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第一話 死の一本道(デス・ワン・ロード) 前編

 魔王に支配された世界、ロプーレ。

 人々は闇に怯えて暮らし、世界は絶望で覆われていた。


 しかしそれもかつてのことで、レベル99の勇者ユシヤにより魔王が倒され幾年。

 いまやロプーレは光と緑にあふれる美しい世界となった。


 世界が平和になった後もユシヤは一日たりとも鍛錬を欠かすことはなく、いまやそのレベル999。

 もはやユシヤに敵うものはこの世界にも、どの世界にもいなかった。


 そして今日もユシヤは鍛錬に励む。

 ロプーレの民たちは「もう世界は平和なんですよ」と笑って声をかけるが、そんなユシヤを民たちは愛し、ユシヤもまた民たちを愛していた。


 そんなときだった。


 ユシヤの足元に魔法陣のようなものが現れ、ユシヤがそれに気づくより早くユシヤの体は光に包まれ、光が消えると同時にユシヤの姿も消えてしまった。

 後に残されたのは使い古された長剣だけであった。


 ロプーレの民たちは突然のユシヤとの別れを嘆き悲しんだが、ユシヤが神に見初められ天界に上っていったのだと信じ、その日を勇者記念日とした―――




 ***




 ハッ。


 どれだけ眠っていただろうか。

 酷く重く感じる体を起こし、辺りを見渡した。

 窓のない部屋をわずかばかりの蝋燭が照らしている。

 床は…これは石造りだろうか、冷たくひんやりとした感じが手を伝う。

 天井付近には四角い盾のようなものがついている。


 部屋には数人の男女…。

 その誰もが俺が見たことない奇妙な恰好をしている。


 そうか、新たな魔王が産まれたか…!

 おそらく俺たちは魔王につかまり監禁されているんだ。

 なんたる不覚…!

 体は鍛え続けていたが、心の方は平和でなまくらになってしまっていたのか…!


「ここどこだよ…!?」

「家で寝てたはずなのに、なんで…!?」

「何これ…!?」

「え?夢…?」

「まさか誘拐…!?」

「クソッ!スマホがねぇ!」


 俺よりも遅れて目を覚ました者たちが混乱した様子で声を上げている。

 みんなを守るのは勇者の役目…!


「大丈夫だ、俺がいる。すぐにここから…」


 俺がそう言いかけた時だった。

 天井付近に取り付けられた盾がブンという音を立て、盾の中央部に仮面をつけた顔が現れた。


 そうか!あれは盾に擬態した魔物だったのか!


「危ない!みんな下がれ!」


 みんなを背に声を上げ、戦闘態勢をとる。

 監禁された際に剣は奪われたのだろう。

 しかし俺は勇者だ!剣がなくともこの体ひとつでみんなを守ってみせる!


『ハッハッハ、今回は随分威勢のいいのがいるようだな』


 仮面をつけた魔物が高笑いをする。

 この風格…そこらの雑魚モンスターとは違うようだな。

 おそらく中ボスといったところか。


『君たちにはこれから私の出すデスゲームに挑んでもらおう。無事生き残ることができればここから出してやろう!』


 デスゲーム…?魔物の名前か?

 しかし俺の知らない魔物だ。

 そうか、新たな魔王が産まれたということは、その魔王が率いる魔物も前とは違うということか。

 つまりこれまで身に着けた魔物の情報はなんの役にも立たない…!


 だが勇者は負けない!

 どんな魔物でもかかってこい!


『そのドアをくぐればデスゲームの始まりだ!ハーッハッハッハ!』


 そう言うと盾から顔が消え、再びなんの変哲もない盾に戻った。


 なんだ、あれはただの伝達用の魔物だったのか。

 本物の敵はあのドアの向こうにいるというわけか…。


「は?デスゲームってなんだよ…!?」

「ドッキリ?ドッキリなんでしょ、これ!」

「なんで、なんでこんなことに…」


 みんなが混乱している。

 ある者は頭を抱えてうずくまり、ある者は怯え涙を零している。


 これは、魔王に支配されていたときのみんなと同じ姿…!

 愛するみんなにまたこのような思いをさせてしまうとは…!


