054:ロビン・ラックとデマイズの里-5-
そしてロビン達がデマイズの里に入って1ヶ月が過ぎようとする頃。
「ふぅ、実践形式も結構様になってきたな」
「まだまだラディには敵わないや」
「流石にそれは勘弁してくれって」
二人は型の確認、肉体的なトレーニング、そして実践形式での訓練と、より幅広く対応出来るように鍛えつつ、魔力の総量増加にひたすら務めていた。
その間も時折舞い込む任務で修行は中断されたが、その任務自体が実戦訓練として非常に良い機能をしていた。考えた技や習得した魔法を試すのに最適な討伐任務は二人の実力を格段に伸ばしていっていた。
「最初こそ30分でバテてたこれも今では1時間くらいは平気だしな」
「ラディが居るから毎日楽しい!」
前回の修行時、ニクスが付いていたとは言えロビンは大半の時間を一人で過ごしていた。些細な修行の一つ一つがラディックと行えている今はとても満たされた時間だったのだ。
「少しはマシになった様ですね」
「ニクス先生!?」
「ニクス師!?」
二人で会話していた後ろから気配も無く突然声がしたのだ。慌てて振り返るとそこには悪戯めいた顔をしたニクスだった。彼は自身の伝えたやるべき事を1ヶ月きっちりとやっていた二人を見て、少し気分が良くなっていたのだ。
「ラディック」
「はい!」
「1ヶ月間頑張りましたね」
「師の教えあればこそです。ありがとうございます」
「師……まぁ良いでしょう。教えに準じた貴方には一つ、火と土の混合魔術を授けましょう」
「え!? マジですか……」
驚愕の顔を見せるラディック、その隣りでは「良いなー!」と輝き叫ぶロビンの姿もあったが、ニクスはにべもなくラディックへの言葉を続けた。
「詠唱はこうです【燃ゆる炎に焚べられし砂、幾年を経て魂すらも宿りし灼熱の岩々、我願いに応え溶けた大地よりその姿を顕現せよ】、そして紡がれる魔法名はこうです」
「……はい」
ゴクリと、生唾を飲み込むラディック。
銘が告げられる。
「大地を貪りし灼熱の龍。階級は上級に当たりますが、混合魔法故に発動難易度と威力は帝級に匹敵します」
「マグナ、ドラグレイム……聞いた事もない魔法だ」
「後で理から説明します、正しく理解し納めなさい」
「はい!!!」
信じられない気持ちと昂る心から何とも形容し難い気持ちが我慢出来ないラディック。その詠唱や魔法名から内容を想像し、早る気持ちを抑えるのに必死になっていた。だがニクスは後で説明すると言っていたのだ。恐らく、次は。
「ロビン」
「はい!」
待ってましたと、綺麗な姿勢をしてニクスを見つめるロビン。彼は待っていた、待ちまくっていた。羨まし過ぎて握った拳の内に傷を作る程に待ち焦がれていた。
「アナタも、良く耐えました。この1ヶ月で伸びた魔力を見れば、その弛まぬ努力が目に浮かびます。アナタにはこの魔法を贈ります。受け取りなさい」
「はい!!」
「詠唱はこうです、【眩き光子の精霊、歪曲されし空間に佇む栄華の花よ、黄昏れの果てに秘めし汝の力の一端を、我が身に我が魔力に顕現せよ】、そしてこう結びます」
ロビンもまた、ゴクリと喉を鳴らした。
そして一瞬の静寂の後に、光が照らされる。
「閃光神の戯れ」
「セラフィック……ノヴァ」
一言一言を噛み締める様に言葉にしていくロビン。
そしてニクスは。
「簡単に説明すると、これは身体強化系上級の魔法です」
「上級? 俺なんかにそんな……」
「俺は、今のアナタであれば発動出来ると確信しています」
「……ニクス先生がそう言ってくれるなら、死ぬ気でやるよ」
「その粋です」
不敵な笑みを浮かべるニクス。そして二人共が視界に入る位置へと移動すると、二人を見据え、手を軽くラディックへ向ける。
