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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと死の少女
56/88

052:ロビン・ラックとデマイズの里-3-

 とある日の事。


「そう言えば、ラディの使い魔ってどんな人なの?」

「人じゃねーのよ。普通は魔獣なんだよ」

「そうだっけ?」


 ロビンは修行中にふと気になった話をラディックに振ってみたのだ。


「俺の使い魔さ、なんつーか、めちゃくちゃ弱くてさ。使い魔が死ぬ時って、一生の別れになっちまうだろ? だからあまり呼び出してやれなくてな」

「うーん、確かに危険な場面では呼べないかもね」


 だがここでまたロビンは思ってしまった。


「今なら呼んでも大丈夫って事?」

「まぁ……確かにな。ロビンなら良いか」


 今は二人で裏山にいて、他に人は居ない。それにこの辺りに魔獣はおらず、居たとしてもこの二人をして気付かないという事も無いだろう。そんな考えから。


「おい、リクゼン。ちょっと来れるか?」


 ラディックは使い魔を呼び出してみたのだ。


「ぷはー、やれやれやっと話せたわい」

「……は?」

「……ん?」


 ラディックは固まっており、ロビンは「??」といった顔をしながら双方を交互に見ていた。何が起こっているのかは分からないが、何かが想定外だったらしい。


「おまっ、え? 話せた……のか?」

「アホ言え、話せるわ!!」

「えぇ……だってお前さ」


 どうやらラディックはこの使い魔が話せないと思っていたらしく、出現と同時に風呂上がりのオヤジの様な声が聞こえてきては固まりもするという話だった。


「お猿さんだ!」

「お猿さんとか言うでないわアホたれ!」

「ご、ごめんなさい……」

「分かれば良い」


 その使い魔は【猿鬼(エンキ)】で、ラディックが与えた名はリクゼン。彼が初めて呼び出した時には小猿の様な雰囲気をしており、それはそれは悲しんでいたラディックだった。自身の兄や、特に母親の使い魔は強力で、兄達の修行を()()()()()に立てる程に使い魔が強かったのだ。


 故に強くて頼りになる使い魔に憧れており、アルヴィスが【龍】を召喚したあの空気など特に興奮し、高揚感が抑えられなかった。そんな昂る気持ちに囃し立てられた彼の期待を一身に背負って現れた使い魔が【白い小猿】のリクゼンだった。


 その第一印象は「え、猿?」だった。目の前に出現した小猿の雰囲気は実に頼りなく、魔力なく、力なく、知性も見られず、猿鬼どころか「ただの猿なのでは」と疑う程に何の魅力も感じられなかったのだ。ショックだった。時が止まったのではと錯覚する程にショックだった。そして魔眼を発動出来ない自身の【才能の無さ】というレッテルに更に磨きをかけてしまった事に絶望していた。だが彼はこの時点ではまだギリギリ諦めていなかったのだ。


 その絶望感のまま自室戻り、落ち着き、考えた。きっと何かの間違いだ、そうに違いないと。そして自室にて恐る恐る呼び出した事があったのだが、やはり小猿が呼び出され「キーキー」と叫びながら室内にあったバナナやリンゴを貪る様は正しく【モンキー】以外の何者でもなく。そっと使い魔の呼び出しを封印していたのだ。


 そこに来てこの事態である。今日のリクゼンは前に見た時よりも全体的にガッシリしており、少し会わない間に修行でもしていたのかと見紛う様な変貌を遂げていた。そしてそれだけならまだしも、突然話し始めた日には腰を抜かして驚いても仕方ないと言える状況だろう。


「お前……リクゼン、だよな?」

「確かにあの日お主はそう呼んどったな。ワシは猿鬼じゃが、ちと特殊での。呼び出す時の魔力に呼応して出現時の肉体を変化させるスキルを持っておる」

「魔力に呼応?」

「左様」


 まだどこか納得いかないラディックだが、何となく話の筋は見え始めていた。因みにこの時、隣のロビンはフリフリと揺れるリクゼンの尻尾に夢中になっていたのだが割愛して良いだろう。


「つまり、最初に呼び出した時は魔力を流す所か、魔力で触れただけだったから赤子も同然の様な姿で呼び出していたと?」

「そういう事じゃ」

「自室で呼んだ時は絶望のあまり恐る恐るの半信半疑で魔力も練らずに呼んだからって事か?」

「それでも二回目の時はやや動けたがな」

「バナナ食ってただけじゃんお前」

「お主のせいじゃろアホたれ」


 驚愕の事実に理解がギリギリ追いついて来たラディック。そしてついに現在の話へと話題を移す事に。


「って事はアレか。今修行中で魔力を練ってる中で呼び出したからこんな感じで出てきたって事だよな?」

「左様、まさか口もきけぬまま数ヶ月も放置されるとは思わなんだわ」

「……悪い、流石にこれは俺のせいだな」

「いや、ワシの特性を知らねば仕方のない事よ。よもやここまで放置されるとは思わなんだがな」

「そういう事だったのか……」


 目の前で普通に会話に応じるリクゼン。そんなリクゼンに戸惑いつつも、荒肩の状況は理解出来たラディック。彼は自らの使い魔に改めて謝罪しつつ、今後の話をする事に。


「特性は理解出来たんだけど、お前何が出来んの?」

「基本的には戦闘じゃろうな。そもそのつもりで呼んだのではないのか?」

「そうなんだけどさ、何かまだ実感が持てなくてよ」

「そう言う事なら話は簡単じゃ。まずは少し頼みがある」

「ん? 頼み?」


 リクゼンは改まってそういうと一つ、彼にとって重大な見落としについて言及する事に。


「全裸は勘弁して貰えんか?」

「え、あ、そう言う感じ?」


 全身毛皮に覆われている立派なお猿さんだった為、特に違和感を覚えていなかった二人。だがリクゼンとしては全裸の意識があったらしく、気まずそうにそう進言した。そして。


「ついでに武器も貰えると助かるのぉ」

「武器? リクゼンは何が得意なんだ?」

「ワシは棒術じゃ、ある程度長くて硬い奴を頼む」

「成る程、なら一旦仮でこれを渡して良いか?」


 ラディックはそう言うと、地面から棒を生成し、それをリクゼンへと渡す。


「まぁええじゃろ」


 そしてラディックはそのまま自室へと帰還し、自身の使っていたデマイズ一族の戦闘衣装を取り出し、それをリクゼンへと与える事に。


 服装を改め、棒を手にするリクゼン。そして彼は最後にこうリクエストをする。


「うむ、外装はこれでええじゃろ。では一度ワシを戻し、呼び出す際に可能な限り全力の魔力で呼び出して貰えるか?」

「あー成る程、いいぜ。一旦戻すぞ?」

「構わん」


 一度リクゼンを戻し、再び呼び出そうとする前に。ラディックは魔眼を開き、可能な限り全力の魔力を放出し始める。周囲を魔力風が覆い、軽い砂が舞い上がる。そんな本気の戦闘状態でリクゼンを呼び出すラディック。


 するとその魔力に呼応する様に姿を改め、眼前に出現したのは。


「ふぅ、頗る調子がえぇのぉ」


 バリバリと金色のオーラに身を包み、一本の石棒を片手に持った金色(こんじき)の猿鬼だった。

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