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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと死の少女
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063:ロビン・ラックと死の少女-4-

「行くぞ」

「おおおおおおおおおおおおお!!!」


 金白色の毛並みが震え、広く障害物の一つもない断頭岳にリクゼンの雄叫びが木霊する。眼前に迫る山の様な魔獣達。既に近付いて来ていた魔獣の群れがリクゼンの叫びに呼応する如く一斉に飛びかかってくる。接近してくる魔獣は先頭を切っているモノ達だけでも数十匹。それらが次第に牙や爪を剥き出しにして、獲物を斬り裂く瞬間を思い描きながら唾液を垂らし走り狂う。


 そんな光景を目の当たりにし、ラディックは少しだけ思いを馳せていた。かつての自身であればすぐに逃げる事を考え、目を逸らし、確実性を求め【生】に執着していた。だがそれは己のみの生であり、今は違う。この時ラディックの脳裏を支配したのは、目前に迫る圧倒的なまでの【死の圧力】に対する感情ではなく【仲間の安否】のみだった。


 ここの敵は速やかに処理されなければならない。ロビンがミアの手を引き、敵の意識を奪ってくれている間に。もしもロビンが失敗し、何かの気紛れで今ここで魔核(コア)が復活したのなら、全員死亡のバッドエンドルートが確定する。魔核(コア)の単独破壊が無理なのであれば、今やれるのは敵戦力を可能な限り削る事。


 やがて集まり、戦力が集中したタイミングで敵を撃破する。その為にこの場にいる魔獣の群れは速やかに掃討せねばならない。先々で最も邪魔になる存在と言えるからだ。


「いくぞ【鷹の目】」


 魔杖を解放し、双剣を構え、魔獣の爪が、牙が届かんというタイミングで、ラディックは剣を走らせた。無慈悲に、無感情に、ただ眼に見える景色と効率のみに全神経を集中させ、眼前に迫る敵の喉を正確に掻き斬った。狂気に満ちた魔獣の群れに慈悲の感傷などなんの意味も持たない。


 一振り、また一振りと敵を斬り裂いては地に沈める。こんな序盤に魔法を多用しては魔力が保たない、この力は必ず先で必要になる。だから今は、少しでも多くの敵を剣で沈める。そんなラディックの元へ、一匹の魔獣が隙を突いたかの様に飛び掛かる。


「我が目が光る今、それが届く訳なかろう」


 鋭い牙が、その喉笛に喰らいつき、肉を噛みちぎる。そしてそこへ一瞥も無いままにすぐに反転すると次の魔獣を爪で引き裂き、頭部を噛み砕き、ラディックの僅かに足りない背中をフォローするアバラ。


 その攻撃は凄まじく、爪を一振りすれば四肢は弾け飛び、牙を振るえば噛み千切れぬモノなど一匹も在らず。まるで紙細工を破壊しているかの様な容易さを以って敵を屠り続ける妖狐アバラ。隣で剣を振っていたラディックは心強くその姿を視界の端に捉えていた。


 また一方で、眼前で魔獣の頭部が果物を潰す様に爆ぜるのを目撃していたラディック。


「ハッハァァァァァァ! 漸く勘が戻ってきたわい! この赤棒も頗る快適じゃ! 愉快愉快! ハハハハハハハハ!!!」


 そこで暴れ散らかしていたのは猿鬼リクゼンであった。彼はラディックに与えられた赤棒を巧みに操り、的確に魔獣の頭部のみを爆散させていた。やっている事は棒で頭を叩くと言った行為なのだが、リクゼンが赤棒でそれを為すとなると爆散と表現せざるを得ないだろう。


 迫り来る魔獣達がどれほど折り重なっていようとも、時に飛び跳ね、時には姿勢を深くし、また軽快に走り回っては赤棒を振り回し続けていた。その一撃一撃が魔獣の頭部を爆散させており、「勘が戻った」というその台詞に違わぬキレのある動きを繰り広げていた。


 至近での撲殺に血飛沫が飛び散り、鮮血を浴び続けるリクゼンの身体は少しずつ赤く染まってきていた。頭部を失った魔獣の体達は少しの間だけその場に立ち尽くすと、やがて力無くその場に崩れ落ちていく。まるで何が起こったのか気付かぬままに考える頭を失ってしまっていた様に、死が一呼吸遅れてやってくるリクゼンの戦場は圧巻の一言に尽きる光景を生み出していた。


