046:ロビン・ラックと魔核の脅威-6-
「本当にありがとうございました。私たちはフィリービアの外れに住んでおり、この辺りには良く魔石を採取に来てました」
「普段はこんな事起こらないんだけど今日は……。だから本当に怖くて、助かりました」
どうやら親子はロビンたちが向かっていたフィリービアから来ていた様だった。彼女らの話に寄ると、それなりの頻度でこの辺りに魔石採取にきており、それを調合する事で生計を立てている装飾品屋の家系らしい。丁度それはロビンが目的としている店でもあったのだが。
「魔石が取れる地域か」
「えぇ、でもあまり危険は無くて、私たちだけの秘密の穴場として利用していたんです」
「成る程な」
ラディックは里の特色上、多くの情報に触れていた。魔石が生まれやすい土地。そう言った場所には何故か魔力が溜まり易いらしく、魔獣になったり魔石になったりと、段階の過程の違いで別の物が生成される。
つまり、元々魔獣が生まれる理由に関しては十分要素が揃った場所ではあったらしいのだ。
「たまにあるよな、魔獣が生まれねーのに魔石だけ出来る場所」
「そうなんです。勿論見えやすい場所に出来る訳じゃ無くて、見つけるのにもコツがいります。私たちの家系が魔石を取り扱った装飾品屋を営めたのも、その技術に寄る所が大きいのですが……」
「成る程なー、って事は……」
魔石は元々生まれる土地。そして魔獣は生まれなかった。そんな場所に魔石ではなく魔獣が生まれた。この状況に、ラディックは覚えがあった。
「魔核が何処かに出来ちまってる可能性があるな」
「え、そんな……」
「ねぇラディ、魔核って何?」
「知らねぇか。えっとな、簡単に言うとヤベェんだ」
「えー簡単に言い過ぎだよー」
魔核というのは魔石と魔獣の中間の様な存在。魔石が生まれる確率や魔獣が生まれる確率に比べると極端に珍しい例なので、あまり見かける事はないだろう。
だが、生まれてしまうと厄介で。周りに魔獣を生成しつつも自身の内に魔力を溜め込んでいき、やがて強力な魔獣が生まれてしまう。その魔核を守る意味で魔獣が周囲に配置されるのだ。つまり。
「あの辺りに魔核があったって事か。チッ、空ばかり見てて下を見落としてた。戻るぞロビン」
「え? なんで?」
「今ならまだ間に合う、この程度の頻度で魔獣を出すくらいの魔核なら生まれて間も無い筈だ。今のうちに破壊する」
「オッケー、手伝うよ!」
「アンタら」
「はいっ!」
突然ピリピリした空気を出し始めたラディックに思わず緊張してしまう親子の二人。ビクっとしつつラディックを凝視していた。そんな彼の横顔は真剣そのもので。
「恐らくこの辺りで魔獣は暫く出ない。俺たちは魔核を破壊してくる。二人で行けるか?」
「気をつけてまっすぐ帰りまふ!」
娘の方が返事をしていたのだが、余りの気迫に思わず言葉を噛んでしまう。そんな事を微塵も気にしないラディックは少しだけ笑顔を作り。
「助かるよ、気をつけてくれ。これが終わったら俺たちもフィリービアに向かうから、何かあったらその時に」
「……はい」
二人は家を目指して進み始めた。そしてこの二人は。
「ロビンお前、魔力見えてるだろ?」
「うえぇ!? ななな何急に! 魔核は!?」
「俺に嘘付くのか?」
急な核心を付く質問に怯えるロビンは思わず誤魔化そうと言葉を並べるも、壊滅的に嘘が下手で苦手で。しどろもどろになった所で、ラディックに見つめられていた。
「うぅ……」
「ロビン、俺は誰にも言わない。危険度を減らすのと効率を上げるのに重要なんだ。教えてくれ」
ハッキリとそう言われてしまうと、ロビンは弱かった。
「見えて……ます」
観念する様にそう呟いた。
「やっぱりか、そんな気はしたが……まぁそれは良い。それよりそれなら格段に効率が上がる。手伝ってくれ」
