表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク、伯爵令嬢に変身す。  作者: 塚田亮太郎
17/32

第17話 オーク、救出される

 カタカタと馬車が揺れ、北王屋敷に向かう。

 縄で縛られたメアリーとグォッカはひたすらに無言であった。


 グォッカは、うなだれていた。


 自分が村のオークではないこと。


 仲間だと思っていたオークたちから、実は疎外されていたこと。


 そして、仲間に2度も北王へ売られたこと。


 その全てを背負いすぎるには、このオークにも荷が重かった。


 ……要するにオデは、忌み子だったわけだ。

 そう結論付けても、彼は受け入れられなかった。


 オークに戻ることで、すべてが解決するはずだった。


 だが今、元に戻ったとしても受け入れてくれるところは、ない。


「……ねえ」

 メアリーが話しかけてくる。


 グォッカは特に反応を示さない。


「私たちがもし逃げられたらの話だけど」

 メアリーは気にせず話す。


「そのエルフの村に行って復讐してやりましょうよ」


 グォッカは失笑した。


「馬鹿言え」


「どうして笑うの?」


「じゃあ、エルフたちを倒したからって、オデはどこに戻ればいいんだ」


 メアリーは言葉に詰まる。


「エルフたちがオデを狙ったことが原因じゃない。オデがジェリーに魔法をかけたことがきっかけだったんだろ」

 きわめて無感情な声でグォッカが言う。


「おめぇ、分かるだろ。オデだって魔法を使いたくて使ったわけじゃねぇ。たぶん遅かれ早かれ、あの村にいようがいまいが、オデはオークの仲間じゃねぇとみなされただろう」


 メアリーは絶句した。


「このまま死ぬなら、しょうがねぇ。生きてたって、帰る場所もねぇ」


「……私は、あきらめないわ。生きて、自由になって、父に復讐する」


 メアリーが力強く言う。


 その様子を見て、グォッカは鼻で笑った。


「おめぇはせっかく自由を手に入れたんだ。ここでくたばるにはいかねぇよな」


 どこか皮肉めいた口調に、メアリーはカチンときた。


「何よその言い草。元はと言えば、あなたが私を誘ったんでしょ。あなたがあの暗い地下牢から私を出してくれた」


 メアリーは縛られながらも、ずいとグォッカの顔を覗き込んだ。


「あなたには、私と一緒に自由になる責任があるの。1人だけ船を降りるなんて、無責任よ」


 グォッカは押し黙った。


 確かに、オデがこいつを連れ出した。

 そのオデが、自由を捨てて死にに行こうとしている。


 でも、それでいいんだ。


 こいつだけでも自由に、幸せに生きるべきなんだ。


 オデのような、人間でもない、オークでもない中途半端な奴は、生きていても目的がない。


「ちょっと……聞いてる?」


 メアリーはさらにグォッカの顔を覗こうとした。


 その時だった。


「おい……なんだか外が騒がしくねぇか?」

 グォッカがまず異変に気付いた。


 馬車の中からは外の様子を窺い知ることができない。


 が、明らかに馬の足音が聞こえる。


「馬? 何かしら」

 メアリーが聞き耳を立てようとする。


 すると、外から怒声が聞こえてきた。


「何をする!」


「貴様らはどこの者だ!」


 どうやら、戦闘状態にあるらしい。


 剣と剣がぶつかる音がする。興奮状態になった馬の鳴き声も相まって、凄まじい音が馬車内に降り注いだ。


「狙いは何だ!」


「この馬車に捕らわれている者を引き渡せ」


 このセリフを聞いて、グォッカとメアリーは目を合わせた。

 北王ではない誰かが、オデたちの身柄を必要としている……?


「それは当然、できぬ!」


「されば、奪い去るのみ」


 また金属音が響き渡る。


 それが止んだ時、馬車の後方が開けられ、数名の騎士が中を覗き込んだ。


「居られたぞ!」

 そう言うと、騎士たちが馬車の中に入ってきた。


 グォッカとメアリーは呆然としていた。


 一体何が起こっているのだ?


 騎士の1人が短剣を取り出す。

 メアリーは短い悲鳴を上げた。


「縄を切るためでございます。少々、お待ちくださいませ」


 騎士は淡々と話すと、メアリーの縄を切り落とした。続いて、グォッカも。


 晴れて自由の身になった2人だったが、状況が呑み込めない。


 半ば放心状態になっているメアリーに代わり、グォッカが尋ねる。


「あなたたちは何者なのです。名を名乗りなさい」


 すると、騎士たちは一斉に膝をついた。


「我々は東都ビステから参りました、東王騎士団の者でございます。我が主、東王ダグラス様の命により、お2人をお救い申し上げに参上しました」


 これにはグォッカは目を見開いた。

 あの東王が、オデたちを助ける……?


