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第十一話 ウォーター・デスルーム

 黒幕だ。

 またしてもユシヤを殺すことに失敗してしまった。

 ここまできたらこっちも意地だ。

 黒幕の名に懸けて絶対にユシヤを殺してやる!


 何をやっても死なないユシヤだが、私は知っている。

 ユシヤは恋愛の免疫がないということを。

 ちょっと美人に優しくされると簡単に惚れてしまう。

 佐木司の件がいい例だ。


 そこで金で雇った殺し屋をユシヤの元に送り込んだ。

 殺し屋といってもユシヤを殺させるわけではない。

 私がここまで苦戦しているのだからたかが殺し屋ごときにユシヤが殺せるわけはないし、ユシヤは俺のデスゲームで殺すと決めているのだ。


 私が知りたいのはユシヤの弱点だ。

 案の定ユシヤは色仕掛けに簡単に落ちた。


 殺し屋アサガミの情報はこうだった。


「アンタが知りたがってた情報仕入れてきたわよ。あのコスプレ男、泳げないんだってさ」


 クックック…、ついにユシヤに引導を渡す日が訪れたようだな…。

 次のデスゲームはウォーター・デスルームだ!




 ***




 俺は勇者ユシヤ。

 先日酒場で飲んでいたら淡麗な顔立ちの女性と意気投合し、朝まで飲み明かした。

 酔いつぶれてしまって気づいたら女性はいなくなっていたんだが、名前を聞いておけばよかったな…。


 あ、そうそう、今回も見知らぬ場所に囚われている。

 部屋には数人の男女。

 手には手枷、足には足枷がつけられており、自由に動かすことができない。

 それにしても今回はやけに天井の高い部屋だ。

 クリスタル製だろうか?何故か壁はツルツルしている。


 しかし、不可解なことに窓もドアも見当たらない。

 一体俺たちはどうやってここに連れてこられたんだ…?


 そうか、上か。

 目を凝らすと天井付近に小窓のようなものがいくつか見える。

 あれが出入り口か…?


「う…」

「あれ?ここは…?」

「うわ!?アンタなんだ!?」


 みんなが次々と目を覚ます。

 そして俺を見て驚きの声を上げる。


 フッ、見た目だけの鎧だが、勇者だと気づかれてしまったかな…?


「何だこのコスプレ男!」

「お前が俺たちを閉じ込めたのか!?」


 …もしかして俺は今みんなをさらった犯人だと思われているのか?

 しかし時々言われる“コスプレ”と一体なんなんだ?

 多分この国の言葉で勇者を指す言葉なんだと思うが。


『そろそろいいかね?』

「うわ!またコスプレ男!」


 ブンと音を立てて魔法の盾が仮面をつけた魔物を映し出す。

 いや、どう見てもそいつは勇者じゃないだろう!

 あの魔物と俺のどちらもコスプレ(ゆうしゃ)に見えているとしたら解せんな…。


『自分の置かれている立場がわからないようだな。ゆっくりと説明をしてやろうかと思ったが気が変わった。ゲームスタートだ』


 仮面の魔物が指を鳴らすと、天井付近にある小窓の内二つから勢いよく水が放たれた。

 待て、この部屋には窓もドアもないんだぞ!?


『なーに、簡単なことだ。泳いで天井の小窓から脱出すればいいだけだ。できるものなら、な』


 …泳いで…?


「待て!俺は泳げないんだ!」

『ウォーター・デスルームスタートだ!』


 ど、どうしたらいいんだ?

 ジャンプで…無理だ!あんな高いところまでジャンプできるわけがない!

 壁をよじのぼって…それも無理だ!ツルツルしていてとても登れたものじゃない!

 そもそもまずはこの手枷と足枷をなんとかしなくては脱出どころじゃない!


「泳ぎには自信があるのに…!」


 カチューシャをつけた短い髪の若い女が手錠を外そうともがいている。


「ウチ恨まれるようなことしてへんやろ!?」


 妙な方言の前髪が綺麗に揃った女もじたばたともがいている。


「クソッ!これさえなきゃ…!」


 金髪の男が忌々しそうに手枷と足枷を睨みつけ、乱暴に壁に叩きつけている。


「ふえええ、お母さん!お母さーん!」


 お団子頭の若い女は泣きながら母親を呼んでいる。


「諦めるな!まだ助かる道はあるはずだ!」


 身長の高い筋肉質な男が泣いているお団子頭の女を励ます。


 そうだ、諦めては駄目だ!

 俺は勇者だ!

 みんなを守るのが勇者の務めだ!


 バキッ。


 両手に力を入れ、手枷を引きちぎる。

 その際に手首にダメージを負ったが、これくらいの傷、なんの問題もない。


「え、すげえ…」


 金髪の男が目を丸くしてこちらを見ている。

 手が自由になったならば次は足だが、それよりまずみんなを助けねば!