「大丈夫だ、デスゲームは俺が倒」

「うるせぇよ」


 みんなを安心させるために一歩前に踏み出すと同時に、黒髪の男がそう言った。


 たしかにいつも声が大きいと言われていたが、みんなを心配させまいとしてのことだったんだが…。


「あ、あいつは…登録者数500万人超えのチャンネルを持つ超人気ゲーム実況者の田中ボタモチ!」

「どんなクソゲーにも攻略法はある。これだってゲームというからには攻略法があるはずだ」


 そう言うとタナカ・ボタモチと呼ばれた男は不敵に笑み、髪をかきあげた。


 タナカ・ボタモチ…?

 俺は知らないが、高名な魔導士か何かなんだろうか?


「幸いここは安地のようだ。まずはここでデータマイニングし、黒幕を確キルする」


 タナカ・ボタモチが何やら説法を始めたが、俺には何を言っているのかよくわからない…。

 とりあえずあのドアの向こうにデスゲームがいるんだからさっさと倒してこよう。


 音を立てないよう、そっとドアを開ける。

 隣の部屋は灯もなく、闇を体現したようだった。

 隣の部屋から漏れる灯でかろうじて入り口周辺だけは見ることができるが、ドアを開けたままにしていてはみんなに気付かれる。

 タナカ・ボタモチの邪魔をするわけにはいかないから閉めておこう。


 …暗い。

 何も見えない。

 この奥にデスゲームがいるのか…?

 油断せずに進まねば…。


『クックック、謎解きもせずに無謀にもつっこんできたヤツがいるな…』


 ブンッ。


 何かが俺の鼻先をかすめる。


「っ」


 これは…罠か!

 どうやら刃物のようなものが左右に振れているらしい。


『ほう、寸でのところで避けたか。だが罠はこれだけではないぞ?』


 慎重に進まねば、と一歩踏み出した瞬間だった。


 カチッ。


「しまった!」


 何かの仕掛けを踏んでしまった。

 それと同時に無数の矢が俺めがけて飛んでくる。

 避けることも叶わず、無情にも矢は俺の背中に突き刺さった。


『ハーッハッハッハ!まずは一人!』


「あー、痛かった。20ダメージといったところか」


 背中に刺さった矢を右手で引き抜き、再び奥へと進む。


『…え?』


*説明しよう。

 ユシヤのHPは999999あるので、矢が刺さったくらいで死ぬことはないのだ!

【お約束① ダメージを受けてもHPが残っていれば死なない】


「しまった!また罠か!」

「クソ!また踏んでしまった!」

「あ!また踏んでしまった!」


『え?え?なんで死なないの?』


 いくつもの罠にかかりながら奥へ奥へと進む。


 目が慣れてきた。

 どうやらここは長い一本道だったらしい。


 デスゲームの前に罠を用意するとは、なんと卑劣な!


「気を付けろ、何があるかわからないぞ」


 遠くからタナカ・ボタモチの声が聞こえる。

 まずい、もう入ってきてしまったのか。

 まだデスゲームは倒していない…!


 焦りながら辺りを見渡すと、ドアがあった。

 デスゲームはこの部屋ではなく次の部屋にいるのか…?


「ドアを閉めるな。この部屋には灯がない。見ろ、壁に何か書いてある」

「この文字なんですかね…?」

「これは謎解きだ。脱出ゲーはやりつくしたからな、任せておけ」

「田中ボタモチさんスゲー!」


 タナカ・ボタモチたちが何か話しているが聞こえない。

 俺は次の部屋に移動するか…。



■プレイヤー一覧■

ユシヤ(自称勇者)

田中たなかボタモチ(ゲーム実況者)

持田伊虎もちだ いのとら(フリーター)

阿波衣美あわ えみ(看護師)

盛部英子もりべ えいこ(女子大生)

寅木守恵とらき もりえ(OL)

樫木仁也かしき じんや(電気工事士)

忠野萌歩ただの もえほ(ホールスタッフ)



第一話 完

■おまけ情報■

ロプーレの世界には電化製品は存在しないので、ユシヤはモニター(テレビ)のことを盾に擬態した魔物だと思っているぞ!

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