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第十四話 甘い誘惑お菓子の家

 俺は勇者ユシヤ。

 またしても気が付いたら知らない場所にいた。

 今回はなんだかとてもいい香りの場所だ。

 甘くて、美味しそうな香りがする。


「って、なんだここは!?」


 周りを見渡すと壁はクッキー、床はチョコレート、ベッドはスポンジケーキ、枕はマシュマロ、布団はクレープ、柱はスティック状の焼き菓子、天井はアイスクリームでできている。

 他にも視界にあるものすべてが菓子でできているようだ。

 天井から白いもやのようなものが降り注いでいて、とても愛らしく幻想的な光景が広がっている。


 それにしても…。

 な、なんだ、この美味そうな部屋は!


「ん~、うるさいですわ…」

「って、何だここ!?」

「お菓子の家!?」

「美味しそうですね~」

「言うとる場合カ!?」


 俺の声で目を覚ましたみんなが俺と似たような反応を見せる。


「俺は勇者ユシヤ。どうやら俺たちはさらわれたようなのだが、こんな美味そうな場所は俺も見たことがないから少し混乱している」


 ロプーレ中を冒険してきた俺でも、こんな美味そうな場所に来たのは初めてだ。


「ゆ、勇者…?もしかしてこれは何かのアトラクションですの…?えっと…、私は門部蘭。門部財閥の一人娘ですわ」


 縦ロールの金髪の若い女が戸惑ったように自己紹介する。


「え?あの門部財閥の…?じゃあ俺たち本当に誘拐されたんじゃ…?いや、でも俺は普通の高校生だし…。あ、俺は夏目蓮です」


 白いシャツを着た色白の若い男が辺りをきょろきょろと見渡した後、小さく頭を下げる。


「俺は越尾雷。うちは誘拐されても何も出せないくらい貧乏だぜ?」


 両耳にピアスをつけた金髪の若い男が肩をすくめながらそう言う。


「私は東花梨です~。うちはいわゆる中流家庭のそこそこの家です~」


 糸目の黒髪の若い女が深々と頭を下げる。


「え、えーと、ワタシは万頭ワントウ タオ。中国から留学生として日本に来とるんヨ」


 お団子頭の若い女は妙なアクセントの言葉を話している。


 全員が名前を名乗り終えると同時に、いつものように魔法の盾が仮面をつけた魔物を映し出した。


『親睦は深め終わったかね、諸君。今日は君たちをお菓子の家に招待させていただいた。心行くまで召し上がってくれ』


 …む?

 もしかしてついに今まで俺たちにしてきたことを反省して心を入れ替えたのか?

 いや、待て。そういえば前にもこのパターンがあったな…。


「さては毒を仕込んだな!二度も同じ手には引っかからないぞ!」


 仮面の魔物にビシっと指を突き立て、そう声を上げる。

 俺の言葉に背後でみんなが“え?毒?”とざわざわしている。

 しかし仮面の魔物は戸惑うことなく楽しそうに肩を揺らしながら笑った。


『クックック、随分と信用されていないようだな。じゃあ口にしてみたらいい』


 HPの高い俺ならば毒を食らったところで長時間歩き続けなければ死ぬことはない。

 毒見は俺がするしかないな。


 バームクーヘンで出来た机に近づき、片手でむしり取ると口に運ぶ。


「む…っ!」


 こ、これは…!


「や、やっぱり毒だったのか…?」


 ナツメ・レンが不安げに俺を見る。


「美味い…!甘すぎないししっとりしていて食感もいい…!いくらでも食べられそうだ!」


 そういえば前に毒入りの料理を食べさせられた時も味は最高に美味かった。

 こんなに美味い料理を作れるのならば、毎度毎度馬鹿みたいなことをせずに料理人にでもなればいいのに。

(黒幕談:金に飽かせて一流の料理人やパティシエに作らせただけで俺が作ったわけではない)


「ハッ、待て、他のものに毒が入っているかもしれない!」


 呆気にとられるみんなを横目に、次々と菓子に手を伸ばす。

 どれも今まで食べたことがないほど美味かった。


 美味い!手が止まらない!

 まさか中毒性のある毒が入っているのか!?

 しかし俺は毒状態になっていない…!

 クソッ!これも何かの罠なのか!?わからないが、とにかく美味い!

