009:ロビン・ラックと使い魔召喚-3-
自室の中にあったテーブルと椅子。椅子は4つあった為、彼はその一つに座って待機していた。扉を開けた瞬間の彼の凛々しさは、扉を閉めると同時に消失する。
「ハァ……実にマズイ事になりました」
「何かあったの?」
「アナタが俺を呼び出したからでしょ!?」
いやお前がどの口でと言いたくなった【何か】はワナワナとは震えていたものの、それをすると激痛が走るのを学んでいた為、飲み込む事にしていた。彼は学習能力が高いのだ。
「ねー名前は何て言うの?」
「俺ですか? 俺の名はゲルニクス・ゾル・ヴァイドハイトです」
「俺はロビン! よろしくね!」
「なんと能天気な……まぁアナタに当たっても仕方ありませんしね」
「それで何がマズイの?」
「まず に何一つ連絡出来ず、我らが も分からず、何より厄介極まりないのがそれを為すあの魔法陣だ」
「えっと、よく分からないけど、魔法陣?」
「アレは超高度な だ。果たして俺に何が出来るのか」
「えーっと?」
「理解出来ないのですか?」
「いや、聞こえない? のかな?」
「聞こえなかった? あれは です」
「やっぱり肝心な所だけ聞こえないね」
「それも の効果という訳ですか」
手を顎に当てて考え込む【何か】。そしてそれは一つの結論へと辿り着く。
「アナタ、俺との関係はどの様に考えてますか?」
「え? うーん。使い魔とその主人……らしいんだけどさ。俺まだ何一つわからなくて」
「というのは?」
「ここに来る事が決まったのは昨日で、昨日までは俺も使い魔みたいな事やってたんだよね」
「ほう、苦労していた訳ですね」
「だからその、使い魔とか申し訳なくてさ。友達だと嬉しい……かな?」
「友達? アナタ如きが俺を友と呼ぶなどおこがまあ痛たたたたたたたたたたたたたたたたたああああぁああああぁ!!」
ぷしゅーと、音を出しながらその場にうつ伏せに横たわる【何か】。彼は「己忌々しい魔法陣め」と心の中で蔑みつつ、椅子へと座り直す。その向かいの椅子ではロビンが「うーん」の真剣に考え込んでおり、そして思い付いた様な顔をしたかと思うと意見を口にした。
「じゃあ……先生!」
「先生? ……まぁそれなら良いでしょう」
「ニクス先生!」
「……待てください、アナタまさか今俺を呼びましたか?」
「ニクス先生!」
「……、……っ、……良いでしょう」
こうしてロビンとニクスの間で、不思議な契約が成立した。
━━━━━
「ニクス先生はさ、魔法とか魔力って使えるの?」
「おい貴様、俺を侮るのも大概に痛たたたたたたたたたたたたたたたたたああああぁああああぁ!! お、おのれ……」
「俺さ、魔法学校に呼んで貰えたのは嬉しいんだけど、魔法も魔力も分からなくってさ」
「あ、侮っていた訳ではないのですね、失礼。ではロビンは何が得意なのですか?」
「召使いは得意だよ! 家事洗濯掃除!」
「魔法の話では?」
自室に戻っていろとは言われたものの、ここには最低限の設備しかない。それでもロビンにとっては幸せな環境であったが、二人が生活するには心許なかった。
ーコンコンー
「誰か来た!!」
「何故そんな嬉しそうなのですか?」
自室の扉がノックされ、一目散に扉を目指す。
「はい! 何ですか……ってアルヴィスじゃん!」
「急に悪いなロビン、良かったら一緒に食料でも調達しないか?」
「買い物! 俺お金ないよ!」
「まぁ無くても大丈夫な筈だけど、俺もいるし大丈夫だろ?」
「待っててね、先生に聞いてくる!」
「先生? お前の部屋、誰か教員が来てたの……げ」
「ニクス先生! アルヴィスと出かけて良い? ご飯の材料買ってくるよ!」
「食料の調達? 好きにすればいい。俺はここに居ます」
「分かった!」
じゃあねー、と元気に手を振りニクスと別れを済ませたロビンを、恐ろしい物を見る目で見ていたのは言うまでもないだろう。
「お前、使い魔を先生って呼んでるのか?」
「ニクス先生の方が物知りだしね」
「主従が逆転してるなぁ、ロビンらしいか」
「おーい、大将ー! お待たせしやしたー!」
扉から少し離れた辺りで話をしていると、示し合わせていたであろう二人が駆け寄ってきた。いつか見た二人である。
「あの人たちは?」
「あいつらは俺の近衛騎士、という建前のお目付役だ」
「そっかアルヴィスは王子だもんね」
「お、そちらが大将のマブダチとかいうアンちゃんですかい?」
「俺はロビン! よろしくね!」
「元気があって良いねー、俺はサジってんだ。よろしくな」
「俺はクライブ、これからよろしく頼む。それより動く時は事前に言えよアル、こっちにも都合があるんだからな」
「悪い悪い、そのうち気をつけるから」
「次から気をつけろよ」
王子とその側近、そしてロビン。激しく異質な組み合わせではあるが、アルヴィスや他二人も含めたメンバーが非常にラフな性格をしていた為、アルヴィスを王子と確認出来なければ友人関係にしか見えない4人組だろう。
こうして彼らは食料調達へと出掛けた。