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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと死の少女
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049:ロビン・ラックと魔核の脅威-9-

 ロビンが魔法学校に入学してから間も無く四ヶ月が経とうとしていた。


 彼は順調に授業を熟し、分からない所があれば必ずニクスに聞いて解決し、また肉体や魔力の鍛錬も欠かさず行っており、入学当初からは考えられない様な雰囲気へと変貌を遂げていた。


 一部ではあるが中級魔法を操り、魔眼に匹敵する眼を使え、また戦闘に対応できる肉体と心構え、そしてある程度の魔力。


 入学二日目にサジをして「何故入学出来たのか分からない」と言わしめる程の初心者ロビンはもう何処にも居なかった。だがそんな彼が日常を満喫し、このまま大いに成長出来る事を期待していた最中に。


「さて、お前らに知らせる事がある。えーなんだ。なんだったかエトセル・メイヤード」

「間も無く中間休暇があるので、それかと」

「それだ、それがあるぞ」


 と雑なお知らせが為されたのだった。


「中間……休暇?」

「え、お前そんな事も知らなかったのか?」


 アルヴィスから驚愕の顔で見られるロビン。そう、これは周知の事実だったのだ。少なくともエトセルがジャミールの話す内容を予想出来る程には皆が認識している事だった。


「信じられんが知らない者が居たので念の為説明する。各年度の前半期はそれぞれの学年やクラスで進行度にかなりバラつきが出てしまう。故にこのタイミングでそこを一律に均し、後期を持って全員が進級出来る様に調整される」


 全員が知っている事を聞かされており、ロビンだけが「へーそうなんだー」みたいな顔をしていた。そしてジャミールは言葉を続けた。


「更にお前らにはまだ関係ないが、来年度からは戦闘理論だけでなく、戦闘実践の授業が始まる。そこに使われている施設は他よりも老朽化が著しく、高頻度に修繕しており、この前半期だけでかなり弱っている。その施設をガッチリ直すついでという事で、半年に一度校内全域のメンテナンスを行なっている訳だ。つまり基本的には学校に残れない」

「ええええええぇぇぇぇぇ!!!」

「お、おぉぅどうしたロビン・ラック。何かあったのか?」

「え、あ、いや、何も……」


 それぞれが一度家に帰り、学んだ事を復習したり、研鑽して技を磨いたりと、この期間中を活かすか殺すかでその生徒の優秀さが試される長期に渡る自習期間。だがそういう意味では何一つ問題のないロビンだが。どうにも耐え難い問題が一つ存在していた。


「……帰るの?」


 そう、ロビンは帰る家が無かった。否、帰りたいと思える家は無かったのだ。これまで何も無かった生活。その中でその時間が永遠に続くのであればそれはそれだった。


 だか今のロビンは知ってしまったのだ。友と語らう楽しさを、技を習得する喜びを、学校で学ぶ素晴らしさを。この感情を持ち合わせた状態であの家に帰るというのは、些か耐えるに耐え難い苦痛を孕んでいたのだ。


「あの家に?」


 彼の姿は正に茫然自失と称す他ないものであり、中間休暇の日程や期間、その後の予定など、後の話は何一つ頭に入ってこなかった。






「ロビン、おいロビン?」

「え、あ、はい、何?」

「大丈夫か?」


 ジャミールが去った後も空を見つめたまま戻らないロビン。悪戯心もあり彼の視界に手を翳してみたアルヴィスだが、何一つ反応は得られず逆に焦りを覚えてロビンの肩を揺らす。


 こんな事になってしまったロビンの心情に察しのつくアルヴィスは「ええぇぇぇ」と叫んだ直後から彼の事をチラチラと横目に見ており、ジャミールの退室に併せてロビンに絡みに行っていたのだ。


