足音
あなたは、長いトンネルの中を歩いていた。
トンネルは真っ暗でジメジメしていて、妙に蒸し暑い。
片手に持つ金属の懐中電灯が地面に灯りを落とし、ぼんやりとした光の円に苔むしたアスファルトが浮かび上がる。
一歩進むたびに、柔らかい地面に靴が沈む。
どこまで行っても、出口の明かりすら見えない。
あなたが後ろを振り返ると、そちらにも一片の灯りはなく、ただ黒い闇がよどんでいる。
肩から下げた水筒を持ち上げ、ぬるくなった麦茶を飲む。
一杯に麦茶を入れておいたのに、もうほとんど残っておらず、水筒は一口で空になってしまった。
あなたは、空になった水筒を地面に落とす。
安物の水筒は分厚い苔に受け止められて、ほとんど音もせず地面に転がった。
地面にはあちこちに水溜りがあるが、さすがにそれを飲む気にはなれず、あなたは再び出口を目指す。
あなたの足には疲労が溜まっていて、もう歩けなくなりそうだったが、トンネルの出口が見えることはなかった。
後ろから聞こえる微かな足音に、あなたは振り返った。
懐中電灯を向けても、そこには誰もいない。
気のせいだと自分に言い聞かせて、あなたは再び歩き始めた。
妙な違和感のせいで、無視していた恐怖が湧き上がってくる。
全身を包むような生暖かい闇を払おうと懐中電灯をあちこちに向けるが、古びたトンネルの壁がうっすらと照らされるだけで、闇は消えない。
気のせいと考えられるほど微かだった足音も、徐々に大きくなってくる。
自分の足音ではない。苔むした地面を踏みしめる音は、トンネルに反響しない。
誰かがいる。
あなたは走ろうとして、苔で足を滑らせて転んだ。
懐中電灯が手から離れて、地面にぶつかる。消えかけていた明かりが、完全に消えた。
辺りは完全な暗闇に閉ざされる。
残っているのは、あなたの荒い呼吸音と、苔を踏みしめる足音だけだ。
もう自分の足音が反響しているという可能性は完全に消えて、後ろから近づいてくる誰かの存在は確実だ。
立ちあがろうとするが、恐怖で痺れた足はうまく動いてくれない。
苔のせいで滑る。
足音はどんどんと近づいてきて、あなたの真後ろで止まった。
しんと静まり返る中、水滴の音が不気味に響く。
あなたは、ゆっくりと振り返った。