064:ロビン・ラックと死の少女-5-
場面は変わってロビンとミア。
彼らは走り続け、遂に間も無く断頭岳の入り口である森へ辿り着こうと言う直前に。
「やれやれ、良くまぁこんな所まで逃げてくれたものデスねぇ」
「ぜぇぜぇ、クソガキどもが!!」
ジーマと海鳴りの二人に追い付かれ、走って逃げる事も叶わなくなってしまい、魔杖を構え相対す形に持ち込まれていた。
「あと少しだったのに……」
森に入れたなら事前に逃げるルートは決めていた。そこまで辿り着けたのであれば、地理的な知識のないジーマや海鳴りでは追いつかない速度で逃げ切る事ができたのだ。僅かではあるが逃げる為の策も用意してあった。だがそれは飽くまでも森を走り抜ける最中の話であって、ここでは意味を為さない。故に。
「やるしかない。いくよ【烈破】」
「……起きて、【冷冷】」
戦うしかない、互いに魔杖を解放する。ミアの魔杖はまるで端から先まで全て氷で出来ているのではと錯覚する程に美しい大杖であった。直接戦闘を考慮するのではなく、自身の得意な氷雪魔法を更に伸ばす考えだ。不利をカバーするのではなく得意を伸ばす、考え方は違えど戦う事に本気な者の正しい判断と言えるだろう。
その性能は言うまで間も無く、水属性との親和性を更に高め、詠唱速度、効率、威力に至るまで全てを飛躍的に伸ばす効果を会得していた。残された問題はネーミングセンスだけなのだが、それはこの際関係ない話だろう。
「まさかこんな所まで連れて来られるとは、想定外も甚だしい。やりますよ海鳴りの」
「言われるまでもねぇ、【流れる水の調べ、我願いに応えに驟雨秘めし大いなる力を顕現せよ】、怒る氷の進撃!」
先制攻撃を放ったのは海鳴りだった。進路上の小石を吹き飛ばしながら爆進する氷塊はそこそこの速度を誇っており、当たればかなりのダメージが見込めるだろう。だがこの二人を相手取るには少し速さが足りなかった。
「ミア!」
「氷の飛礫」
両者一斉に左右に散開すると、回避と同時にロビンからミアへ合図が送られる。特に何かの取り決めをしていた訳でもないミアだったが、長年の戦闘経験からロビンの欲する所が理解出来た様で即座に魔法で呼応する。
「クソっ、初級の癖に何つー速さだ!」
それを何とか回避する海鳴り、だが回避と同時に。
「おりゃぁぁぁ!」
ロビンが既に目の前まで迫っていた。だがこれにはもう一人の海鳴りが反応しており。
「やらせるかよ!」
「ほっ、せいやっ!!」
「べぼばっ!!」
魔法を行使した海鳴りを狙うロビンを狙った攻撃を、ロビンが釣った形となっていた。釣られて飛び出した剣を構えた海鳴りは最も簡単に回避するロビンを想定出来ず、繰り出された拳を顔面に食らってしまう。
「何やってんだてめぇ!」
「悪い、ガキだと思って侮ってたぜ」
だが決定打となる程のダメージではなく。ロビンは続け様に。
「ミアァァァァ!!」
信頼する仲間の名を叫んだ。そしてその声とほぼ同時にミアが地面に手を付き、魔法を発動する。
「地を這う氷の柱」
瞬間。
「なっ、これは……!?」
円錐型ではなく円柱型の氷の柱が海鳴りの周囲にランダムに出現し、それが直接的なダメージを狙ったものでは無いのは明白だが、それ故に一瞬意図を計りかねる海鳴り。
その氷柱は確かに攻撃を狙った物ではなかったが、決して攻撃と無関係という訳でもない。
「オラァァァァ!!」
「んだこのクソガキが!!」
その氷柱の側面を足場にロビンが跳ねて来たのだ。まるで跳ね回る弾の如く予想だにしない速度感で信じられない角度から攻撃を仕掛けてくるロビンに終始圧倒される海鳴り。
だが敵も黙ってやられている訳にもいかず。
「仕方ねぇ、使うぞ!!」
「おうよ!」
「【優雅に流れる水の旋律、積年の厚みから成される氷柱たちよ、我願いに応えに氷雪に秘めし大いなる力を顕現せよ】」
ミアの放った中級魔法、【地を這う氷の柱】をレジストすべく、氷の上級魔法の詠唱を始める。そしてその攻撃の威力と範囲は氷柱を砕くに留まらず、ロビンをも吹き飛ばす破壊力を内包していた。
「巨岩を砕く氷針の十!」
唱えられる魔法名、発動する上級魔法。海鳴りから放たれる幾重もの氷針の弾丸たちは、周囲に佇んでいたミアの氷柱を吹き飛ばし、勢い止まずにロビンを襲う。だがロビンとミアは。
「進撃を阻む氷の壁」
「なっ、クソガキは何処だ!?」
ミアが中級魔法による氷の盾を生成し、それを壁にしつつ走って回り込んでいたロビンは、突如として海鳴りの前へと姿を表す。
「ここだぁぁぁ!!」
「チッ、死ねええええ!!」
謎の自己主張をし、折角隠れて行動していたというのに大声と共に姿を現したロビン。だがその出現は海鳴りの意表をついており、発言も相まって彼に攻撃が集中する。
「グギギギ!!」
それをガントレットを正面に構える事で根性でガード。その隙をつく形で。
「巨岩を砕く氷針の十」
「何ぃぃぃ!?」
ミアの上級魔法が後ろから炸裂する。
「クソがァァァァ!! グハッ」
海鳴りの一人が魔法を行使するもう一人をカバーする形でガードするも、不意を突かれた上級魔法を防御仕切る事もできず、大ダメージを負ってしまう。そこを。
「どっせーい!!」
「ガッ!?」
ロビンが仕留めた。背中から強烈な右ストレートを受けてしまい、立ち上がる事も出来ずにその場に沈黙する海鳴り。
「やりやがったなぁぁぁ!」
「怒る水球の進撃」
「グッ……この……」
「せい!!」
「ガハッ!?」
完全に場を飲み込まれた海鳴りに畳み掛ける様に詠唱破棄の中級魔法を撃ち込むミア、その隙を突いてトドメを刺したロビン。二人のコンビネーションの前に、海鳴りは為す術も無く沈黙させられる。
そして、何故か参戦しなかったジーマは。
「ほーお見事デス。お二人ともなかなかやりますねぇ」
そう言葉を吐きながら嬉しそうに手を叩いていた。