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オーク、伯爵令嬢に変身す。  作者: 塚田亮太郎
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第27話 オーク、退却する

 やっとの思いでグォッカたちは北王屋敷にたどり着いた。


 日は傾きつつある。


 既に少数の手勢を引き連れてアリスターとブラッディが到着していた。


「おお、生きておったか」

 アリスターはグォッカとメアリーを見つけると声をかけた。


「今はここにたどり着いた兵に北王を探索せよと命じている。お前たちも参加せよ」


 横にいるブラッディが、メアリーの様子を見てこちらに近づいてくる。


「……タタラレ化が進んでいるのか」


 低い声で話しかける彼女に、メアリーは腕を見せまいとしてかばう。


 その様子を見たブラッディは、何を考えているか分からない表情をしながら再びアリスターの元に戻った。


「……早く父を探しましょう、グォッカ」


 メアリーはブラッディの方を一切見ずに屋敷の中に進んでいく。


 慌てて、グォッカも後を追った。


 ベルベットの姿は、どこを探しても見当たらなかった。


 地下牢も執務室も全て当たってみるが、どこにもいない。


「父はここをとっくのとうに出ているのよ」

 メアリーが、書斎を探索しながら吐き捨てる。


「自分が逃げたことを有耶無耶にしたいから、町中にオークを放って大混乱に陥れた。いかにも父がしそうなことだわ」


「だろうな。下手をしたら西王の所に行って形勢を立て直すつもりかもしれねぇ」


 それを聞いたメアリーは目を丸くしてグォッカを見た。


「だとしたら、早くアリスター閣下に伝えなきゃ。父を探すのは後にして、今は帝都に戻って軍を立て直すべきよ」


 2人は探索を一旦止めてアリスターの元に向かう。


 しかし、アリスターはグォッカたちの案を突っぱねた。


「それはならん。今帝都に戻れば我がレッド・ファンゲル家は世間の笑いものになる。そうなればファンゲル一族の栄光に傷がつく。多少の犠牲を払ってでも北王を見つけねば帰ることは許されぬ」


「しかし閣下」

 メアリーが食い下がった。


「父が西王と組んで軍を編成した場合、少数となった我々が太刀打ちできるとは思いません」


「控えよ、メアリー」


 ブラッディが言う。


 心底嫌いな人間に名を呼ばれ、メアリーは鳥肌が立つ思いであった。


「されど閣下、北王が見つからず、兵がオークたちに蹂躙されている今、帝都に戻るとは言わずとも北都の外まで退却するのも手かと存じます」


 ブラッディが静かな口調で言うと、アリスターは腕組みをして唸りだした。


 打つ手なしかと思われたその時であった。


「ここに居られましたか、アリスター閣下!」


 聞き覚えのある声がした。


 グォッカたちがその方を向くと、屋敷の正門からなじみのある顔が見えた。


 東王ダグラスであった。


「東王!」

 これにはアリスターも驚いて声を上げた。


「一体どうしてお前がここにいる」


「北王討伐に閣下が軍を率いて出発されたとの知らせを聞いて、何とか我が軍も協力できないかと思ったまでです」

 ダグラスはにこやかに答える。


「しかし、道中にオークがいただろう、それはどう切り抜けたのだ」


 アリスターが声に喜びをこもらせながら問う。


「なに、我が騎士団は生半可な鍛え方はしておりませんからな。出会うオークはみな、切り伏せました」


 そこで、ダグラスはちらりとグォッカの方を見た。

 そして一瞬、目を伏せた。


「……北王はおりましたので?」

 今度は彼がアリスターに問うた。


「いや、見つからん。既に屋敷から逃げたのだろう」


「そういうことならば、我が軍の半分を探索に充てましょう。残り半分はオークの討伐に差し向けます。これならばお力になれるかと」


 ダグラスは後ろにいた騎士団長のウォルトに声をかける。ウォルトは騎士団を率いて正門の外に出ていった。


「……その志や、あっぱれである!」

 アリスターはダグラスの手を取って言う。


「ありがたき幸せ……少し、よろしいか」


 ダグラスはグォッカたちの方に向かってきた。


「グォッカ殿、メアリー嬢……よくぞご無事でおられた」


 彼は2人それぞれの手を取り、生きて再会できたことを喜んだ。


「グォッカ殿」

 ダグラスはグォッカの名を呼ぶと、複雑な表情をした。


「……私たちは、仕方がないとはいえ、あなたの同胞の命を奪った。それに関しては、大変申し訳なく思います」


 グォッカはその言葉を、口を真一文字にして聞いていた。


「……それは、仕方ないことだ。オデが東王の立場だったら、同じことをした。人間とオークは、決して交わることのない存在だ」


 ダグラスは顔に無念の情を浮かべた。


「オーク族を切り捨てねばならない状況を作ったのは、他でもない北王です。何としても奴を捕らえねばなりません」


「ああ、分かっている」


 不意に、死に際のジェリーの顔が浮かぶ。


 ……かつての親友を殺すことになったのは、北王が原因だ。


 だからこそ、捕らえてなぜこんなことをしたのかはっきりと聞かなくてはならない。


「……あれ、東王様、ずいぶん多くの兵を連れてきたんですね」

 メアリーが言う。


「ん? 確かに連れてこれるだけの軍はすべて動員しましたが……」


 ダグラスは正門の方を見た。


 つられてグォッカもそちらを見る。


 明らかに、ダグラスが連れてきた以上の兵が正門に向かってやってくる。


「敵襲か!?」

 アリスターが叫ぶ。


 グォッカの脳裏に、ベルベットが西王の軍を率いて屋敷を取り囲むという頭がよぎった。


 しかし、そうではなかった。


 兵を率いていたのは、南王カールであった。


「アリスター閣下、南王カール・エイミス、今よりご助力いたします」


 馬を降りたカールはその場に跪いて言った。


「南王! 貴殿も来たのか!」

 ダグラスが大音声で言うと、カールは驚いたように彼を見た。


「東王殿も来られたのですか!」


 ダグラスはカールの元に駆け寄り、彼と握手をする。


「南王、よう来てくれた。南都から北都までご苦労なことである」

 アリスターが声掛けをすると、カールはおどおどと畏まった。


「途中、オークの襲撃に遭いましたが、我が家臣ジェフリーが応戦し事なきを得ました。現在もオークを掃討している最中です」


 カールが言うと、アリスターは満足げに頷いた。


「南王、お前はそのまま全兵力をオークの掃討に充てよ。我が群は東王の軍と共に北王の捜索に当たる」


「しかし閣下、既に日が暮れかけております。南王の軍がオークの掃討に当たっている間に北都に退避してはいかがでしょうか」


 ブラッディが進言した。アリスターはうーむと唸る。


「……そうだな、ここにいても袋小路だ。急ぎ北都の大通りを突っ切り、郊外で兵を立て直す」

 アリスターはそう宣言した。


 こうして、アリスター軍は日が暮れかかる中、北都の外へと退却を開始した。

ダグラスとカールという頼もしい味方を得たグォッカたち。

果たして、ベルベットはどこに行ったのでしょうか。

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