「さあ、逃げるには今が好機でございます。急ぎ、我々についてきてください」


 東王の真意は分からないが、自由になった今、ここに留まる必要もない。


 グォッカはメアリーの手を引いて、馬車を降りた。


 周辺には、沢山の北都の騎士たちが倒れて伸びていた。


「これも全て、貴方がたがおやりになったのですか」


「我々は生半可な鍛え方をしておりませんので。さあ、参りましょう」


――


 2人を連れた騎士団が東都に入ったのは、その日の夕刻であった。


 そのまま、東王屋敷へと向かった。


「東王様、お二人をお連れ致しました」


 客間のドアの前で、騎士のリーダー格の男が言う。


「おお、お連れしたか! 入れ!」


 部屋の中から大きな声がした。


 ドアが開かれると、懐かしい顔がそこにあった。

 東王、ダグラス・ダニングであった。


「さぞお疲れでしょう……さあ、お座りなさい。ウォルト、何か暖かい飲み物を用意して差し上げるのだ」


 ウォルトと呼ばれた騎士団のリーダーは、すぐに部屋を出ていった。


「道中、ご苦労様でありましたな……ところで、どちらがメアリー嬢で?」


 メアリーがおずおずと手を上げる。


 ダグラスはふむ、と一声言うと、じっと2人を交互に見詰めた。


「やはり、似ておりますな。どうやら、北王が流した情報は誤ってなかったようだ」


「北王が流した情報?」

 グォッカが思わず尋ねる。


 すると、ダグラスは懐から1枚紙を出してグォッカに手渡した。

 2人はそれを見て、ぎょっとした。


 それは、指名手配書だった。


『指名手配 メアリー・エーブリーとその双子の姉 両名は北王家に仇し、侮辱したため、これを指名手配する。懸賞金金貨100枚』


「国中に撒かれておりますぞ、その手配書は」


 ダグラスは真剣な顔つきで言った。


「それで、本当に2人は双子なのですかな?」


 グォッカとメアリーは目を合わせた。


 そして、グォッカは子細をつまびらかに話すことに決めた。

「実は、私は……」


――


 グォッカの話を聞いたダグラスは、驚いてぽかんとしていた。


 そして、すぐに笑いだした。


「はっはっは! なるほど、あの時お会いしたのはオークの方のメアリー嬢だったのですか!」


 豪快に笑うダグラスを見て、メアリーが遠慮がちにいう。

「私たち、これからどうしたらよろしいのでしょうか」


 ダグラスはそれを聞くと、冷静な顔つきになった。


「私の保護下にいるのが一番いいかと思いますな」


 グォッカはそれを聞いて口をはさむ。

「しかし、こいつはオデが連れ出して一気に自由になったんだ。また屋敷に閉じ込めるのは、酷じゃねぇか」


 すっかり口調もオークのそれになっている。


「確かに、自由を求めて脱出したのならば気の毒ですがね。国中に手配書が出されている今、お二人だけでそこここを歩かれるのは危険ですな」


 ダグラスはぴしゃりと言う。

「さらにあなた方に悪い知らせがありましてな」


 ダグラスはソファに深く腰掛け、ゆっくりと言う。


「アリスター卿が、北王を征伐すると息巻いているという噂があります」


 グォッカとメアリーは大きく目を見開く。

「どうやら、北王がアリスター卿を暗殺しようとしたとのこと。アリスター卿も血気盛んな方ですからな。このままおめおめと自分に刃向かう者を放っておきますまい」


 さて、と一声発して、ダグラスは2人に目を向けた。


「この状況でお二人が外に出ようものなら、無用の混乱が生じる。国内の平穏のためにも、ここはこの屋敷にいた方がよろしいと思いますが、いかがかな?」


 ダグラスは2人のことをじっと見る。


 グォッカは、ここでメアリーが守られるのであれば、事が落ち着くまでここにいるのもありだとは思っていた。


 それを言おうとしたとき、メアリーが小さな悲鳴と共に腕を抑えた。


「おい、腕のそれ、また痛み出したのか!?」

 グォッカが大声を出しながら駆け寄る。


 メアリーの額からは脂汗が出ていた。

「……ちょっと見せていただけますか」


 ダグラスが駆け寄り、メアリーの服の腕をまくる。

 グォッカは、絶句した。


 以前地下牢で見たときよりも、傷の範囲が明らかに広がっていた。


「これは……タタラレ化か……」

 ダグラスの表情に焦りが見える。


「タタラレ化? なんだそれは」


「……闇の魔法使いが、その能力と引き換えに負う傷だ。体を蝕む傷と引き換えに、闇の魔法使いは力を発揮できる……ここまで大きな傷は、私も初めて見ましたが」


「どうにかできねぇのか!」


「魔法薬の専門家に掛け合ってみましょうかな」


「その必要はないわ!!」

 メアリーが大声を上げる。グォッカとダグラスの動きが止まる。


「この傷の痛みは……父への恨みを忘れないようにあえて私が残しているものなの……だから、痛みを止めないでほしい……」


「しかし、これ以上タタラレ化が進めば……」

 ダグラスは絶句する。


「いいから止めないで!!!!!」

 メアリーが絶叫する。


 それに気圧され、2人はかける言葉を失った。

父への恨みを忘れないためにタタラレ化を残しておいたメアリー。

彼女の行動がどんな結末を迎えるのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