044:ロビン・ラックと魔核の脅威-4-
「ねーねーアルヴィス」
「何かあったのか?」
「公欠の時って何してるの?」
「公欠? ……まぁ色々あるが基本的には所属している所から【これをして欲しい】と依頼が来て、それを熟すってスタイルだな」
「ふむ、所属してる所からのお願いか」
「どうした? ミア・ホワイトニュートか?」
「うん。よく考えたら時々休んでるからさ、何してるのかなって」
「ほー成る程成る程」
公欠したミアに対して言い知れぬ不安が募るロビン。彼としては同じ本好きな仲間であり、次の本へと導いてくれる存在、またそれを語れる唯一の友人でもあった。それに学友としては自身より上手の魔法使いとして、様々な事を学ばせて貰っている。ロビンの中で、何だかんだと気になる存在になりつつあったミア・ホワイトニュート。
そのロビンの発言を受けて、どこか下世話な笑みを浮かべているアルヴィス。珍しい表情である。
「ま、でも公務なんて基本的には何処かを訪ねて顔を出すとか、何かを決める場に同席するとか。何かをすると言うより、その場に【居て貰いたい】ケースの方が遥かに多い。彼女も七大貴族、十分立場ある存在だ。あまり気にしなくてだろう?」
「うーん、そう……だよね」
少し納得のいかないロビンに「こいつもしかして」などと考えていたアルヴィス。実の所、彼は重たくてドロドロした政略的な恋愛交渉しか関わった事がなく、純粋な人の恋路に飢えていたりしていた。普通の恋愛、それは彼にとって縁遠い事象と言えるだろう。故にロビンの恋路には大いに興味があったのだ。
だが助け様にもアルヴィスはミアの事を殆ど何も知らなかった。何故なら彼女が政治的な場面に顔を出す事はなく、同じクラスとなった時に「ホワイトニュートにあんな子居たか?」となった程に関わりを持てていなかったのだ。
「気になるなら今度聞いてみれば良いんじゃないか?」
「公務ってさ、あんまり聞かない方が良いんじゃないの?」
「言えない事は言えないって言えば終わりだから多分大丈夫だろ?」
そう言って「少なくとも俺はそうだぞ?」と付け加えるアルヴィス。そんな彼にロビンはまた少し考え込むが、やがてこう答えた。
「そうしよっかな、ちょっと気になるや」
「なら聞くしかないな」
ロビンから【気になる】という言葉が出て「お、これはいよいよか?」などと考え、クライブかサジか、はたまたラディックに言おうかと思ったが、言った瞬間に引かれるイメージが出来たので、そっと心にしまったアルヴィスだった。
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ミアが公欠をしていたその日の帰り道。この日は授業が午前中しかなく、早いタイミングで解散となっていた。
「アルヴィスはやっぱり街とか出られないよね?」
「まーな、護衛する二人が大変なのと、後は騒ぎになっても悪いだけだからな。基本的には近付かない様にしてる」
「むぅ、どうしよう……」
「何かあったのか?」
「ちょっと欲しい物があってさ」
「欲しい物? 珍しいな」
ロビンは何かを欲していた。そしてそれはどうやら街にあるらしい。
「悪ぃなロビン少年、着いて行ってやりたい所だが、それをすると何の為にここに居るのか分からなくなっちまうからなぁ」
「だな、俺たちも同行出来そうにない」
「むぅー、街かー」
街。人が多い場所。知らない人しか居なくて破滅的にