彼の真意(3)~とある人物視点~
二階に向かい、大きな柱の陰にいるカーチスとミーガンを見つけ、二人の悪巧みを聞いた時は……。カーチスを殴り飛ばしたい気持ちになった。ミーガンの狡猾さにも腹が立つ。
その一方で、このバカ者共がレイジーを排除し、婚約を目論んでいるのなら……それはそれで好都合では?と思った。
ミーガンへのいじめを理由に断罪され、婚約破棄となれば、レイジーの名誉は地に落ちる。だがわたしが彼女を婚約者に指名し、彼女の聡明さが知れ渡れば、そんな醜聞、すぐに上書きできるだろう。そうすることができる権力を、わたしは持っている。
ならば。
事の成り行きを見守るまでだ。カーチスのバカはいつ、自分が大失態をしたと気が付くか。恋敵かと思ったが、そんな価値すらない男だった。レイジーにとって、今日と言う日は、辛い日になるだろうが……それは一時。最上の幸せは、わたしが与える。
そうなると、塞ぎ込んでいた気持ちは晴れた。
一方で、カーチスとミーガンは、少しだけ不穏な会話をしている。
「だけど本当に、こんな大勢の前で、レイジーを非難する必要があるのだろうか? あいつの両親も今日は来ている。黙っているはずがないと思うが」
「もう、カーチス様ったら! 怖気づいたのですか? ダメです。あの女はみんなの前で恥をかかないと!」
少し口論した後、ミーガンはカーチスを置いて、階下へと降りて行く。
なんだ、あの二人。一枚岩というわけでもないのか。
だがあの二人がどうなろうと関係ない。
レイジーと婚約破棄したカーチスとあのミーガンなど、どうでもいい存在なのだから。
こうして控室に入り、海が見えるというバルコニーに出た。少しずつ日没に向け、色を変えていく空を、眺めることにしたのだ。
そうしていると、あのミーガンが、ふらふらしながら庭園をうろつき始めて……。
すぐに理解した。ミーガンはカーチスと口論をしていたのだ。ヤケ酒をしたな?
だがまさか井戸でミーガンが粗相をするなんて思わなかったし、そこにレイジーが現れるとは、思ってもみなかった。しかもそれを見たカーチスが、何か勘違いしたように思えて……。
もう、見守るだけではダメだと思った。
わたしは……レイジーを手に入れる。
そのために動く。
そう決意し、声を挙げた。
――「こいつは井戸でゲロっていたんだよ」
この第一声を聞いた時のレイジーの顔。
信じられないという表情で、随分とひきつった顔をしていた。
きっと表現を、もっと穏便なものにしてください!――そう、思っていたのだろう。
でもわたしがズバリ言ってしまったから……。
ミーガンのような女狐、庇う必要などない――とわたしは思ってしまうが、レイジーは優しい。
彼女の優しさを思うと、ますます彼女が欲しくなる。改めてこの茶番を早く終わらせ、わたしの気持ちを伝えようと思い、動いたわけだが……。
すべてはうまくいった。
カーチスは婚約を破棄すると言い、その場にいた両家の両親も同意し、レイジーも受け入れた。
この時のわたしは狂喜乱舞だった。頭の中では。でもそれはおくびにも出さず、冷静に、レイジーに声をかけた。
だがまさか。
崖から海に落ちることになるなんて。
本当に驚いた。
今日のレイジーはラッキーなのか、アンラッキーなのか、よく分からない。
ただ、騎士の訓練の一環で、甲冑をつけたまま川を渡る……という練習をしていた。ゆえに海に落ちた後も、比較的冷静に行動できたと思う。
むしろ、冷静さを失いそうになったのは……。
洞窟を見つけ、火を起こし、お互い下着姿になった時だ。
あんな姿のレイジーを見て、自分の心身を律することができたのは、奇跡だと思う。どれだけ大変だったか。懸命に耐えているのに、彼女はサラリとこんなことを言う。
「見ていた……それはつまり殿下は、常に私のことを気にしていてくださったのですね」
まさにその通り。図星だ。
あまりも的確に言い当てられ、言葉が出なかった。
だが、思う。
もしも言うなら、今がチャンスではないのか?
この言葉を受け、告げる言葉であれば、流れとしては妥当だ。
ただ、なぜ、この場所でこの姿で、とは思う。
しかしすべてはタイミングだ。
婚約者候補として、レイジーの身上書が届いていたのに。
わたしはあの時、チャンスを逃し、彼女をカーチスに奪われている。
言うなら、今しかない。
もしこの後、救出されれば、医師の診察を受けたり、何があったのかと報告したりで、忙しい時間を過ごすことになる。鉄は熱いうちに打てという。こうしている間にカーチスが心変わりをして、やはり婚約破棄は止めたい――なんて言い出すかもしれない。
「レイジー・サンプソン公爵令嬢」
わたしのいつにない真摯な表情と声に、レイジーの表情が変わる。
驚きから真面目な顔になり、わたしをじっと見ていた。
「こんな場所で、しかもこのような状況で、伝えるつもりはなかった。……後日、やり直しもしたいと思うが、ある意味、あるがままの二人となった今。レイジー、君に伝えたいことがある」
不思議と言葉をきちんとしたものにすると、このありえない姿と状況でも、凛とした自分になれた。
「君が言う通りだ。初めて出会った時から、わたしは君に恋をしていた。だが君は婚約者がいる身だ。どうにもならない。だからずっと君のことを見守って来た。だがもう、ただ見ているだけは、止めることにした。わたしは……レイジー、君のことが好きだ。愛している。わたしの婚約者となり、隣に立ち、共に未来に向け、生きて欲しい」























































