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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと王子の邂逅
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007:ロビン・ラックと使い魔召喚-1-

今、ブックマークして頂いているお二人にめちゃくちゃ救われています。ありがとうございます。頑張ります。

 場所を移したクラスメイト一同。ジャミールに先導され、彼らが移動した先は校舎前に悠然と広がるグラウンドであった。


 本来であればそこには何も無いであろうグラウンドには、現在様々な機器が配置され、その上で多数の教員が配置され其々が忙しそうに役割に徹していた。ロビンにはその機器が何であるかまるで理解出来なかったが、教員がなんと無く使い魔召喚に向けた調整作業を行なっている、くらいに認識していた。


「さて、ここからは静かにしろ。騒いだ奴は退学だ」


 クラスメイト一同、キュッと口を真一文字にした前例がある、この教員は脅しを実行するタイプだ。全員がそんな表情をして沈黙を貫いた。


「見ての通り魔法陣があるな? あそこに自身の血を一滴落とし、陣の中心に立て。そして自身の魔力を触れさせれば陣が起動する。ナイフはそこにあるから陣の中に進む前に傷を作っておけ。時間が惜しい、とっとと始めるぞ。アルヴィス・アルカンシエル、お前からだ」


 誰から、そんな考えを一歳挟む余地もなくジャミールは状況を進行した。そしてその人選に異を唱える者など誰もいなかった。むしろ納得の人選だろう、納得いかないのは特別扱いが嫌いなアルヴィス本人くらいだ。


 ただ注釈するならジャミールはアルヴィスを特別扱いした訳でない。彼は面倒が故に一番丸く収まる手段を取ったに過ぎなかった。つまりアルヴィスはめんどくさがり屋気質の犠牲になったという事だった。


 少しだけ不貞腐れた雰囲気のアルヴィスは指に傷を作り、陣へと歩みを進めた。魔法陣の中心に立つとそのまま真下へ血を一滴垂らし、その衝撃が波紋の様に陣全体へと行き渡る。その後に目を閉じ、彼は陣へと魔力を込めた。やがて陣が光だし、アルヴィスを中心に光が溢れ出した。光に包まれ、誰もが何も視認できなくなった時、


「……お前が俺の使い魔か?」

「その様ですね、ご主人様」


 そこに現れたのは一匹の龍だった。長いその身体は全長10mは超えていそうな雰囲気をしており、しかしてそれが圧力を産み過ぎないのはその細さ故だろう。アルヴィスの召喚した使い魔は白龍、白い蛇の様に細長い身体をクルリと丸めた美しい龍が空中に浮かんでいた。


 その様子に教員も含めた周りの人達を驚愕させ、空気を凍り付かせた。何年振りだ? 流石王族。そんな声が囁き合われているのがどこからでも聞いてとれるほどの騒めきだ。初回から飛び出したものの、白龍とはこんな簡単に呼び出せて良い種族ではないのだ。魔力測定器を持った教員がワナワナと震えている。この測定器を以って使い魔のランクを分けるのだが、文句無しの準最高ランク【A】が認定された。因みにSABCDEFとランクは七段階存在する。


「いきなり凄いのがきたな、とっとと次いくぞ」


 ジャミールによって状況は進行されたが、やはりまだ教師陣の騒めきは収まる気配はなかった。落ち着きが無くなる程の事態なのは確かにそうかもしれないが、ジャミールの言う様に次を進めなければ召喚自体が終わらない。他の教員たちも徐々に気を持ち直して始めていた。


「次は誰がいく? 決意の固まってる奴挙手しろ」


 という訳で、アルヴィスの次からは本人から名乗りを上げて召喚を進める事になった。


「なら次は私が行くわ」

「ミリアリア・ファイアフェネックか、良いだろう前に出ろ」

「失礼します殿下」

「おう、つか殿下とかヤメロ」

「あら失礼殿下」

「お前なぁ……」


 アルヴィスとすれ違い、歩みを進めるミリアリア。彼女はこの国を代表する七大貴族の家系、ファイアフェネック家の令嬢であり、また一人娘であった為次期党首という立場でもあった。つまり、アルヴィスとミリアリアは社交の場で何度か見知った仲なのだ。


 彼女が陣の中に入り血を一滴たらすと、再び波紋が広がり、陣は光を帯びて輝き出した。


 召喚されたのは火の狐、炎狐(エンコ)。赤黄色い毛並みにフワリとした尻尾が特徴の優雅な使い魔だった。因みにランクは【B】とそこそこ高めだ。


「ファイアフェネックだけに一瞬フェネックかと思ったぞ。さぁ次はどいつだ?」

「では次は俺が行かせて貰う」


 こうしてクラスメイト達は次々に召喚し、それを無事に終える事が出来た、のだが。挙手性となった弊害として、必然的に手を挙げられない者が最後に残る流れとなってしまったのだ。つまり大トリはこの人となってしまう。