「先に君たちの枷を壊す!少し痛いかもしれないが我慢してくれ!」


 水の中では力が入らないため、手を上げさせ力任せに枷を引きちぎる。

 手枷を引きちぎった後は足を上げさせ同じように引きちぎる。

 引きちぎる際に鉄でできた枷が手首と足首を強く擦ったため、血がにじんでいて痛々しい。


「っ…」

「すまない、その傷は脱出した後でなんとかしよう」

「ええよ、こんなんかすり傷や。それよりアンタもはよ!」


 既に水は口元まで来ている。

 自分の足枷を引きちぎるのは難しいだろう。

 それに、引きちぎったところで俺は泳げない。


「俺は大丈夫だ!先に行ってくれ!」

「…わかった、絶対に死ぬなよ!」


 そして水は勢いを増していき、あっという間に俺を飲み込んだ。


『ほう、潔く諦めたか』




 ***




「ぷはっ!み、みんな生きてるか?」

「う、ウチは大丈夫や」

「ふえええん、怖かったですー!」

「よかった、みんな無事に脱出できたようだな」

「ちょ、ちょっと待って!あの鎧の人がいない!」


 その言葉に全員がハッとなり、満水となって水が止まった小窓から中を覗き込む。

 鎧を着ていたために浮かんでこないのか、澄んだ水の底にはユシヤが沈んでいるようだった。


「そ、そういえばあの人泳げないって言ってました…!」

「そんな…!俺たちを助けて自分だけ…!」


 サァっと全員の顔色が青くなる。

 自分が死ぬとわかっていて迷いなく他人を助けられるその覚悟と漢気に誰もが皆心から感謝し、涙を流しながら手を合わせた。

 そんな時だった。


「おーい!みんな無事脱出できたかー!?」


 どこからか、ユシヤの声が聞こえた。




 ***




 みんなが天井の小窓から覗き込んでいる。

 どうやらちゃんと脱出できたようだ。


「おーい!みんな無事脱出できたかー!?」


 大きく手を振ってみんなに声をかける。


「すまないがその小窓からおもりを付けたロープを投げ込んでくれないか!?頼む!」


 遠すぎてよく見えないが、聞こえただろうか?

 先に脱出した5人は辺りをキョロキョロ見まわしたり互いに顔を見合わせたりしていたが、しばらくするとおもりの付いたロープを投げ込んでくれた。


 よかった!これで俺も脱出できる!


 ロープをしっかりと握りしめ、上へ上へと登っていく。


「はあ、死ぬかと思ったぞ」


 先に脱出した5人が信じられないといった目で俺を見ている。

 …ああ、そうか!俺が水中で呼吸や会話ができたことに驚いているのか。


「驚かせてしまったな。前に海底都市シベットに行く時に精霊から水中で呼吸や会話ができるようにしてもらったんだ」


【お約束⑩ 何故か高確率で海底都市や海底神殿に行くことになるが、呼吸や会話はなんとかなる】


「え?チベットで…?」

「あ、わかった。この人マジシャンなんですよ」

「ああ!水中脱出とかやるもんな!」

「なるほどな」

「そんでそないけったいな恰好しとるんやなー」


 ん?俺は魔導士ではなく勇者だが…。

 しかしけったいとは“かっこいい”という意味だろうか。

 偽物の鎧だが、買ってよかったかもしれないな。


「全員助かってよかったなー」


 うんうん、何はともあれめでたしめでたしだ!


『あいつ水中脱出もできんのかよ…』



■今回の生還者一覧■

ユシヤ(自称勇者)

永部ながべ みどり(女子高生)

道河真紀みちかわ まき(ダイビングインストラクター)

台場だいば はじめ(ライフセーバー)

神久かみひさ みち(女子中学生)

仙水永豊せんすい えいほう(漁師)



第十一話 完


■おまけ情報■

ユシヤは水中で呼吸ができるし、会話もできるし、戦うこともできるし、装備品を変えることもできるし、休憩することもできるぞ!

どういう仕組みなのかはユシヤ本人も理解してないぞ!


■おまけ情報2■

永部翠は10年後、オリンピック競泳女子200m個人メドレーで金メダルをとることになるぞ!

神久路も10年後、アーティスティックスイミングチームで銀メダルを獲得したぞ!


■名前の由来■

ユシヤ(勇者)…勇者

永部ながべ みどり(女子高生)…水泳部

道河真紀みちかわ まき(ダイビングインストラクター)…かっぱ巻き

台場だいば はじめ(ライフセーバー)…ダイバー

神久かみひさ みち(女子中学生)…シンクロ

仙水永豊せんすい えいほう(漁師)…潜水泳法


アサガミ、本名:浅神八代子あさがみ やよこ(殺し屋)…アサシン+殺し屋


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