「やってくれるぜリクゼンの奴」


 鷹の目を巧みに走らせ、弱そうな敵は即座に首を落とし、手強そうな敵は手首を斬り腕を斬り足を斬った後に首を落とし、魔法を行使する事なく魔力を全身に覆う直接戦闘のみで魔獣を葬り続けるラディック。


 彼の得意とする戦術は一人で戦う事を想定するものが多かった為、今はこのスタイルが最も効率的に敵を減らせる最適解であった。


「ハァハァ、減ってきたか?」

「減ってはいるだろう、だが我がここに居られる時間もあと僅かだ。気をつけろ」

「十分助かってるよ、ありがとなアバラ」

「……フン」


 無愛想にはしてもキッチリ敵を斬り裂き続け、時にラディックをフォローしてくれていたアバラだったが、彼がここに居られる時間には制限があった。そしてそれはもう間も無くと言う所まで迫っており。


「チッ、口惜しいが我が参戦できるのはここまでの様だ」

「ありがと、母さんによろしくな」

「死ぬなよ」

「ったりめーだ」


 その言葉を最後に、アバラはその場から消えて居なくなってしまった。


「リクゼン! まだいけるか?」

「誰に言っとるんじゃアホたれ! ピンピンしとるわ!」


 大声でそう返事を返すリクゼンに「悪態がつけるならまだ大丈夫だな」と少し胸を撫で下ろし、アバラが減った事でより周囲に神経を研ぎ澄まさなければならなくなった現状を見つめ直した。


 魔力にはまだ余裕がある、だがそれ以上にスタミナの消耗が激し過ぎた為、やや肩で息をし始めていたラディック。


「弱音を吐いてる暇もねーなこりゃ」


 余計な事を考えるのはやめて眼前に迫る魔獣達に集中し直した。っというのも、正面で不意に生じた左右に散る二匹の魔獣による同タイミングの猛攻を皮切りに、十数体の魔獣達が一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。


「チッ」


 小さく、舌打ちが溢れるラディック。剣を走らせ、身体を捻り、撃ち倒した敵の頭を踏み台に回避し、また剣を走らせる。その優秀な【眼】がなければ既に死んでいてもおかしくない様な凄まじい攻防が繰り広げられていた。だがしかし、それだけの連続攻撃を以ってしても、魔獣の攻撃はラディックに届かない。尚も立ち続け、次の魔獣へと鋭い眼光を送る彼は、その気迫と魔力的な余裕とは裏腹に、体力的な限界を感じ始めていた。


「ハァハァ、酸素が足りねぇ……」


 敵の強さ、そこに脅威はなく、あったのは【数】という圧倒的なまでの暴力。


「情け無い、もうバテたのか主人(あるじ)よ!」

「煩せぇ! まだやれるっての!」


 横目に限界を感じ取ったリクゼンが檄を飛ばすも、息も絶え絶えな返事が返ってくる状況。離れ過ぎず、ラディックに群がる敵の数を減らすべく周囲の敵へと狙いを変えるリクゼン。


 後の残りはどれ程か、視界も霞む程に息が上がってきたラディックは敵の攻撃を受け始めていた。


「痛っ! この野郎!!」


 まだ倒すだけの力は残されていたが、このままいけば時間の問題で力尽きてしまう。まだ、彼には役目が残っていた。自身に課したこの戦場でのやるべき事がまだ在るのだ。それを成さぬ内に沈む事は許されない。


「ハァハァハァハァ、まだ、だ」


 最初の頃の勢いはなく、一匹一匹を何とか斬り伏せるラディック。だがその力はより衰えていき。そして遂に。


「いかん!! 主人(あるじ)後ろじゃ!!」

「クッ!」


 一瞬だけ意識が途切れたその隙を突いてきた魔獣がラディックの背後から襲いかかった。そしてその攻撃が届かんとするタイミングで。


砂の刃(サンドブレード)


 砂の刃が魔獣を通り抜け、真っ二つに斬り裂いた。


「お、遅せぇよ……ハァハァ死ぬかと思ったぜ……」

「これ全部ラディックの兄貴がやったんですかィ。うへー死体の数が尋常じゃねぇ、イカれてるぜ」

「少し休んでろ、この数なら俺たちで何とかできる。良くやってくれたな」

「だー! もー無理!!」


 その場に大の字になって横たわるラディック。信頼出来る仲間達、クライブとサジの到着で緊張の糸が切れたラディックは、全ての危機感知を放棄しその場で休み始めたのだった。


「死ぬかと思ったー」

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