番外編 ユシヤ、剣と鎧を買う
俺は勇者ユシヤ。
そう、勇者なのだ。
しかし、いつも“村人”だと思われてしまう。
鎧を装備していないことが問題なのはわかっているので、今日は街に防具を買いに行こうと思う。
道具袋になんでも入っているから生活には困らなかったのだが、あいにく武器防具は道具袋に入れていなかった。
この国で使えるという“円”を前にフジノヤ・マイたちから貰っていたのでこれで、武具を買おう。
と、意気込んで街に繰り出したものの、武器屋も防具屋も見当たらない。
…そうか、世界が平和になったから武具屋がいらなくなってしまったのか!
クソッ、既に新しい魔王が産まれているというのに…!
どこかに、どこかに武具屋はないのか!?
そうだ、情報を手に入れたいときは町人に話を聞くのがセオリーだ。
「すまない、この辺りに武器屋か防具屋はないだろうか?」
「は?」
怪訝そうな顔をされて逃げられてしまった。
しかし勇者は諦めない!
「すまない、この辺りに武器屋か防具屋はないだろうか?」
「え?何この人、ヤバ」
また逃げられてしまった。
この国の町人たちはどれだけ平和ボケしてしまってるんだ…!
もう新しい魔王が産まれているんだぞ!?
諦めずに待ち行く人たちに声をかけ続けたところ、自警団に連行されてしまった。
「で、君の職業は?」
「勇者だ」
俺の言葉に紺色の服を身に着けた自警団たちが顔を合わせ、人差し指で自分の頭をつついた後小さく首を振る。
「あー…はいはい、勇者ね。あのね、この街ではむやみやたらと人に話しかけちゃいけないんだよね、わかる?」
そ、そうだったのか…。
この街にはこの街のルールがあったんだな…。
「すまない、知らなかったんだ…。俺はただ武具屋に行きたくて…」
「あー、はいはい…コスプレショップね…。だったらこの道を真っ直ぐ行って二つ目の角で…」
自警団に聞けばよかったのか!
これでもう村人と呼ばれずに済む!
「もう人に迷惑かけちゃダメだよ~」
「肝に銘じる!ありがとう!」
自警団に手を振り、颯爽と街を歩く。
しかし優しい人たちだった。
感謝だな!
***
「ここ、か…?随分派手な武具屋だな…」
目に飛び込んできたのはやたらと明るく華やかな店だった。
絵画とは違う妙な絵柄の少年少女の絵があちこちに貼ってあり、どこかにオーケストラがいるのか店内には耳が痛くなるような賑やかな音楽が流れていた。
客も若い男女ばかりのようだ。
しかし剣や鎧などの装備品が飾ってあるので、たしかにここが武具屋のようだ。
そうか、世界が平和になったから武器も防具も“おしゃれ着”扱いになってしまったということか…!
嘆かわしい…!
武器職人のドワーフが見たら泣くぞ…!
それにしてもなんて居心地が悪い店なんだ。
俺だけ浮いているというか…。
装備品を買ったらすぐに出て行こう。
「…ん?」
剣を手に取ってみて驚いた。
これは張りぼてじゃないか…!
この店はこんななまくら刀以下のものを売っているのか!?
攻撃力も“きのぼう”より少し攻撃力が高いくらいだ…!
まさかと思い、鎧に目を向けると鎧も同じだった。
この店は粗悪な品を取り扱う悪徳な店…いや、魔王が倒されたことで武具が見た目重視の“おしゃれ着”になってしまった故のことなのか?
「くそ、これじゃあ…」
「あー!お兄さんもしかして“魔王城傍の村にすむ村人ですが、村の傍の雑魚モンスターを倒してたらLV999になってました”のトビラムのコス!?」
手に取った鎧を戻そうと思ったその時、やけに短いスカートをはいたピンク色の髪の若い女に声をかけられた。
「たしかに俺はLV999だが…」
「やっぱり!あ、その衣装買うの!?いいよね!トビラムが第五話で勇者になった自分を妄想したときの衣装!」
…???
彼女は何を言っているんだ…?
「絶対似合うよ!ま、ちょっとトビラムより年いってそうだけど、コスプレに年齢は関係なし!」
あれよこれよという間に、カウンターまで連れていかれ、気が付けば見かけだけの鎧を着せられていた。
「いやー!お兄さんめっちゃ似合うよー!あ、あたしは風越麗夜!どっかのイベントでまた会えたらいいね!」
よくわからないまま、彼女は嵐のように去っていった。
結局さほど役に立たなさそうな鎧と剣を買う羽目になってしまった…。
もしかして、彼女はこの店の“さくら”だったのか!?
また女性に騙されてしまったと肩を落とすと、視界に姿見が入った。
…だが、この恰好はなかなかサマになってるな…。
*ユシヤは勇者の鎧(コスプレ衣装)と勇者の剣(コスプレ衣装)を手に入れた!
番外編 完
■おまけ情報■
これ以降ユシヤは“コスプレの鎧”を身に着けることになるぞ!
そのせいで職務質問の回数が格段に増えたぞ!
■名前の由来■
ユシヤ(勇者)…勇者
風越麗夜(コスプレイヤー)…コスプレイヤー
トビラム(村人)…村人




