一橋千尋への実験協力1
皆様の作品お待ちしております。
「やっと来てくれたよ。それじゃあ実験の協力お願いね」
学科学習棟にある実験室の一つ、そこで俺はとある責任者の一人と会っていた。
『シルバーに行くには最低でも三人のサインが必要なんです』
それは何時か、ミレーから言われたシルバークラスの昇格条件の話。しかし、あの時出てきた名前は
『凄いよな、クリフの奴が承認にサインするなんて』
『それにサインにはアークメイジの名前もあったにゃ』
二人だけ。
「それじゃあ、部屋の備品のリスト見せて、必要な物と今回使用するものの確認するから」
そして目の前にいるのが三人目のサインをしてくれた、責任者。
「? どうかした」
「いえ」
一橋千尋、日本政府の要請でやって来た科学者である。
「それじゃあ、まず君が倒したモンスター。誘いの牧羊神父について話をしようか」
そう言って、目の前に粉末状のモンスターの骨が入った瓶を置いて話を始める。
「これがまず科学的にどういう組成なのか、簡単に思いつく限りで良いから調べようとしたらどうなるか挙げてみて」
そう言われて、ホワイトボードにメモをする準備をされる。
そうだな。
「カルシウムだとしたら、例えば塩酸に溶かして気体が発生しないかとかですか」
「何の話している?」
「え、でも塩化カルシウムってありませんでしたっけ」
「あるけれど、ソルベー法とかの方がそれは多分有名な気がするよ。少なくとも塩酸に溶かして作れなくはないのかもしれないけれど、まあ多分塩酸に溶かせばきっと溶けるだろうし間違ってはいない気がする」
とは言いながら、ソルベー法とはホワイトボードにメモをされる。塩酸ともメモもされる。
「熱するとかもどうですかね。後、電気ってカルシウムって通るのかな?」
そう言って呟きながらも、加熱、通電とメモをされる。
「後は、何だろう」
「まあ良いか、直ぐに出てきたのはこんなもの?」
そう言って、一橋先生はホワイトボードを見る。
「これがどうしたんですか」
「いや、例えばだけれどじゃあ質問を変えたらどうなるかなって」
そう言って、先ほどの瓶を指しながらこう質問してきた。
「ここに未知の物質があります。危険か危険じゃないかさえ分かりません。この時あなたはどうやってこの物質を断定しますか?」
「え?」
その時、俺はしまったと思った。
「この世界は今魔法という未知の物について調べているんだよ? 全ての物質が毒性を有しているかもしれないんだ。エンバンティアの人には失礼かもしれないけれど、放射性物質の様に長年扱ったら人体に有害な何かがある物の可能性だって否定できない。それを調査するのにあの程度の安全管理で良いの?」
「それはつまり」
「私の授業に来てくれる生徒だって皆最近は白衣を着てくれているよ。白衣が唯のかっこつけじゃなくって、危険な薬品に触れたりするのを予防するための手段として使われているのを知っているからね。だからこそ、私の研究室だって情報専門だけれど薬品を扱うならまず安全対策のために換気をするとか、ビニール手袋着けるとか、まずそこからスタートじゃない」
『他にも何をすればいいか』
それってそういう事かよ。内心で悪態ついたが、あくまでもそりゃあ相手は国から魔法について研究するように言われた科学者だ。そりゃあそうなるか。
「じゃあ、思いつく限りでまず安全管理についてアイデア出してみて」
「……」
それから、俺はマスクをつける、ゴーグルをつける、実験器具を洗浄してある物を扱う。薬品が正常に保管されているかを確認する、など安全対策を言った。
「うんうん、もう君の前で私がやらせたものもあるね」
「……」
「どう? 少しは些細な事だとしても『変なこと考えていて無視していい事』ではないっていうのがわかった?」
「はい」
「よろしい、じゃあ次成分の同定に関する方法だけれど、まずは水に溶かすとか思い浮かばないの?」
「え?」
「だって、水に溶かせば溶けるか溶けないかである程度成分を判別できるし、もちろん水に溶かしたら発熱する危険な物質の可能性は否定出来ないけれど、それは未知の物質なら大体の物質で等しく同じだから」
そう言って、水に溶かすと書かれる。
「その他にも、そもそも外見、常温で固体か液体か気体か、後は味とか匂いとか、色々調べる上で断定に足りえる情報はいくらでもあるよね。あ、色もそうだ」
味⁉ なんか信じられないアイデアが出た気がするが、気にした様子が目の前の人には無い。すらすらと情報を加えていかれる。
「もちろん塩酸に溶かすって言うのもそうだけれど、それなら水酸化ナトリウム水溶液だってセットで出てきてほしかったかな。酸性と塩基性の溶液に溶かして違いがあるのかを調べるためにね、流石に有機溶媒に溶かすとかは出てこなくていいけれど」
と言いながら、総じて液体に溶かすとアイデアが出る。
「後は沸点や融点を調べるとか、光学的性質を調べるとか、こんな感じで多分本気で私みたいな情報専門じゃなくって化学屋にやらせればこの数倍はアイデアが出て来そうだけれどどう思う?」
「いや……何というか……」
これだけ専門じゃない分野の話をしているはずなのに、アイデアが沢山出てくる。正直目の前の人は本当に優秀な科学者何だなと恐れ入る。
多分3章は思ったより短く終わります。その代わり4章がすぐに始まるかも。




