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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと世界樹の迷宮牢
85/88

081:ロビン・ラックと絵本の鬼-1-

 そしてそれから暫くの後、二人がラディックの帰りが遅い事を心配し始めていた頃。


「悪ぃ、遅くなっちまった。でも見つけてきたぜ、村があった。恐らく位置的にこのクエストはあそこに繋がってるだろう」

「そういうものなんだね。鍵一つでそこまで分かるなんてラディはやっぱり凄いや」

「(コクコク)」

「いやこれは何つーか、……そういうものなんだよ」


 褒められているのだが、イマイチ喜びきれないラディック。彼がやっているのは確かに推理めいた行為かも知れないが、やはりゲーム経験者としてそれ程突飛な事をしている訳ではなく【これがあるならこうなるだろう】という、いつもの流れを汲んでの事だった。故にむず痒い部分が多いが、この面子では未経験者二人に対して経験者は一人。少数派のラディックはどこか諦めつつあった。


「一応ここの場所は仮拠点として押さえておく。俺も覚えてるけど、ロビンやミア嬢も把握しておいてくれ」

「大事な初めての拠点だからね!」

「我らが、拠点」

「仮な、仮」


 そして一行はラディックに促され、仮拠点から東に移動し、そこでとある小規模な村を見つける。その村を一言で表すなら【極貧】。兎に角ここにいる人は皆襤褸で身を固めており、痩せ細った住人ばかりであった。そんな街中の様子に眉を顰めながら歩くロビンとミア。ラディックは既に最低限の下見を終えており、こういう場所である事を理解していたため特に反応はなかった。


「ここ、みんな大変そうだね」

「そういう設定だぞ」

「設定?」

「恐らくNPCだ、あれは本物の人じゃ無い」

「……ちょっと良くわかんないや」

「見ててみろ」


 ラディックがそう言うと、村の入り口に佇む一人の老人に声をかけた。


「よぉじーさん、元気か?」

「ここは名も無き村じゃ。旅の人の欲する物など何もない」

「ふーん、何か物を買える場所はあるか?」

「村の奥のここからみて左の建物で僅かばりの商売をやっとる者がおるじゃろう」

「イベントってここで起こるのか?」

「知らん」

「そっか、ありがとなじーさん」

「達者でな」

「よぉじーさん」

「ここは名も無き村じゃ。旅の人の欲する物など何もない」

「ありがとな」

「達者でな」

「よぉじーさん」

「ここは名も無き村じゃ。旅の人の欲する物など何もない」


 このラディックと老人のやり取りを見てひたすら「??」という表情をするロビンとミア。あまりにも不可解過ぎるその様子を解説すべく、ラディックが二人の元へと戻ってくる。


「あのじーさんは【挨拶】【案内】【達者でな】だけを話す様に設定された存在だ。だからそれ以外の質問をすると【知らぬ】としか答えない。そして何度話しかけても同じ事しか言わない。ずっとあそこで佇んでいる。これがNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。ロビンやミアから見たとして……見た目は人でも心が無い、生きていない存在って認識でいいかもな」

「はぇー、凄いや、全然わかんない」

「無限、お爺さん。でも生きてない」

「まぁなんせ人じゃないって分かってくれればそれで良いよ」


 どこまで設定されているかは不明だが、不義理な行為をした場合にそれに準じたイベントが用意されている可能性がある故に、あまり常識を逸脱した行為も出来ないラディック。極端な話あのお爺さんを殺すと、村全体からの復讐イベントが成立する可能性もある、と考えていたのだ。


「さて、んじゃいきますか。じーさん」

「ここは名も無き村じゃ。旅の人の欲する物など何もない」

「村長の家ってどこ?」

「奥のここから見て右の建物じゃ」

「ありがとう」

「達者でな」


 そんなラディックとお爺さんのやり取りを見ながら「はぇー」と何度も声を漏らすロビン。まだあのお爺さんが人ではないと認識出来ていない様だった。因みにミアはお爺さんの前で少し動いてみたりなどしていたが、見事に無視されていた。


「さて、奥の右だってよ。行くぜ?」

「何で村長なの?」

「イベントを発生させるには格がいるんだよ。一人だけ髪の色が違うとか、動きが違うとか、もしくは位が高いとかな」

「ゲームって難しいね……」

「言われてみればそうかもな。慣れれば簡単だと思うけど。まぁ今は仕方ない」


 そして村の奥にある村長の家、そこは木造で特にこれといった装飾もなく、簡素な仕上がりの家だった。家の入り口に人が立っていた為、ラディックは彼に声をかけた。


「なぁ、これ持ってんだけど、何か知ってる?」

「そ、それは!! まさか鬼の屋敷の鍵!?」

「やっぱここだったな」

「何で分かるの!?」


 衝撃を受けた表情をする入り口の男、そしてすぐに何処かへ行き話をしてくると、慌てて戻ってきて。


「村長が話をしたいと申しております、どうぞこちらへ」

「ん、了解」

「はぇー中に入れて貰えるんだ、不思議だなー」

「ゲーム、難しい」

「ねー」


 促されるままに建物にはいる三人。ロビンはぶつぶつと「何でオークが鬼の家の鍵を?」とか「友達だったのかな」などと呟いていたが、状況が状況なので放置されていた。そして建物の中に居たのは風格のあるお爺さんで、彼は神妙な面持ちですぐに本題へと入った。


「単刀直入にいう、儂らの村に子供がおっての。その子は星姫という猫を飼っておったのじゃ」

「星……姫?」

「左様」


 何処かで聞いた事のある様な、そんな顔をするロビン含む三人。だが思い出せそうで思い出せない。そんな雰囲気だった。


「その猫が攫われてしまってな。犯人は分かっておる。鬼どもじゃ」

「あ!?」

「あー」

「あ」


 その話を聞き、三人は同時にリアクションを取った。


「絵本だ、多分だけど」

「私も、知ってる」

「確か【星降る丘の小さな願い】だったか?」

「それだ!」


 皆が知っている様な絵本の内容、そこに出て来た話にそっくりな話題。だから三人には心当たりがあったのだ。


「食料も奪われてしまって、村はこんな有り様じゃ。誰も少年を助けに行ってやれなくて。見殺しにするのは忍びない。どうか旅の人よ、助けてはくれまいか? お主らが持っておった鍵は鬼の屋敷に入るのに絶対に必要な物じゃ。少年はそれすら知らずに飛び出してしまってのぉ……」

「……どうする?」

「助けるに決まってんじゃん!!」

「そういう設定だぞ?」


 村長の余りの迫真っぷりに思わず熱が入るロビン。どうやら少年は既に飛び出しており、後を追う形になるらしい。


「オッケー、やるぜ。俺たちに任せてくれ」

「やってくれるのか! 有難や有難や……」


 そして三人は村長から周辺の地図を受け取り、そこに記された目的地、鬼の屋敷を目指す事となった。

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