「次、お前で最後だロビン・ラック。前に出ろ」

「はい」


 魔力について理解の乏しい彼にとっては、この状況は凄まじい難局であった。どう乗り切るか、そればかりが頭を占めており、アルヴィスや他のクラスメイトたちの事など考える余地もなかった。ただ、状況に怯えていた。


 ナイフを手に取り、スッと皆が入れていた様に傷をいれた、つもりだったのだが。焦りから手元がブレてしまい、掌がグサリとしっかりと斬れてしまう。深めの斬り傷。当然、血がダラダラと溢れ出る事態に。


「き、君、一旦その傷口を……」


 慌ててたのはその場に居た担当の教員だ。必要な血は一滴。それを垣間見るに、悠に数百倍の血液を提供しようとする勢いのロビン。異変に気が付いたジャミールも直ぐに駆け寄ってきていた。ロビンの目の前にいた補助教員の血の気がスッと引いた一方で、


「大丈夫です、いけます」

「し、しかし……」

「待てロビン・ラック」

「いけます」

「おまっ、おい!」


 ロビンはロビンで引く訳にはいかなかった。


 これ以上迷惑が掛けられないロビンはジャミールの静止を振り切り陣へと向かう。陣の中心に立ち、垂らすまでもなくダラダラ流れ落ちる血液。それを余す事なく吸収する魔法陣は波うちっぱなしでウネウネするという、何とも不思議な光景が広がっていた。


 そして魔力の使い方が分からない彼は、よく分からないながらに、その場で兎に角気張った。目を瞑って、ふんっと気張った。恐る恐る目を開ける……しかし変化はない。尚も血は流れている。


「やるならさっさとやれロビン・ラック! あまり傷口をそのままにしておくな!」

「はい!」


 余りの流血に少し動揺していたジャミールは、その言葉に思わず圧を乗せてしまう。決して怒っている訳ではないのだが、彼の感情が想定外の形で揺さぶられてしまっていたのだ。早くしなければロビンの生命が危ない、彼を危ぶんだ気遣いの怒号。だが、ロビンはそう捉えない。


(マズイマズイマズイ退学にさせられる)


 そう考えたロビンは必死に気張った。


(嫌だ、帰りたくない、嫌だ嫌だ嫌だ……)


 兎に角気張りに気張った。気張ると更に溢れ出す血液に魔法陣が益々おかしな事になっていき、遂には陣の中心から全体が赤く染まり始めた。気が付けば血の様に赤い魔法陣、不気味な光景である。他の生徒たちの時に見られなかった現象だ。


 そしてそれからすぐに魔法陣が輝き出し、バリバリと黒い電気が走る様な激しい気配が陣から溢れ出始める。これもまた、これまで召喚に成功した19人のクラスメイト達のそれにはない特徴だ。何もかもが異質。


「何だ、魔法陣がおかしいのか?」


 漸く異変に気付いたジャミール。


(拙った、奴の出血に気を取られ過ぎたか)


 だが、一度動き始めた状況は止まらない。やがて周囲に暴風が巻き起こり、先程までの召喚には一切無かった禍々しい雰囲気が辺りに漂い始めた。荒れ狂う暴風、激しく散る黒き稲光、そして血色に発光する真っ赤な魔法陣。


「待てロビン・ラック、お前何を……」


 ジャミールのその言葉とほぼ同時に。

 ロビンと魔法陣は光に包まれた。

 信じられない程立ち昇る大量の真紅の光。

 その場にいた全員が視界を光に遮られる。


 召喚は……成された。

 だが、未だに視界は戻らない。


「こ、これは?」


 そんなまだ視界不明瞭な中、困惑の声が聞こえた。


「まさか……そう言う事か!」


 紅い光の中からロビンの独り言が聞こえる、一瞬皆がそう考えたが、直ぐにそれを改める。否、これはロビンの声ではない。


「そ、そう言う事だったのか……」


 その声の主、そこにいたのは。四つん這いで地に馳せる【人】だったのだ。当人はその余りの絶望に落ち込んだ雰囲気を漂わせており、最悪だ……や、終わった……などのネガティブな言葉をずっと吐き続けている。


「人物を召喚……そんな事、有り得るのか?」


 アルヴィスの声が、静まり返った周囲に響いた。

 前代未聞の人物召喚。


 後にアルヴィスは自身の身内にこの事を伝える時、【ガチ(へこ)みした超強力な魔力保持者が地面に項垂(うなだ)れた状態で召喚されてきた】と語った。無論、その身内達から懐疑の目を向けられた事は言うまでもないだろう。


 静まり返った会場の中、人知れず魔力を測定する機械がエラーを起こし、煙を吐いて故障していた。測定の針を振り切り、Sと認定する事も叶わない程の魔力量。使い魔ランク【エラー】。余りの事態、この異次元レベルの事実に思考が追い付かず、まだ誰一人として魔力値の異常に気が付いていなかった。

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