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オーク、伯爵令嬢に変身す。  作者: 塚田亮太郎
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第10話 オーク、ついに出会う

「おお、よく来たブラッディ」


 ベルベットが執務室にやってきたブラッディに声をかける。


 その声色をして、ブラッディは何か嫌な予感がしていた。


 ……北王様がこの声のトーンで話しかけてくるときは、大抵面倒事を押し付けてくる時だ。

 彼女は、今までの経験から知っていた。


「……それで、ご用件は何でございましょう」

 ブラッディから会話を切り出した。


「いやなに、やってもらいたいことがあってな」


 ブラッディは心の中で渋面を作る。


 ベルベットはそんな様子を知ってか知らずか、紅茶を一口含んだ後に話し始めた。

「アリスター・ファンゲルを暗殺せよ」


 ブラッディは衝撃を受けた。

 ついに、皇帝につながる血筋の人間を殺せと言い出したか……。


「お言葉ながら、それは難しいと考えます」


 ベルベットは不愉快そうな顔をした。


「何も真正面から殺せと言っているわけではない」


 これには多少、ブラッディも声を荒げて反論する。


「北王様。アリスター卿は国内でも最強クラスの火の魔法使いであることをお忘れですか」


 レッド・ファンゲル家は代々、火の魔法を得意としてきた。

 現当主のアリスターは、100年に1度の傑物として国内の魔法使いから畏怖されてきた。

 ブラッディも、アリスターを畏れている魔法使いの1人である。


「奴に魔法を使わせる隙を与えず、殺すことはできないか」


「魔法を生業としてきた私から言わせれば、それをさせてくれるような御仁ではありません」


 ベルベットは押し黙り、椅子の背もたれにもたれかかった。


「……何故そのようなことを仰せになられるのです」

 ブラッディは率直に尋ねた。


 その疑問に答えることなく、すこし黙った後にベルベットは言った。


「……致し方あるまい。『地下牢の子』を使え」


 ブラッディは首を横に振る。

「それはなりません。『地下牢の子』は未熟。強大な魔力があったとしても、その全てを思いのままに手繰ることなどできません。アリスター卿との実力差も天と地ほどありましょう」


「ならば、お前と協力してことに当たれ。お前が『地下牢の子』をサポートしてやるのだ」


 ブラッディは黙った。

 なぜこの男はここまで焦っているのだろうと訝しんだ。


 しばしの間が訪れる。


「……時間がない」

 ベルベットが静かに言う。


「時間がないのだ。レッド・ファンゲル家と我が家との婚姻を成すためには、あの潔癖なまでの純血主義者を消すしか道がない」


 そこでようやくブラッディは合点がいった。


 要は、ファンゲル一族に取り入るための障害がアリスターであり、それを消してしまえと考えているのだ。


 しかし、自分と『地下牢の子』だけでは奇跡的なタイミングがなければあの偉大な火の魔法使いを倒すことなど出来はしないだろう。


「……アリスター卿を葬りたい理由はよくわかりました。しかしことを成すのが難しいのも事実。ここは私に、準備を一任させていただきたい」


 ブラッディは譲歩した。


 そしてやるからには、徹底して計画を練らなければならないとも思った。


 ベルベットはその能面のような顔に少し安堵したような笑みを浮かべた。


「そうか。分かった、お前に準備・計画等は一任する。頼んだぞ」


 そういうと彼は、退出せよと合図した。


 執務室を出たブラッディは、その足ですぐに地下牢に向かった。


――


 ――ぽたり。


 ……久しぶりの「雨漏り」だ。


 グォッカは目を覚ますと、頬をぬぐった。


 部屋の中をよく見ると、また天井から「雨漏り」しているのが見えた。


 やはり、おかしい。

 寝る前に空を眺めていたグォッカは、この夜が月夜に照らされた快晴であることを知っていた。


 なんで快晴なのに「雨漏り」するんだ。


 グォッカはそう思うと、今日こそその原因を突き止めたいという衝動にかられた。


 マッチを擦り、ランプに明かりをつける。

 すると、以前の「雨漏り」とは違うところから水が漏れていることに気付いた。


 ランプで辿ってみると、ドアの方に続いている。


 ――まるで、意思を持っているかのように。


 ランプを持ったままドアを開けると、今度は廊下も雨漏りしていることが分かった。

 廊下の奥の方まで、ぽた、ぽたりと水が漏れ出ている。


 グォッカは、何者かに誘われるようにしてその後を辿った。

 すると、鉄格子のドアの前にたどり着いた。


 淑女としての指導を受けていた時、ブラッディから「この先は決して入ってはならない」と言われたことがあった。


 その時は確か、ドアに鍵がかかっていたはずだ。

 グォッカはドアの取っ手の所にランプを持っていった。


 ――鍵が、開いている。


 自然、グォッカは恐怖と好奇心がないまぜになった心地になった。


 周囲に人間がいないことを確認した後、恐る恐る、ドアを開けた。


 ドアの向こうには、地下へと続く階段があった。

 その天井からも、まるで案内をしているように「雨漏り」が続いている。


 グォッカはゆっくりと階段を下りる。


 彼は、自分が地下に飲み込まれていくような錯覚にとらわれた。

 引き返すなら今だぞと、誰かに警告されているような気持になった。


 それでも、好奇心が勝った。

 ゆっくりと下に降りたとき、そこに広がっていたのは、たくさんの檻であった。


 なんとなく、血の匂いがする気がした。


 「雨漏り」は通路の奥まで続いていた。


 グォッカは、少し躊躇った。


 たぶん、引き返すのなら今しかない。これを逃せば自分はもう今までの生活には戻れないと感じていた。


 だが、思い直した。


 自分はもともと、オークである。人間になるなんて思いもしなかったが、実際なってしまった。


 今までの生活には戻れない?

 今でも十分元に戻れていないではないか。


 そう思うと、グォッカは水が指し示す先に足を進めた。


 しばらくすると、何かすすり泣く声が聞こえてきた。


 グォッカは驚いて、歩みを止める。


 この先に、誰かがいる。


 その事実を飲み込むのに、少し時間がかかった。


 あのブラッディが、恐らく自分に見せたくなかったであろう存在が、いる。


 ゆっくり、慎重に歩み始める。

 やがて、奥に周りの檻とは明らかに広さが違う檻が現れた。


 ランプでは十分に見えないが。誰かいる。

 恐る恐る、ランプを前に掲げながら、近づいてみた。


 暗くてよくわからないが、小柄な女のような見た目をしている。

 すすり泣く声が止んだ。


 グォッカはさらに近づいてみた。


 そして、見た。


 驚愕した。思わず声を出してしまいそうになった。


 ランプの明かりに照らされたのは、グォッカと全く同じ顔をした、人間の少女であった。

少女の正体が明らかになった時、物語は新しい章に突入します。

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