「オッケー、何をすれば良い?」
切り替えは早いロビン、今は嘆く時では無い。魔核を破壊してしまわなければ後々不味いことになってしまう、そんな重要なタイミングだ。
「どこまで見える?」
「魔力の流れ、種類、多い少ない、とか」
「マジかよ、ほぼ俺のそれと同じじゃねーか。お前デマイズの出身なのか?」
「俺のはその……ニクス先生の影響で」
「ニクス?」
「使い魔なんだけどさ」
「あぁ、例のやつか。……そりゃ言えねーわ、成る程な」
どこか納得いったラディックであった。
♦︎
デマイズの魔眼。戦闘中に敵の魔力の多寡を見破り、発動する魔法まで当ててしまうその戦闘スタイルは、他の魔法使い達の詠唱を圧倒する程に強かった。例え詠唱を破棄しようとも正確に対応されてしまい、どうあっても二手三手遅れてしまう。戦闘中に三手遅れれば、最早死んだも同然だった。
そんなデマイズの魔眼に匹敵する眼力を、魔力消費なしで常時発動可能なロビン。その視認能力は今の段階でのラディックの眼の上位互換と言わざるを得ない性能を誇っており、まさかこれが使い魔の影響だなどと言おうものなら追及は免れない。糾弾もあり得るだろう。故に誰にも言わず、隠してはいたのだが。
「だとしても、お前それ隠すの下手すぎ」
「うぅ……ごめん」
「謝らなくて良いけどよ、バレたら相当ヤバいだろ」
「だと思う」
ロビンは壊滅的に隠すのが下手であった。
「ひとまず後から考えるか、今は魔核だ」
「だね」
気持ちを切り替え、当面の問題に着手する二人。
「魔核がある場合は魔力的な異常があるらしい。前から聞いてはいたんだけど、まだ見た事はねーからそんな感じと思ってくれ」
「魔力的な異常、さっきみたいな?」
「多分な。で、空に関してはかなり念入りに見てたけどよ、まずもって何もなかった。これは間違いない。って事は恐らく下だ」
「下、地面中って事?」
「そういう事だ。地面が邪魔でかなり見え辛いとは思うが、手伝ってくれ。場所はさっきブラックウルフが出た所から円形に拡げていく」
「オッケー、任せて!」
二人は元居た場所へと戻り、ブラックウルフの死体が残された場所へと戻ってくる。そしてそこから地面を凝視しながら少しずつ探索範囲を拡げていった。やがて声を上げたのはロビンだった。
「ん? これは……多分これかな? 分かりにくいけど」
「見つけたか?」
「うん、この下」
「……ここだな。よく見つけたこんなの。お前、やっぱ俺と同じくらい視えてるな」
「うぅ、秘密にしてね」
「分かってるよ、それよりちょっと離れてろ。破壊する」
「どうやって?」
「場所さえ分かればな、立ち昇る砂漠の砂塵!」
地面に手を付き、そこから地下へ向かって魔力を送り込むラディック。地中で砂の槍を形成し、魔核を攻撃する。そして。
「あ、消えた」
「よし、壊せたな。ふー危ねー! こんな所に魔核とかヤバすぎるだろ」
「でも良かったね!」
「まぁな、発見が早かったから中級一発だったけどよ。もうちょっと後だったらもっと大変だっただろうな。つかこんな小さい魔核普通は見つけらんねーよ」
地面に付いた手の砂を払い「やれやれ」と一言溢したラディックは一難去った事で眼を普段の黒へと変色させる。
「街、目指すか」
「だねー。大変だったけど俺楽しかったよ!」
「前向きだなー、俺は疲れたよ」
「いっぱい新しい事知れたしさ!」
「あ! それで言うならお前の眼、何か対策考えねーとな」
「対策?」
「バレにくくしないとヤバいだろ?」
「え、ラディーありがとー! 俺一人で悩んでたから凄く嬉しーーー!!」
「ばっ、その引っ付くのやめろって! ちょ、離れろ!」
こうして、漸く街を目指せる事となった二人は気を取り直してフィリービアに向かって歩き始めるのだった。