第16話 村長の独白
……縛られたところは痛むか? グォッカ。
わしたちとて、かつての仲間に惨い真似をしたいわけではない。
オーク族にも、立場というものがあるのだ。
元オークのお前も、それは分かっているだろう。
……なんだ、知らなかったのか。
ああ、そうだ、お前は成人になってすぐに人間の姿に変えられたのだったな。
ジェリー?
あいつなら立派にオーク族の一員として働いているぞ。
お前の分までな。
まあまあ、落ち着け。
お前に知っておいてほしいことがあってな。
さて、どこから話したものか……。
そうさな、お前の生まれから話さねばならないか。
いきなりだが、お前はこの村の生まれではない。
驚いたか?
そうだろうな。
大人たちはお前にそれを知られないように育ててきたのだから。
それはお前に役割があったからでな……まあ、それはおいおい語るとしよう。
兎にも角にも、お前は我が村のものではなかった。
この村から少し離れたオークの集団の中で生まれたのだ。
本来なら、その集団でお前の父母と暮らし、一人前のオークとして生きていくことになったはずだった。
しかし、それを許さない者どもがいてな。
エルフ族だ。
お前が生まれてすぐに、奴らの長老が「オークの村で天魔が生まれた」と叫んだらしい。
それを聞いて、奴らの若い者たちが一斉に国中のオークの村を襲ったのだ。
そのせいで、無意味にオークたちが血を流すことになった。
当然、お前のいた集団にもエルフたちが襲い掛かった。
お前の父母も殺された。
だが、彼等はお前を別なオークに託した。
そのオークが駆け込んできたのが、この村だった。
エルフの長老曰く「天魔」のお前を、この先どうするか、村では毎夜話し合った。
結果、保護することに決めた。
だが。
天は無情なものでな。
お前がエルフのいう「天魔」であることが示される出来事があった。
その日のことはよく覚えておる。
若いオークがわしの元にやって来て、慌てた口調で伝えたものだ。
曰く、「グォッカがジェリーに魔法を使っている」と。
我がオーク族の古くからの習わしに、「魔法を使えるオークがいてはならない」というものがある。
初めて聞いたという顔をしているな。
当然だ。
お前には知られないように腐心したものだからな。
今度こそ、お前を処刑しなくてはならないという意見が飛び出した。
わしとしては、そこまでする必要もないと思ってはいたのだがな。
結局、お前が成人したら村から追い出そうという結論に落ち着いた。
大人たちはお前に気取らないように、ひそやかに追放する準備を重ねていった。
そこに現われたのが、北王だった。
どこから聞いたのかは知らんが、北王はお前の存在を知っていたらしい。
あの魔法使いの女と一緒に現われた奴は、わしに提案をしてきた。
曰く、「追放するなら、件のオークを我が娘に変身させ、北王家の駒として使いたい」と。
わしとしては、断る理由がなかった。
さらに北王は、それが上手くいった暁には、捕らえた人間を数名、こちらに寄越すとも言ってきた。
久しく人間という馳走にあり付けていなかったわしらには、なおさら断る理由がない。
こうして、お前の運命は決まった。
北王がどう説明したかは分からないが、お前が人間の娘に変身することは大分前から決まっていたのだ。
どうした、そんなに暴れて。
どうあがこうと、お前の運命は変わることはない。
無駄に足掻くよりも、落ち着いて受け入れる方がいいではないか。
……なんだ、人間の娘。
この後?
決まっているだろう、お前たちを北王の元に送るのだ。
お前たちが屋敷を脱した後、北王の伝令が我が村に来てな、お前たちを捕らえれば人間を差し出すと言っておったわ。
許せ、グォッカ。
わしらも食うて生きねばならぬ。
最近はまた人間たちが警戒して我が村の前を通らなくなった。
若い衆は人間の味に飢えておる。
これもまた、運命というものよ。
……おお、丁度北王の手の者が来たみたいだな。
これでお前に会うのは最後になる。
グォッカ。
せめてもオーク族の恥にならぬ最期を遂げよ。
では、さらばだ。
図らずも自らの生い立ちや今に至るまでの秘密を知ってしまったグォッカ。
もはやオークであることへの誇りを失ってしまった彼に寄り添うのは……?




