俺はそのもやに飲み込まれた。
しまった!毒か!?目くらましか!?
いや、違う…!
「く…っ、これは…“呪い”か!」
『ソウダヨー、君ハ呪イデワタシノ意ノママニ…』
「クソッ!HPが半分になってしまった!」
『エ?』
ああ!999999あったHPが500000まで減ってしまった!
*説明しよう!
ロプーレの世界での“呪い”はHPが半分になるのだ!
ちなみに“呪い”は自然回復するぞ!
『ア、エット、ソウジャナクテ君ハワタシノ操リ人形ニ…エ?HP?半分?』
「ここからは気を付けて戦わねば…」
張りぼての剣を構え直す。
HPが半分になったということは、死ぬ可能性が二倍になったということだからな!
*今のユシヤのHPは500000だぞ!
500000本の矢を射られると死ぬぞ!
『ちょっと!私のゴシックホラーな世界観を安っぽいRPGにしないでくれる!?』
いつの間にか壁に立てかけてあった魔法の盾がクロマクを映し出…ん?クロマクじゃないぞ?
いつもならば顔全体を覆っていた仮面は目元のみを隠す仮面に変わっており、魔導士が被るような黒いとんがり帽子をかぶっている。
そもそも、男のはずだったクロマクが女になっている。
つまり、今回俺たちをさらったのはクロマクではないということか!
魔王軍にはあんなよくわからないのが二人もいるのか!
『ま、まあいいわ。そんなコスプレで私の黒魔術に勝てるかしら?』
魔術…やはりこいつは魔導士か!
『呪いのロロル人形は一体じゃないのよ!』
『キャハハハハ!』
『ワタシタチト遊ボウヨ!』
魔導士の女がそう言うと同時に部屋に多数の人形の魔物が現れた。
どの魔物も部屋の真ん中にいた人形の魔物と同じようなドレスを着ており、俺たちを囲むように宙に浮きながら甲高い声で笑っている。
な、なんて数だ!
俺一人ならば一体一体相手をすればいいが、こっちには五人の女性がいる。
彼女たちはおそらく冒険者ではないから、魔物の攻撃に耐えることができない…。
打ち漏らすと彼女たちが危ない!
こういうときは全体魔法だが、あいにく俺は魔法が使えない。
しかし魔法に頼らなくとも俺にはスキルがある。
ここは、敵全体にダメージを与えるスキル…回転斬りだ!
剣を構えてスゥと息を吸い込み、神経を研ぎ澄ますように集中する。
俺を中心に静かに風が巻き起こる。
『ウ…?何ヲスル気…?』
「回転斬り(スピン・スラッシュ)!」
剣を構えたまま、そう声を上げた!
■プレイヤー一覧■
ユシヤ(自称勇者)
正園寺エル(女子高生)
一隠 結(女子高生)
久利三津子(巫女)
粟瀬 鏡(占い師)
牛ノ谷舞璃(無職)
第十七話 完




