079:ロビン・ラックと世界樹の麓-7-
「向こう、川の所に何か木が生えてる!」
「漸く件の木の実か?」
「お腹、減った」
アレから魔獣と接敵する事幾数回。ロビンたちは少ない魔力での立ち回りに漸く慣れてきており、簡単な戦闘では消費魔力をかなり抑える事に成功していた。そしてロビンが川の付近に植物の姿を確認し、そこへと向かう事に。だが事はそう上手くいかず。
「何かいるね、一体」
「……ありゃオークだな、しかもハイオークだ」
「結構、強い」
周囲を見渡すラディック、だが特に他の魔獣は見当たらず、この付近に敵はこのハイオーク一体の様であった。しかしながらハイオークはオークとは比較にならない性能を持っている。故に戦えば、只では済まない可能性が高い。
「……レベル上げてから戻ってくるか、もしくは体力的に余裕のある今の内にやるべきか」
ラディックは思案していた。今であれば今日一度目の戦闘。まだ何一つ消費しておらず、ロビンの前衛に敵のヘイトを管理して貰わずとも戦いを成立させられる。それに援護のミアもある程度魔法を行使出来るだろう。だが問題はー。
「ミア嬢、どう思う」
「ハイオーク、初級、効かない」
「だよな、無効化ではないけど殆どダメージにはならねーだろうから、やるなら中級か。どう?」
「一発で、良いなら」
「もう打てるのかよ、凄ぇなミア嬢」
まさかミアが既に中級発動に必要な魔力を備えているとは思わず、少しだけ作戦に修正をかけるラディック。だが仮にそうであったとしても、難敵に変わりはない。
「手元にマッピングする道具もねぇし、他の魔獣を見つけられるかも運、その上時間を掛ければ掛ける程腹は減るし。……やるか」
「オッケー! 魔力はどれくらいまで見込む?」
「一応付近に敵は居ない、なんなら回復するまでここを仮拠点にしても良いと考えてる」
「拠点! カッコいいね!!」
「いやお前状況を考えろって」
「拠点、良い」
「いやお前もかよ、何でだよ」
いつか何処かで見た英雄譚でも、目的地を目指す上で途中に拠点を持ち、そこを中心に活動する場面があった。ロビンとミアはそんな彼らに頗る憧れていた。故に激る気持ちは止められないのだ。
「やろう、ラディ!」
「やろう」
「まてまてまて、落ち着け、やるから落ち着け」
「悪鬼羅刹、死すべし」
「いやお前は一緒にロビンを止めろよ!?」
一旦落ち着かせるのに少し時間を要したラディックだった。
「落ち着いたか?」
「ん、倒さないとだもんね」
「抹殺、あるのみ」
「……まぁ良いか。敵はかなり高い攻撃力と防御力を誇る序盤の難敵だ。敵の攻撃は上手く回避しつつ隙を作ってミア嬢に中級魔法を当てて貰う。そこから狙えるなら腕、足、或いは顔面や喉、トドメを刺しにいくまでアリだ」
「オッケー」
「了解」
「なら行くぜ!」
三人は一斉に飛び出した。
ハイオークに対して挟み込む様に左右に分かれて走り寄るロビンとラディック。
「【流れる水の調べ、我願いに応えに驟雨秘めし大いなる力を顕現せよ】」
そして同時に詠唱を始めるミア。そんな中、今回先制したのはー
「形成される砂の剣」
ラディックだった。思わず癖で詠唱破棄にしてしまい、僅かに増える魔力消費がしっかり残量を削っていく。これに気が付き後悔するも後の祭り。一先ず諦めて、地面から砂の剣を引き抜き、それを顔面目掛けて勢い良く投げ、同時に進行ルートを背面側へと少し修正する。この砂のナイフはハイオークの腕によって止められるも、その追撃と言わんばかりに。
「おりゃぁぁぁ!」
ロビンが蹴り掛かる。だがこれも。
「ぐっ、動かない!」
微動だにする事なく受け止めるハイオーク。そしてそれどころか。
「ブモオオオオォォォォォ!!!」
「ぐっ、こっちかよ!」
ロビンを軽く振り払らい、背面側に回っていたラディックの攻撃に合わせて反転するハイオーク。不意打ちを狙っていたラディックを逆に強襲する。そしてー。
「ぐぅぅっ! ……クソッ!」
ガードの上からくらったハイオークの拳を止めきれず強く吹き飛ばされてしまうラディック。だがここに逸早く動いたのがロビンだった。
「【眩き光の粒子】、癒しの光」
「悪ぃ、助かった」
着地するや否や進路をラディックに合わせ、走り様に彼に回復魔法を施すロビン。ラディックの早期戦線復帰を支える。そして思っていた以上の実力差を瞬時に嗅ぎ取ったロビンは、このまま長引けばこちらに不利と見て、すぐさま強行策に出る。
「せいやぁぁぁ!!」
強く魔力を纏い、正面からハイオークへ踵落としを見舞おうとする。流石のハイオークもこれにはガードを要し、しかして僅かに揺らぐ程度にこれを受け止める。だがこの時背後に回っていたラディックはナイフを手元に召喚し、魔力を纏わせて。
「っし! 漸く一発!」
「ブモオオオオォォォォォ!!!」
背中に切り傷を作る事に成功する、だがこれはダメージと呼ぶには余りに小さく、すぐさまロビンを振り払ったハイオークは反転しラディックへと向かう。だがこの時ロビンもまた振り払われた勢いを利用し次の攻撃を狙うべくサイドに展開していた。そう、この形はラディックが狙っていた必殺のそれに限りなく近い状況だ。彼はハイオークが迫り来る中、僅かに口角を上げー。
「悪いな、これが狙いだ」
「怒る氷の進撃」
「ブベァッ!?」
漸く隙を見せたハイオークに、詠唱を終えていたミアが真横から強烈な中級魔法を見事に直撃させる。その氷塊の衝撃に思わず意識を飛ばされてしまったハイオークは一瞬硬直し、その姿をみたラディックはー。
「今だ!」
ナイフを突き立て、喉を突き破らんと襲い掛かるも、これがハイオークの分厚い魔力に防がれ、その防御力前に沈黙する。だがラディックは諦めていなかった。
「やれ!」
「どっせーい!!」
その場に留まりナイフを固定すると、背後に回っていたロビンへとその攻撃のラストアタックを託す。ロビンはラディックが固定するナイフの柄尻に向かって飛び蹴りを放ち、ナイフごと喉を蹴り飛ばそうと勢い良く飛び掛かったのだ。そしてその攻撃は見事にハイオークの喉を掻き切り、次の瞬間ハイオークは粒子となって霧散した。
ー【レベルアップ3→5】ー
また魔力を獲得したぞ。
段飛ばしとはこの恐れ知らずめ。
あと18メリーも獲得してるからな。




