第十六話 猛獣のはびこる洞窟
黒幕だ。
…何をやってもユシヤを殺せません!
矢もナイフもダメ、毒を飲ませてもダメ、高いところから落としてもダメ、マグマもダメ、電流もダメ、水中もダメ、あれもダメ、これもダメ。
…人間ですか?
いやいや、死なない人間などいるはずがない。
あいつはマジシャンだから何かトリックを使っているのだ。
こうなったら、もっとストレートに行ってみようと思う。
猛獣たちをけしかけ、食い殺させる!
それも一匹二匹じゃない、ありったけの猛獣をぶつけてやる!
万が一それもダメだったときに備えて最終兵器まで用意した!
待ってろユシヤ!
今日こそ、お前の最期の日だ!
***
俺は勇者ユシヤ。
今回も気が付いたら知らない場所にいた。
俺の腰に下げていた道具袋は没収されているようだ。
ここは洞窟…だろうか?
蝋燭の心もとない灯が暗い部屋を照らしている。
辺りには気を失った男女が三人…。
む、今回はみんなよく知った格好をしているぞ。
鎧を着た金髪の男。
ローブに身を包んだ黒髪のモノクルの男。
それから法衣を着たこげ茶色の長い髪の女。
戦士、魔導士、ヒーラーといったところだな。
しかし、勇者、戦士、魔導士、ヒーラーとは…まるでパーティみたいだな。
「う…」
「ここは…?」
「え!?なんですかこの恰好!」
三人が目を覚ましたが、混乱しているようだ。
落ち着かせるためにも状況を説明せねば…。
「どうやら俺たちはクロマクにさらわれたらしい。俺は勇者のユシヤだ。君たちは戦士と魔導士とヒーラーか?」
「は?勇者…?」
「ま、まさか転生…?」
「え?私死んだんですか…?」
落ち着いてくれただろうか?
心配そうに眺めていると、三人が立ち上がり嬉しそうに目を輝かせた。
「俺、ずっと転生して無双したかったんだよ!」
「嘘!まるで小説じゃんコレ!」
「わー!私にはどんなチート能力があるんだろうー!?」
…???
よくわからないが、喜んでいるならいいか!
『あー…、もう話していいか?』
いつの間にか魔法の盾がクロマクを映し出していた。
仮面越しからでもわかる、呆気にとられたような顔で俺たちを眺めている。
「お前が俺たちを転生させたのか!?」
「なあ!俺にはどんなチート能力があるんだ!?」
「教えてください!」
三人がクロマクを囲んで質問攻めにしている。
…ちーとのうりょくってなんだ?
能力というからには魔法とかスキルのことだろうか?
『だー!うるさい!ああ!もう説明はなしだ!この洞窟から脱出してみろ!』
そう怒鳴ると同時にブツリと音を立ててクロマクの姿が消えた。
ふむ、この洞窟から出ろと…。
おそらく前みたいにあちこちに罠が仕掛けてあるのだな。
まあHPの高さには自信があるし、余裕だな!
「よし、みんな行こう!罠があるだろうから俺が先頭を歩こう」
「そうだな、俺たちはまだどんなチート能力かわからないしな」
「じゃあ俺たちは後ろをついていくぞ」
「チート能力の説明をしてくれないなんて、あの人酷いですねぇ」
そう言って一歩踏み出した瞬間、目の前に魔物が現れた。
「ガルルルル…!」
これはヘルライオンか!?それともまさか新種の魔物…!?
…いや、違うな。普通のライオンだ。
「ヒイイ!モンスター!」
「オイ、お前戦士だろ。さくっと倒せよ」
「そうですよ!あ、私は僧侶だから無理です!」
何やら後ろで揉めている。
「ガアア!」
ライオンが俺の喉元めがけてとびかかってくる。
が、前に武具屋で買った張りぼての剣でライオンの頭を殴って軽く仕留めた。
「よかったな、ただのライオンで」
振り返ると三人は目を丸くしながら俺を見て、「おー…」と言いながら小さく拍手をしていた。
その後も、魔物かと思ったら虎だの熊だの豹だのワニだの象だの、ただの動物が俺たちに襲い掛かってきた。
スキルを使うような相手でもないので、そのたびに張りぼての剣で殴って軽く仕留め続けた。
…何故魔物が出てこないんだ?
久々に歯ごたえがある戦いになるかと思ったのに動物と戯れさせるだけだなんて、クロマクは一体何がしたいんだ!?
*説明しよう!
ユシヤはRPGのお約束抜きでも普通にめちゃくちゃ強いぞ!