「何となく察しはついてるけど……どうしたんだ?」

「え、あ、その……部屋には残れないんだよね?」

「そうだな、そうなる」

「ハァー、まずいよー。俺今更家に帰るなんて無理だよー」

「そうだろうな、そんな事だとは思ってたよ」


 珍しくロビンの机に肘をついて話をするアルヴィス。普段はロビンが前のめりな為、こういったシーンは珍しいのだ。因みにロビンは背もたれに体重を乗せて遠くを見つめている。


「先に言っとくけど、マジで悪い」

「え、何が?」


 どうやらアルヴィスはこれが言いたかったらしく、ロビンのリアクションを見た後から申し訳ない気持ちで一杯だったのだ。


「俺さ、この時期はどうしても公務が立て込んでてさ。それこそサジですら同席できるか微妙な会合すらあって大変なんだよ。だから一緒に居てやれなくてさ……」


 ロビンと同じかそれ以上に落ち込んだ様子を見せるアルヴィスに、逆に段々と申し訳なくなってくるロビン。逆に申し訳ないアルヴィスの逆を行く事で少しだけ状況を持ち直したロビンだった。


「なんかゴメンね、俺のせいで」

「話を聞いてる限り、マジで仕方ないと思うぞ」


 時折聞かせてもらえるロビンの信じ難い普通の数々、今更そこへ戻れと言われても困る以外の何物でもなかった。だが、ロビンにはもう一人頼れる友人が居たのだ。


「その事だけどよ」


 そう切り出し、話に割って入ったのはラディックだった。


「前に買い物に行った日の事覚えてるか?」

「当たり前じゃん。初めて買い物した最高の日なんだから」


 話を振ったのはラディックなのだが、「いやそこまでの話か?」と内心思った事はすぐさま隣に置き、話を進める事に。


「お前は一度、ちゃんと向き合った方が良いと思うんだ。お前の魔力と」

「え、魔力?」

「ん? 何の話だ?」


 アルヴィスとロビンが「??」となる中、話を続ける事で説明をするラディック。


「詳しくは道中で話そう。ま、要するに【うちの里で俺と一緒に修行しようぜ】って事だよ」

「え!? ちょ、えぇ!?」

「おー良いなそれ! それなら俺も安心だ」


 心から安心したのか、アルヴィスは「マジで良かったー」と小さく呟いていた。実の所、事情を知っている者が少ない事も理解していた為、誰にどう頼めば良いのか、もしくは自身の権力の一端を利用するかと、兎に角考えられる限り悩み尽くしていたアルヴィスだった。彼はそんな特大の悩み事から解放されていた。


「衣食住の心配はしなくていい。一つだけ頼みたい事がある」

「頼みたい事?」

「そう、それが【一緒に修行する事】だ」

「そんな最高な事ある!? もうダメだよ、俺そんなの泣いちゃうよ……」


 実の所ラディックには幾つが打算的な考えがあったのだ。一つはロビンの眼だ。これに関して彼はどうにかしてやりたいと考えており、恐らく彼の里が最も適任であろう事も考えていたのだ。他でも無い、魔眼の一族なのだから。そして二つ目はゼルドリスとの戦闘時に於けるロビンへの借りを返す事。ロビンは助けられたと考えていたが、ラディックもまた同じ様に考えており、ここに関してまだ納得の行く恩返しが出来ていなかったのだ。そして最後に、向上心の塊であるロビンが近くに居れば、ラディックは間違い無く強くなれる。ここまで理由が揃っていれば誘わないなど考えられなかったという訳だ。


「お前の為でもあり、俺の為でもある。来るからには厳しい修行にも、課せられたノルマにも付き合って貰う。やれるか?」


 その質問が来る頃には既に涙の滝に沈んでいたロビンだが、男にここまで言わせておいて返事をしない訳にもいかず。


「やる!! ありがとうラディー!」

「ちょ、何で俺なんだよ!!」


 返事をしたロビンが飛び付いてくる事を予想しアルヴィスの背後に回っていたラディックは、自身の身代わりとなったアルヴィスの様子を見てとても満足そうにしていた。


 こうしてロビンは中間休暇の間、ラディックと共にデマイズの里へと赴き、修行する事となった。

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