マッドサイエンティストたちの実験2
皆様の作品お待ちしております。
「あの、ちょっと良いですか」
「何かな」
そこで、一人の生徒が手を挙げる。
「まず確認ですが、科学では目の見えないぐらい小さな原子って言う物がある、そこまではもう観測されているんですよね」
「そうだな、観測されている」
「特殊な膜みたいなものでこしとったりとか色々あるけれど、とりあえずそれは間違いないよ」
「じゃあズバリ聞きますが、魔素には原子はあると思いますか?」
そう聞かれて、最高責任者の二人は頭をひねった。
「あるかないか、で言ったら正直何とも言えないな、現段階では」
「私達はあくまでもこの巨大な実験装置で何かのエントロピーを計測しているだけだし、そして小型の装置でもどうも大気中よりは針が動くなという計測結果に従って何かを計測しているだけだから、何かの判別が出来たわけじゃないのが厄介なんだよねえ」
「でもエントロピーはある物なんですよね」
他の生徒に、本郷が答える。
「ああ、どうやらエントロピーはある物のようだ」
「だとすると、エネルギーがある物だという事は間違いないんですよね」
この質問に、本郷はどう答えるか悩んだ。
というのも、エントロピーとはそもそも「微視的に見た時に『乱雑さ』を表す、熱力学や統計力学で定義される状態量」のことだ。
難しいことを言っているが、要するに乱雑か乱雑でないかを語っているのである。
例えばコーヒー牛乳なら、ミルクとコーヒーがより混ざるほどエントロピーは高いと言われている。
他にも、熱を与える方が分子は活発に活動して、個体から液体に、さらに液体から気体に変化する為にエントロピーは高いと言われている。
では、今回の場合では。
「意思の影響によってより活発であるか否か」
そう本郷は呟いた。
「それは、答えには」
「ああ、済まない。だがな、私の仮説では明らかに今観測している物は『人間の意思によってより活発になる』ものだという結論付けが今の所なされている。政府には報告はしていないがな」
「でも、科学的じゃない。そうおっしゃいたいんですよね」
「ああ、何せエントロピーのある物は多くが分子を持っている。だというのにこれだけ分子が見つからないのだとすると、そろそろいい加減に分子があるという仮定が否定されるような実験をしないといけないのかなとも思っている」
「私はなくってもそれはそれでいいんですけれどね。物理量を定義できないなら、それで構わないですし」
「私の研究分野でエントロピーを使うのに分子が見つからない物なんて、出てきたら困るんですよ」
本郷と一橋、立場が違う研究者だからこそ『分子が見つけられない限りは次の研究には進みたくない研究者』と『見つからないなら見つからないで、次の研究に進めばいいと考える研究者』は立場が違っていた。そして、エンバンティアの生徒は科学を勉強した者である程、今の異常性に気が付いていて普段扱う魔法がかなり特殊な物だと気が付いたからこそ、どちらにつくべきか悩んでいた。
「意思という不確定な存在にもエネルギーは存在して、それにより現実に影響を与えることを可能としたものが魔法だとすればまあエネルギーは存在するだろうな、としか言えない」
本郷は自分でも困ったようにそう生徒に答えた。
「因みにだとすれば、もし魔素が外気温の影響を受けているとしたら外気の温度によって魔素の量も変化すると考えられますか」
「俺はそう思うが君の見解は」
「私たちの経験則として、雪女族や雪男族など一部の寒冷地域でしか見かけない種族は確かに魔法の出力に変化が生じて魔法を上手く扱えないことを理由に外に出るのを極端に嫌う種族はいます。なので、十分あり得ない話ではないと思っています」
「不思議なものだな魔法って」
「そうですね。あ、そうだ。不思議と言えばもう一つ大きな報告がありました」
「何だ」
そこで一橋は計測系を取り出して本郷に見せるように前に差し出す。
「魔素の小型計測器。壊れちゃいました」
「ん?」
「だから、水城君に触らせたら壊れちゃいました」
そう言って、エラー表示を起こしたまま何もできなくなっている計測機械を見せる。針もビヨンビヨンと変な動きをしている。
「ちょっと待て! お前この計測器一体何十万する装置だと思っているんだ!」
「すみません、私もまさか壊すとは思わなくって」
「はあ、それで。彼は何を理由に壊したんだ」
「気と彼が呼んでいるエネルギーを込めたら『アークメイジと同等の量の魔素を検出』して針が振り切れました」
「……何?」
その言葉に、本郷だけでなく他の生徒も困惑した。
だって今までこの装置を壊した人は二人だけ。アークメイジであるガリウス・アスモダイと鬼嫁の巫女であるイルミシャ・サリア、両名とも最高責任者である。
片方は最強の魔法使いの一人、そしてもう一人は島中を監視する魔法を行使している人。魔素と呼ばれるものがあるなら、桁外れに持っていてもおかしくない二人である。
「つまり彼は『普通の人間より少ない程度の魔素の量とアークメイジ級の魔素の量をコントロールできる可能性がある』人です」
「……何を言っているのか分かっているのか」
「私だって冗談でこんなこと言いません。でも、陰陽師の彼が『気』と呼んでいる生きている人間の何か強い思いを現実に引き起こすためのエネルギーが魔素と定義したものを計測する機械で同様に計測できたなら」
「実は魔素は既に観測されていた?」
「私、入学のためにサインした人の中に彼がいる事こんなに後悔したことないですよ。だって彼の実験貢献度の高さははっきり言って今後の協力姿勢にもよるとしても、はっきり言って私のサイン程度ではおつりが来るどころじゃない物を教えてくれましたから」
最高責任者のサインではおつりが来る程度の話を彼はした。そう、1時間も質問攻めにあっていた間に水城は『言葉通りの意味でこの研究所の研究方針に影響を与える話をした』のである。
研究所はこれより大きく動くことになる。
「でも、そうなると少し惜しいですね」
「本当ですね。後数年装置の完成が早ければ」
「完成が早ければどうだったんです?」
質問した生徒に、本郷は。
「彼より前に入学した陰陽師の生徒に話を聞けたかもしれないんだから」
そう述べたのだった。
3章本当に早く終わっちゃったよ。どうするんだよ、4章だって正直そんなに長い話になる予定ないのに。