(黒幕談:普通に美味いだけだぞ)


「ちょっと!アンタばっかずるいですわ!わたくしにもおよこしなさい!」


 カドベ・ランがゼリーでできたグラスを口に運ぶ。

 それを皮切りに全員が一斉に菓子をむさぼり始めた。


 しまった、あまりの美味さに気を抜いてしまった…!

 まだ毒見が終わっていないのに…!

 口の周りについた食べかすを拭いながらみんなを止めようとするが、みんなはお構いなく菓子を口に運ぶ。


「あ、このふ菓子美味いな!」


 コシオ・ライが黒い棒のようなものでできた柱(ふ菓子というらしい)をかじっている。


「このどら焼きのクッションとっても美味しいです~」


 アズマ・カリンが頬を抑えながら、間にチョコレート?のような黒いソースが挟まった丸い焼き菓子(どら焼きというらしい)のクッションを口に運んでいる。


「コレほんまに美味いナァ!一体どこの職人が作っとるんやろカ!?」


 ワントウ・タオが両手にそれぞれ違った種類のケーキを持ち、嬉しそうに目を細めながら交互にそれを食べている。


 だ、大丈夫そうだな…。


『ほら、毒など入れていないだろう?ただ君たちに喜んでもらいたかっただけなのに、疑われて悲しいなぁ』


 仮面の魔物が肩をすくめている。

 仮面越しでも悲しみが伝わってくる…。

 あいつは本当に心を入れ替えたんだ…。

 それなのに、俺はあいつを疑ってしまった…。


 俺は勇者失格だ…!


「すまない、仮面の魔物!君は心を入れ替えたんだな!君を疑った俺をどうか許してほしい!」

『は?仮面の魔物?いや私人間だけど』


 衝撃の事実だ。

 人間だったのか…。

 人間が何故魔王の味方をしていたんだ?

 まさか魔王に家族を人質に取られて仕方なく協力していたとか…!


「君も苦労していたんだな…。それを知らずに、すまなかった…!」

『え?あ、はい…』


 きっとこの男の家族が助かったから魔王の味方をするのをやめたんだな。

 昨日のライバルは今日の仲間だ。

 これからは協力して魔王を倒そう!


「今日から俺たちは仲間だ!君の名前は?」

『は?仲間?え?あ…じゃあ黒幕で…』

「クロマク!よかったら君もこっちに来て一緒に食べないか?とっても美味いぞ!」


 魔法の盾に手を振りながら船の模型の形をしたマドレーヌを頬張る。

 みんなも“黒間はん!デザートビュッフェに招待してくれておおきにナー!”などと言いながら魔法の盾に手を振っている。


『えー…なんか毒気抜かれそう…。いやいや、私は黒幕だ、しっかりしろ』


 クロマクが何か呟きながら首を大きく横に振っている。

 ん?もしかして遠い場所にいるのか?

 そうか…、こんなに美味いのに来られないなんて残念だな…。


『クックック…、何を呑気なことを言っているのかね…。私が君達の仲間?冗談もほどほどにしたまえ…』


 クロマクが肩を揺らしながら笑っている。

 何か楽しいことでもあったのだろうか。


『まだ気づかないのか?だんだん苦しくなってきていないか?』


 …まさか、やっぱり毒が…!?

 どうして!?クロマクは俺達の仲間になったんじゃなかったのか!?


『このお菓子の家は完全に密封されている。おまけに天井付近にはアイスクリームが溶けないようにたっぷりドライアイスを設置してある。ドライアイスは二酸化炭素だ。二酸化炭素は空気よりも重い。…あとはわかるな?』


 …??

 すまない、難しいことはわからないんだ…。

 俺のレベルは999だが、何故かかしこさだけは他のパラメータと一緒に上がってくれなかったんだ…!


「すまない!どういうことか教えてくれ!」

『もうすぐ窒息して死ぬってことだよ!なんでわかんないんだお前はっ!』


 クロマクが苛立ったように声を荒げる。

 なんだ、もうすぐ俺達は死ぬってことか!


 って、なんだって!?


『そうか。どういうトリックなのか、君は何故か水中でも呼吸ができるから空気がなくとも平気なのか。だが他の五人はどうかな?それとも君は自分さえ助かればいいという人間なのか?』


 クロマクの言葉に全員が一斉に俺を見る。

 違う!俺は仲間を見捨てて自分だけ助かろうとはしない!

 何故なら俺は勇者だからだ!

 みんなを守ることが俺の役目だ!


