オリエンテーションの結末
小説家でもそうでなくっても、この作品の世界観を使って作品を書いていただきたい作者です。皆様の作品をお待ちしております。
「とりあえず替えの下着とズボンだけ安物ですが買いました」
「ごめんなさい、本当に迷惑かけて」
「大丈夫にゃ。悪いのは私にゃ」
「全部自己責任だっつっても、流石に女漏らすほど泣かせるのはやりすぎだよな」
「もういいだろ」
街中で見つけた服屋にて、猫耳女性の服を揃えてもらい俺達は集合した。オルスにはそう言われてしまうが、流石に今回は俺もやりすぎたと反省している。猫耳女性には過剰に委縮させてしまっているし。
「それでどうする、日没までは時間あるけれど、そろそろ昼時だろう」
オルスがそう言う。
「何か飯屋とかあるのか」
「あるにはある、いわゆる屋台通りって奴で、好きな物買ってその場で食べるんだ」
「何がある」
「何でもありますよ、串焼き、網焼き、姿焼き。主食も小麦を使った食べ物から米を使ったものまで」
「割と何でもあるんだな。何が食べたい」
「俺は豚の丸焼きとかあると良いな」
「私は手軽な饅頭みたいなものがあると良いです」
「あんたはどうする」
「え?」
そこで、猫耳女性は目を疑うような顔をした。
「どうして、私に聞くのにゃ」
「だって、流石に服だけ買っただけじゃ色々申し訳ないし。乗り掛かった舟だろう」
「優しいなお前、ビースティアに飯奢るなんて」
「そう言えばお名前、リタさんって言うみたいです」
「へえ、じゃあリタは何が食べたい」
「えっと……じゃあ、串焼きが食べたいにゃ」
顔を赤くして、彼女はそう答えた。
「じゃあ屋台通りに行こうか」
「ところで場所分かるか」
「まあ歩けばそのうち分かりますよ」
「ちょっと待つにゃ」
そこで、リタが呼び止めた。
「みんなに話があるにゃ」
それは、自分達にとって食事以上に魅力的な話だった。だからこそ、俺達は屋台通りまで案内してもらう事にした。
「これにゃ」
『臨時アルバイト募集。一万円分の売り上げで許可証一枚プレゼント』
「なるほどな」
それは、探す以上に簡単に見つかる入学許可証の情報だった。何せ日本語と英語、そして見知らぬ文字だからエンバンティアの共通語と思われる文字でそう言う内容が書いてあるのだから。
「確かにお昼時になれば皆これに気が付かない訳ない」
「屋台通りの人も私たちの入学試験を利用して、売り上げをあげようとしているのにゃ」
「因みに串焼き一本でいくらなんですか」
「ああ、私の店なら串焼き一本が銅貨一枚に鉄貨五枚、地球の金で百五十円だ」
店主に質問すると、そう答えてくれた。
そして俺は思案した。こういう薄利多売な商品は一個の売り上げが売値の一割あれば良い方だ。それでも一本で利益は十五円。六百本以上は売上ないといけない計算になる。
「どうします」
「これ、私もやったんだけど一時間しても一本も売れなくて謝って止めたのにゃ」
「これから昼時とはいっても、流石に望みが薄いんじゃ」
「いや、やろう」
「え?」
「ただし、場合によっては店主さんの判断でもっと値上げしてもいい」
「な、何言っているにゃ⁉」
「そうですよ、こんなの無理ですって」
「素直に他の探した方が」
だが、俺の秘策に乗ってくれることにした三人は、それぞれ協力して担当を分けることにした。
「白豚の串焼き屋、美味しいにゃ。白豚の串焼屋で許可証の情報もセットで売っているにゃ。今が買い時にゃ」
まずリタ、彼女は街中を回って『許可証を三枚入手した自分達が入手に関する情報を公開している』という事をふれ回ってもらった。こうすることで、大分営業妨害とかで訴えられそうだが客を集めることに成功した。
「あんちゃんしっかり焼いてくれよ。数が多いからって生焼きは駄目だからな」
「はい!」
続いてオルスは店で店長と一緒に串焼きを焼いて、そして販売をしてもらった。売り上げは好調で、後で聞いたところ俺の想定を上回るスピードで売れて行ったらしい。
「じゃあお伝えしますね」
「はい」
そしてミレーには魔法で特定の相手とだけ話す魔法を使う事で、串焼きを情報もセットでもらうという買い方をした人にだけ俺達が獲得した許可証に関する情報を伝えてもらった。
ちなみに本人曰く、実力の問題で一人にだけしか伝えられないため本来使い勝手が悪いのだが、今回役に立ってすごく嬉しいらしい。
「それで、次はどいつだ。素直に串焼き買いに行ってくれよ」
「クソッ」
そして俺は、三人から一番重要だと言われた『許可証を守る』役割を担っていた。これは至極簡単で、店の裏手で馬鹿みたいにやって来る候補生を返り討ちにしているだけだ。
蹴って、殴って、また蹴って、それだけだ。
語る必要もない代わりに暇すぎる仕事だった。
そして、店番の三人と俺の協力のかいあって。
「いやあ、店開いて以来最高の売り上げだ! これ約束の許可証な」
「ありがとうございます」
四枚目の許可証を獲得した。
「ありがたいが日没も近いだろう。研究所まで急ぎな」
「はい」
「ほら急ぐぞ!」
「店番疲れました」
「でも店長驕りの串焼き美味しいにゃ」
そう言いながら、俺達は研究所に戻る。
「もしかしてあなた方ですか?」
「はい?」
研究所の修練場に戻った時、俺達はクリフさんにそう言われた。入学申請に関する書類に必要事項を書きながら話を聞いていたら、エスティシャさんが話に入って来る。
「昼時からやたらと二人組での許可証を持ってくる奴が増えてよ。例年なら一人で見つけた奴か、二人で見つけたけれど裏切った奴とかが多いからいつもと違うなって話題になってよ」
エスティシャさんが笑いながらそう言っているが、本当にそれでよいものなのか。
「それに、四人組で持ってきたのは珍しいですね。ともかく、皆さん手続きは終了しました」
入学許可をいたします。その言葉にハイタッチをした。
「そうそう、天滿水城さんは後程アークメイジがお呼びです」
「え?」
その言葉に、俺は一人豆鉄砲を食らった鳩のような顔になった。