『あいつ普通に強いのかよ…。ま、まあ、これは想定の範囲内だ…』
しばらくこうして迷路のような洞窟内を迷いながらも先に進み、動物たちをいなしてきたのだが、終いには動物たちが怯えて俺の顔を見るなり逃げ出すようになってしまった。
動物が襲ってこなくなったので余裕もでき、歩きながら改めて自己紹介をしたが、戦士がフウゴ、魔導士がシンジ、ヒーラーがヨルというらしい。
「ユシヤ、アンタ結構強いな」
「フッ、こんな雑魚相手ではチート能力を持つ俺たちの出る幕はなさそうだな」
「でも能力使ってみたいからちょっと一回怪我してもらえませんか~?」
と、段々と警戒心も薄れてきたそのときだった。
『行け、最終兵器!』
「シャー!」
なんの警戒もせずに曲がった先に、俺の体よりもでかい大蛇が大きな口を開いて待ち構えていた。
あ、と思った瞬間には俺はもう大蛇の口の中にいた。
***
ユシヤの頭に食らいついたアナコンダはそのままユシヤを丸飲みした。
やった!ついにやったぞ!
正直ライオンや虎で死んでくれるだろうと思っていたのだが、まさかあいつが普通に強かったとは…。
しかしその強さが油断につながったのだ。
ユシヤがあれほどまでに強くなければ、なんの警戒もなく先の見えない道を曲がることはしなかっただろう。
お前は自分に負けたのだ!ユシヤ!
「ユシヤが蛇のモンスターに食われた!」
「嘘だろ!?こ、攻撃魔法…ってどうやって出すんだ!?」
「け、怪我してもらえませんかとは言いましたが、死んでくれとは言ってませんー!」
数合わせで連れてきた三人が取り乱している。
ちょっと雰囲気を出すためにゲームキャラみたいな恰好をさせただけなのだが、あいつら自分たちがゲームの世界に転生したと思い込んでしまったようだ。
いや、ここは普通に日本だぞ。
もちろんあいつらにチート能力なんてないし、それどころかこの世に魔法なんてものもない。
「お前僧侶だろ!ユシヤを生き返らせろよ!」
「どうやってチート能力を使えばいいんですか~!?」
「とりあえず祈れ!大体祈ればなんとかなる!」
…まだチート能力が使えると思っているようだ…。
まあ、せっかく連れてきたんだしこいつらも殺しておくか。
『さあ、猛獣たちよ。ユシヤはもういない。残りの雑魚を食い殺すのだ!』
と、手をカメラに向けて声を上げた瞬間だった―――
***
「ぷは!しまった!油断した!」
大蛇の腹を拳で突き破り、脱出する。
ああ、体がベトベトで気持ちが悪い。
*説明しよう!
ユシヤは普通に強いからアナコンダに丸飲みされたくらいでは死なないぞ!
「祈りが通じた…!」
「死者蘇生…これが私のチート能力なんですね…!」
「いいなー、俺も自分のチート能力知りたいんだけど」
三人が震えながら俺を見ている。
うう、とんでもない失態を見せてしまった…。
勇者とあろうものが油断して、ただの蛇に飲み込まれるなんて…。
「よし!ここからは油断せずにいこう!」
「「「おー!!」」」
その後、迷いに迷って何度か最初の部屋に戻りつつもなんとか外に出ることができた。
「はー、外の空気はうまいなー!」
「外は森か…。フッ、次はどんな冒険が待っているのか…」
「死んでも私の力で何度でも復活させてあげますからね~!」
あの三人はずっと俺に付いてくるだけで何もしなかったな…。
やたらと自信のありそうな物言いから察するに、きっとさぞかし名のある冒険者に違いない!
ただの動物相手に自分たちの出る幕ではないと思っていたんだな!
ああ、そんなただの動物に油断して丸飲みにされたところを見られたなんて恥ずかしい…!
恥ずかしいから早くこの場から退散しよう…。
はぁ、もっと精進せねば…。
***
「よし!これからもよろしくなユシ…あれ?」
「まあ、ユシヤがいなくても、チート能力を持つ俺たちだけでなんとかなるだろ」
「死んでも私の力で何度でも復活させてあげますからね~!」
『ユシヤ…普通にどころかめちゃくちゃ強いのかよ…』
■今回の生還者一覧■
ユシヤ(自称勇者)
一井田風吾(高校生)
宇戸真士(高校生)
宗里 夜(高校生)
第十六話 完
■おまけ情報■
ユシヤの道具袋は今回もその辺に落ちていたから回収したぞ!
中身は無事だったぞ!
■おまけ情報2■
フウゴたちは森を抜けた先が普通にいつもの町並みだったので、「せっかく転生したのにいつの間にか元の世界に戻ってきてしまった!」とショックを受けていたぞ!
しかしチート能力はまだ残っているに違いないと考え、フウゴとシンジはチート能力を発動させようと痛い発言や痛いポーズを繰り返した結果中二病をこじらせたと周りに噂され、ヨルは「自分は死者をよみがえらせることができる」と周りにのたまい怪しい宗教家のようになってしまったぞ!
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
一井田風吾(高校生)…ファイター
宇戸真士(高校生)…魔導士
宗里 夜(高校生)…僧侶




