表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと世界樹の迷宮牢
77/88

073:ロビン・ラックと世界樹の麓-1-

まったりいきませう。

 場所はステプトリア内、その最南端。そこにはその街の管理下に置かれながら独立した立場と権力を持つ一本の木が存在していた。【世界樹】、それは街が出来る遥か昔から存在しており、この街のシンボルでもあり、また魔力的な支えでもあった。


 深く大地に根を張る世界樹は周囲から取り込んだ魔素を魔石という形で放出し、魔獣は一切生み出さない。故に古くから魔獣の少ない地域、かつ商業的に価値の大きい地域として街は次第に大きくなっていった。そしていつしかこの地にはステプトリアという名前が付いたのだ。


 そんなステプトリアと世界樹だが、これが【迷宮牢】となったのはまだ僅かにここ十年の話であり、数百年という長い歴史を誇る世界樹からすればまだまだ近年発生した新しい事柄と言えるだろう。故に判明していない事象が多数存在しており、世界樹に於ける最大の謎として今も解明が急がれている。


「ここが世界樹の街、ステプトリア……。凄い、まだかなり先なのにもうあんなにハッキリ見えるんだ」

「噂じゃ世界樹は地殻から魔力を吸い上げてるらしいからな。栄養の規模が違うらしいぜ」

「よく分かんないけど、凄いね!」


 世界樹は名物でもあるのだが、近年発生した【迷宮牢】の謎が深過ぎて、ここへの挑戦者に対しては非常に寛大で、寧ろそれによって開拓が進められる事をステプトリアも望んでいる。因みにこの地は七大貴族たる【アースドラゴン】の一族が納めているのだが、世界樹はその管轄に収まっておらず、また迷宮牢に関しては更にノータッチな状況だ。もしもこれらをどうにかしようと制圧作業に出ていたのなら、アースドラゴンの一族は滅んでいたかもしれないが、彼らは共存の道を選んだ。故に互いに利益的な関係は築きつつも、不可侵を貫いており、この街は非常に安定していた。


 そんな街を視界に入れつつも時間的に逼迫している三人、ひとまず観光などは全て後回しにし、そのまま真っ直ぐ迷宮牢のある世界樹を目指して歩みを進めていた。未だ深刻な身の上、ミアはロビンたちと旅の真似事が出来ている事が内心嬉しくあったが、やはり事が解決するまで大っぴらに楽しむ事は出来ていなかった。



 ━━━━━



「ここが世界樹の迷宮牢……」

「近くに来ると滅茶苦茶デカいな」


 隣のミアも無言でこくこくと頷いており、その雄大さを全員が肌に感じている様だった。世界樹の下部を取り囲む様に施設があり、その中の一箇所に中は通じる入り口があると看板に書いてあった為、ひとまずそこ目指していた。


 世界樹が誇る名物だけあって、さぞ人集りの出来ている場所であろうと想像してきた三人だったが、思いの外そこに人は集まって居なかった。そしてそれが故に。


「ようこそおいでなさいました、旅の方」

「え、あ、俺ら?」

「こちらを目的とした旅の方では?」

「まーそうだけどさ……」


 まだ何の心構えも出来ぬまま、その場にいた老人に声をかけられてしまい、少したじろいだラディック。だがすぐに持ち直し。


「ここの人? なら色々聞きたいんだけど良い?」

「勿論でございます」


 物腰柔らかく対応してくれる老人に安心したラディックは、ひとまず未解決だった幾つかの質問を投げ掛けてみる事にした。


「迷宮牢に入れる人ってどう判別するの?」

「ゲートに弾かれます」

「ゲート?」

「入り口の手前に門があるのです。潜らなくても入り口には行けるのですが、お勧め出来ません」

「ん? どう言う事?」

「迷宮牢の入り口は【炎】でございます。資格無き者がはいれば、そのまま亡き者に」

「え、入り口が炎?」

「見れば分かります」


 そう促すと、老人はゆっくりと歩み始め、やがて世界樹の方角を指し示した。


「アレです」

「あれが……入り口?」


 ただ燃えていた。それはまるで世界樹の根元で焚き火でもしているかの様な不謹慎で異様な光景であった。しかしこの距離で視認出来るのだ、恐らく近くに寄れば大炎となるのだろう。資格無き者は亡き者に。その言葉が三人の胸へと深く突き刺さった。事を成す為に死んでいては意味がないのだ。故にゲートを通り抜け、資格を得た事を確認してから入るべきなのだ。確認したとて恐怖が伴いそうなのはこの際諦める他ないのは少しばかり気がかかりではあったが、流石そういう状況でもなかった。


「資格を得たとして、あそこに入るのか」

「臆するならば引き返すべきでしょう」

「んや確認だよ、慌てんなって。資格があれば良いんだろ? ゲート潜ろうぜ」


 ラディックがそう促し、三人はゲートへと向かう。まず最初に通り抜けたのはミアだった。全く何の躊躇もなく、街のアーケードを通り抜けるかの様な自然体でその上で通過してみせたが、ここまでは予想の範囲内。特段驚くという事もなく、淡々と進行する三人。


「素晴らしい、やはり資格保持者でしたか」

「あまりいないのか?」

「はい、特に近年は」

「ふーん、んじゃ次は俺な」


 それだけ言葉を残すとラディックが「お先」とロビンに言葉を残しゲートへと移動する。だがやはりミア同様にまるで躊躇も無く、その上であっさりとゲート通り抜ける事に成功した。有資格の証である。


「す、素晴らしい、初回の方々で同時に二人というのは久しく見ていない……」

「やっぱいけたか、そんな気はしてたよ。ロビンもやってみろよ、物は試しって言うだろ?」

「うん、何か二人が通れたし行けそうな気がする」


 そうは言っても二人とは違う面持ちで、緊張を伴った雰囲気のロビン。彼は貴族でもなければデマイズでもない。ましてや王族である筈もなく、今までの流れでいくなら資格は持たないただの一市民である可能性が高かった。故に、ゆっくりと、生唾を飲み覚悟を決めると、ゲートに向かって歩き始める。そしてロビンがゲートを通り過ぎ様とした時。


「ん? 今……気のせいか? いや、それより」


 僅かにゲート色が変色した様に思えたのだ。いや、視界がボヤけた、或いはブレたと表現しても良いかもしれない。だがラディックの言う様に今はそう言う事を気にしている時ではない。


「あれ、何か通れた」


 そう、通れてしまったのだ。一般市民代表の様なロビンが、やはり有資格者だったのだ。これにはミアも喜んでおり、無言で駆け寄り、ロビンの裾を掴んでニコニコしている。ロビンもまた「これで一緒だね」と声をかけており、コクコクと頷くそれが、今となっては愛らしくさえ見えつつある様だった。そして、驚愕の表情を浮かべていたのはこの人だ。


「ば、馬鹿な……選りすぐられた人選ではなく、無造作に集まった三人が、三人とも資格保持者とは……。恐れ入りました、もしよろしければ中での事につきまして、向こうで説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ん、助かるよ。ほら行くぞロビン」

「え、あ、うん」


 目の前に燃え広がる入り口の大炎、そしてゲートを通り抜けた時の不思議な感覚。ロビンはやや違和感を覚えていたが。


「ま、いっか。待ってよラディ!」

「早くしろよなー」


 ひとまず気にしない事にしておいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