ダンジョン外の逃亡者
やっと4章終わりが見えてきた。短い章とはいっても、次の章が馬鹿長い予定だから大変だ。
外からまだ昼頃だからか光が見える中、探していた人は呑気そうにダンジョンを見ていた。
「やっぱりそうだったんですね、エスティシャ先生。あれ全て『幻覚』だったなんて」
「幻覚とは違う気がするな。あくまでもそれなら科学的にいえばお前達が前後不覚になって動けないでいるとかもっと症状が重い気がするし、あくまでも『幻』だよ」
どちらでも良いと思ったが、とにかく俺達は『最初から偽物のエスティシャ先生を追いかけさせられていた』らしい。何時から? 最初の『説明の時』からだ。
「でもどうして気が付いた」
「陰陽術では鬼が術者の心の隙間に入り込んで惑わすのはよくある手法なんです。だから、俺は少しでも夢や幻を疑えば、そこから脱出するように派手なことをするように心がけていたんです。魔法でも同じことが出来るのか、またもし違った時に復帰方法はどうするか悩みましたが、ミレーのおかげで確信が持てました」
「じゃあ、私が夢みたいだって言ったのは」
「ああ、魔法でも十分幻覚の可能性を疑える証拠が集まったって思ったんだ」
「じゃあ、どうして物を壊すことにしたにゃ」
エスティシャ先生は興味深げに微笑む。だから俺は答える。
「今回幻覚を見せている人は誰か考えた時、確かに第三者の可能性も考えた。でもそれは正直ダンジョン内では検証できない。だが、エスティシャ・ベロル先生が自分で幻覚を見せる道具を作っていたら、それを壊すことは可能だ。そして怪しい物は、二つ渡された」
「それがペンダントと私の魔法の破壊だな」
「はい」
「でも、俺は持っちゃいねえが、形あるものだったんだろう。幻覚って事は」
「さあ、何だと思う? 答えてみな、天滿水城」
ふう、と息を吐いた。しかし正直答えの確証はない。だが、状況証拠から行けば、これしかない。
「空気だ」
「おっ」
「多分あなたの魔法は、空気を固めて物を作る魔法と、幻覚を見せる魔法、この二つだ。これで偽の探知機を偽装することでダンジョン内に縛った。違うか」
「説明不足はいくらでもあるが、まあ正解でいいかな」
そう言ってエスティシャ・ベロルは拍手を俺達に送る。
「その通り、私の魔法は『空気造形』という空気で自在に物を作り上げる魔法と、『幻覚魔法』だ。ダンジョンでは危険なものを空気の壁で自在に封じたり、危険なモンスターを幻覚見せて操ったりやりたい放題で来たぜ」
「そんな、両方とも本来そんなに強い魔法じゃありません。片手大の物を作れれば、それも一つ作れれば優秀な魔法。それにもう一つも一人幻覚を見せることが出来れば強い魔法。それを、試験の参加者全員に見せてしかも距離も離れているのに効力が落ちないなんて」
「それがまず間違いだぜ」
そこでエスティシャ先生は話を始める。
「この世界に弱い魔法なんてものは存在しない。確かに派手じゃない魔法はあるが、生活で役に立つ魔法であるなら十分強い魔法じゃないか。実際、私は私生活ではこの魔法は役立つことはないが探検ではそれはもう役に立ったさ」
「同感ですね。陰陽術は私生活では天気を知るとか、運気を見るとか程度しか使わないですし」
「だからさ、私は私を見て知ってほしいのさ。自分達の先入観に踊らされるなって。私は人を信用するように教えるが、その一方で簡単に人を信用することはしないからさ」
「随分熱心な教育方針ですね」
そう言って、俺は呪符を構える。相手も構え始める。皆も武器を構え始める。
「最後に教えてやろうか。私が商人ギルドの代表としてきた理由を」
「え? はい」
「私が来た理由それはね。後輩の育成さ」
「え?」
なんか上手く話が繋がらない気がしたが、その後の理由で全ての合点がいった。
「私は強力な幻覚魔法を使えるから、重要な商談ほど一緒に呼ばれるんだ。天秤や魔法、他にもあらゆる手段で不正をしていないという担保として。私がいれば相手がどんな不正をしようとも簡単に暴けるからさ。だからさいい加減育ててほしいんだってさ。私と並ぶくらい強い商談における信頼の担保と呼べる人材を」
「それ、結構な無茶言われていません」
「はは、そうかもな。でも、私の後輩で何人か商人ギルドで高い金もらって、私と同じように不正を暴く仕事している奴はいるよ」
そう言うと、少し間が開いて。
「来てくれ! 草編姫!」
「逃げるが勝ちだ!」
勝負が始まる。だが、あの人は空中に逃げていく。事前に空気を固めて階段でも作っていたのか。
「水城! どうすればいい!」
「今呼んだ!」
「お呼びですか、主様」
オルスの質問にそれだけ答える。そこで、若草色の和装をした黒髪の式神が姿を現す。
「草編姫! 天高く草を育てろ!」
「分かりましたが、どの程度の広さでしょうか」
「あそこの人を絶対に逃がさない程度に!」
「かしこまりました」
そう言うと、草編姫はダンジョン前の広場の草を異常成長させて、そして太い蔓さえ作り上げて『植物の牢獄』を作り始める。
「えええ、嘘だろ」
エスティシャ先生の困惑した声が聞こえる。だが、俺は逃がすつもりはない。
「みんな登るぞ!」
「登るって、これをか⁉」
「やってやるにゃ! 一番乗りにゃ! 木登りは得意にゃ!」
「で、でも何処から登ればいいんですか?」
今もぐんぐん伸び続ける蔓に捕まり、俺達も先生を追いかけ始める。そして数分後には草編姫の作った草の牢獄が先生を捕まえる事は出来なくても移動不可能には追い込んだ。そこで……。
「やめたやめた、こんなのに適う訳ないよ」
そう先生に白旗を挙げさせるに至ったのだった。