「それでは、ラディック。アナタの魔法から説明します。骨の髄まで染み込ませなさい」
「はい!!」
ニクスは二人に魔法発動の鍵となる、理の説明を始めた。
♦︎
それからの1週間、ラディックとロビンはニクスによって齎された新たな力の獲得に勤しんだ。魔法とは詠唱に込めたる想い、意味、空気など、正しく理解せねば発動しない。故に中級魔法と言えど詠唱破棄で使い熟すラディックはかなりの使い手であると言えるだろう。
そしてやはり、先に物にしたのはラディックだった。
「ハァハァ、で、出来た……出来たぞ!!」
「やはり、アナタなら成すと思いましたよラディック」
「ありがとうございます!!」
「ぐぬぬ、ラディに負けてられない……」
土と火の混合魔法。その特異な魔法は理への干渉だけでも相当難解であった。だが、既に詠唱破棄や詠唱継続を使い熟すラディックはその辺りの技術が卓越しており、早期習得へと繋がったのだった。
一方この人は。
「お前はどんな感じなんだ?」
「んっとねー、多分あとちょっとだと思うんだけどさ」
そう言うとロビンは腕を組んだまま考え込んでしまった、
「何で言うか、こう、そこまで来てる? のかな? だから後は扉を開いてあげるだけというか、むしろ扉を……あ、扉を作れば良いのか」
「何言ってんのお前」
ポンと、自身の前で手を打ったロビン。彼は以前ニクスに使ってもらった神級魔法、その時に出現した扉の事を思い出していた。その様子を見て訝しげな表情をするニクス。
「あれ? でもそうなると詠唱が変わる様な……うーん。それこそ【眩き光子の精霊、歪曲されし空間に佇む栄華の花よ、黄昏れの果てに秘めし汝の涙の一滴を、我が前に顕現せよ】みたいな、でもそうなると魔法は?」
「何言ってんのお前、マジで」
「その詠唱……」
ニクスは怪奇な物見るような目でロビンを見つめており、現在起こっているロビンの異変に気が付き始めていた。
「もしかすると【閃光神の守護】で発動するやもしれません」
「閃光神の守護」
そのロビンの発言と同時に眼前に突如として扉が出現する。それはニクスが呼び出した様な禍々しい物とはまるで真逆で、天使が舞い降りるのではと言う様な神々しさを携えていた。
「これは……?」
「所謂、光の盾ですね。閃光神の用いる神々の盾です」
「えっ」
何故そんな事が、不思議でならなかったが、何故かロビンはこの時に。
「あ、そう言う事か。だから【眩き光子の精霊、歪曲されし空間に佇む栄華の花よ、黄昏れの果てに秘めし汝の力の一端を、我が身に我が魔力に顕現せよ】になるんだ」
何故かその詠唱に納得がいった様で。
「閃光神の戯れ!」
魔法名を告げると同時にロビンが光溢れる魔力に包まれ、これまでの魔力戦闘の限界だった力を遥かに凌駕する力を備えてそこに立っていた。
「これがセラフィックノヴァ」
「やりましたね、まさかオマケにもう一つ魔法を持っていくとは思いもしませんでしたよ」
「この魔法……凄い……」
光り輝く自身の手や足に戸惑いながらも、そのポテンシャルの高さに驚愕するロビン。そして。
「今なら全力で相手が出来るかもしれない、お待たせラディ!」
「おう! こりゃ俺の修行としてもかなりヤバそうだ」
これまでロビンの手を引いて引率してくれていたラディックだが、正面切って戦ったとして、どちらが勝つのか判断が難しいレベルの魔力を感じ、思わず笑みが溢れたニクス。
「この力は俺にとって剣だ、それに盾まで……! ありがとうニクス先生、俺もっともっと頑張るから!!」
「えぇ、励みなさい。その力は必ずアナタを支えてくれるでしょう」
「ラディ、俺負けないからね!」
「ばっ、負けてやんねーよ!」
二人はそう言い合ってこそいたが、非常に嬉しそうな顔をしていた。




