トパーズクラスのモンスター
二次創作お待ちしております。
出鱈目すぎる。
「うらあ!」
『グゲエ!』
さっきまで優しく話していたイーグラルの女性が、たったの一突きで槍を貫通させてゴブリンを葬り去る。
「ラア!」
「テラ・バーン!」
ビースティアが、エルフが、皆が皆あっという間に信じられない速度でモンスターを葬っては道を進んでいく。
しかし自分達は、モンスターを一体も倒せないどころか追いつくのさえやっとという思いで走っている。
「え、エルフが足速いにゃ」
「これが、シルバークラスの冒険者の移動速度……」
「ふざけるなよ」
嫌でもさっきまでは「自分達に合わせられていた」という事を知らされる。こんな速度で移動していたら間違いなくすぐにばてていて、調査どころではなくなってしまう。
だが、今は調査対象が見つかったからこそ現場まで急行する方が最優先になった。
だからこそ、自分達に構っている暇は無くなった。そういう事だろう。
「これじゃあ」
「やっと気が付きましたか」
「クリフさん」
突然氷のクリフが現れて、話しかけてくる。
「あなた方は一人として、周囲の冒険者が強いと気が付いていないですが、要するに全員がこの一瞬のために力を温存していたんです。今までは調査だったために少しの見落としも許されませんでしたが、今は『救助』が最優先に変わったので」
「それで」
「どうです、魔法の神髄は。ただ魔法を撃つだけでなく、体に魔法を巡らせる気持ちで使うとあのように通常より何倍も速く移動したりできます。まるで水城さんがリサさんに追いついた時の様に」
「あの時みたいに」
リタはあの時、自分に追いついた水城のことを思い出していた。
「ですが、魔法でそんなことが出来る人は案外いません。普通の魔法使いは、身体能力を上げる魔法を唱えて初めて使えるという固定概念が抜けない人が多い。あのように唱えずともずっと使える人もいるという事例をどうしてか見せられるまで信じられないのです」
目の前でモンスター達を葬り去る冒険者達を見せられながら、私は考えさせられる。ヒーラーとして、私に何が出来るのか。
「別に魔法陣が出現する魔法の方が優れているとか、詠唱を唱えた魔法の方が素晴らしいとか、そんなの個人の勝手です。ですが、魔法は実用するときに一番優れていると思う物を選べばいい。そこは覚えておきなさい」
俺はそう教わった。防御を担うはずだが、魔法にも興味が初めて湧いた瞬間だった。
「さて、見てください」
そう言うと、目の前でとんでもない戦闘が繰り広げられていた。
「あれが、あなた方が救助を依頼した人です」
水城は、何か巨大な羊の骨のようなモンスターと戦っていた。
「なんだ、ありゃ」
「誘いの牧羊神父、ダンジョンが動いた時にしか観測をされていないモンスターです」
「あの、ダンジョンが動くってどういうことですか」
「何だクリフの旦那、そんなことも教えていなかったのか?」
そこで、ドワーフの男が話に入って来る。
「ダンジョンについて俺達は間違いなく『生きている』と考えているんだ」
「正確には『悪意を持っている』ですがね」
「だから、時々意地悪をするんだよ。ああして普通は倒しようがないモンスターをぶつけてくるような真似をするんだよ」
「倒しようがない?」
「あの羊の討伐が許される階級は『トパーズ以上』だ」
「「「 トパーズ以上!? 」」」
俺達は驚愕する。だってそれは、ここにいる人たちでも一部しか倒せないぐらいの強さだという事だ。
「ただでさえ死にかけじゃないと出現しないはずのモンスターなんだ。だからさ」
そう言って、ドワーフは呆れたように言った。
「どうしてあんなに善戦しているのか、信じられないよ」
呪符ももう数が少なくなってきた。
「雪丸、そろそろ決められそうか。気が少なくなってきた」
「急ぎます主! だからもう少し辛抱を!」
倒せそうであるはずなのに、あいつは自分に対して復活の魔法を使っているのか何時まで経っても倒せない。
ふざけるなよ。やっとの思いで周囲の雑魚は駆逐しきったんだ。
「こんなところでくたばれるかよ!」
そう言いながら、あいつの顔に蹴りを入れる。すると。
「! 会心の一撃か!」
骨がようやく砕けて、顎が外れる音がした。
「首を切れ! 雪丸!」
そう言うまでもなく、雪丸は首に刀を横一文字に通して攻撃する。鋭い刃はようやく敵の体を両断する。
「た、倒した」
頭骨が落ち、体が悲鳴を上げて霧散していき、そして黒い布と頭骨だけが地面に残る。
「よ、よか」
「水城さん!」
「ミレー⁉ どうしてここに」
「水城にゃ! 生きていてよかったにゃ!」
「心配したんだぞ! 本当に!」
「リタ、オルスも!」
「おめでとうございます、ネームドモンスター討伐をこの目で見届けました」
「クリフさん」
状況は分からない。だが、多くの人が祝福をしてくれているのは分かった。周囲には知らないが、なんだか強い人たちもいて、皆が皆俺を祝福してくれている。
こんなに達成感のあることは久しぶりだった。
「ちょっと! 何しているんですか! 主から離れなさい!」
空気を読めない自分の式神の声が聞こえるが、俺はこの幸せを今だけは噛み締めるのだった。
2章もようやく終わりが見えてきた。もう少しだけ続くけれど。頑張ります。