「俺は誰一人見捨てたりしない!この家は全部菓子でできてるんだろう!?だったら壁を食って脱出するまでだ!みんな!壁を食うんだ!あと俺は水中で呼吸ができるだけで空気がないと普通に窒息するぞ!?」

『クックック、そうくるだろうと思って壁も床も天井も厚さ10mの特注にしておいた。食いきれるものなら食ってみろ!ハーッハッハッハ!…って、え?そうなの?それはありがたいけど、なんで?』


 みんなに声をかけ、壁にかじりつく。

 こんなことなら初めから壁を食っていればよかった!

 10mの厚さがどれくらいか想像できないが、こっちは六人もいるからな!


 全員で一か所の壁を食い続ける。

 食っても食っても外は見えず、最初は美味いと思っていたクッキーの単調な味と口の中の水分全てを持っていかれるパサパサ感が俺たちを苦しめる。


「うう、口の中がパサパサですわ…。水はないのかしら…?」

「水なら…あ、ない!?」


 腰に下げた道具袋に手を伸ばすが、そこに道具袋はなかった。

 どうやらクロマクに奪われてしまったようだ。

 なんと卑怯な…!


「同じ味ばかりきついです~…。ちょっと他のものも食べていいですか~?」

「いやいやアカンやロ!命かかってんデ!」

「つかもう腹いっぱい…10mって無理ゲーじゃね…?」

「ヤバイ、もう意識が…」


 みんなの食べ進めるペースがどんどんと落ちていく。

 みんなの手が進まないならば、俺がやるしかない!


「うおおおおおおおおお!!!!」


 壁に顔をつけ、歯でクッキーを削りながら機械的に胃に流し込んでいく。


『クックック、無駄なあがきを…。一体どうやってその胃の中に10m…いや残り9mほどか…のクッキーを納めるというのだ…。胃が破裂してしまうぞ?』


 クロマクが何か言っていたが俺の耳には届かなかった。

 ただひたすらに目の前にあるクッキーを食い続けるだけだ!!


「うおおおおおおおおお!!!!」

『クックック…、哀れだな、ユシヤ…』




 ***




「外だ!みんな!しっかりしろ!外だぞ!」

『は?』


 どれくらい食べ続けただろうか、ついに厚いクッキーの壁は崩れ、俺は外に脱出することに成功した。

 急いで部屋に戻り、意識が朦朧としている五人を担ぐと外に走った。


『は!?いや!お前の胃袋どうなってんの!?』


 クロマクが何か言っていたが、無視した。

 もうあんな奴知らん!!

 仲間になったと思ったのに!


*説明しよう!

 ユシヤの胃袋は無限の広さを誇るぞ!

【お約束⑯ 何故か一度に食料を99個食べても回復薬を99本飲んでも平気な冒険者たち】


「う、うう…。もう一生クッキーは食べたくありませんわ…」

「お菓子なんて見たくもない…」

「甘いもん嫌いになった…」

「日本怖いとこやワ…」


 みんなにゆっくりと深呼吸させると、意識がだんだんとはっきりしてきたようで口々に菓子への恨み言を口にする。

 よかった、全員無事なようだな。

 ほっと安堵しているとアズマ・カリンがこう言った。


「そういえば律儀に食べ進めなくても、壁を破壊して外に出ればよかったんじゃないですかね~?」


「・・・・・・」


 その言葉に全員が絶句し、互いに視線をかわした後、一斉にこう叫んだ。


「「「「「もっと早く言ってくれる!?」」」」」



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

門部かどべ らん(女子高生)

夏目なつめ れん(男子高生)

越尾こしお らい(男子高生)

あずま 花梨かりん(女子高生)

万頭ワントウ タオ(女子高生(留学生))



第十四話 完


■おまけ情報■

ロプーレの世界の冒険者たちはいくら食べてもおなかがぽっこりすることがないぞ!

もしかしたら冒険者たちの胃袋と道具袋は四次元につながっているのかもしれないね!


■おまけ情報2■

ユシヤの腰に下げていた道具袋はお菓子の家の外に落ちていたから回収したぞ!

中身は無事だったぞ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

門部かどべ らん(女子高生)…モンブラン

夏目なつめ れん(男子高生)…メレンゲ

越尾こしお らい(男子高生)…雷おこし

あずま 花梨かりん(女子高生)…かりんとう

万頭ワントウ タオ(女子高生(留学生))…桃饅頭

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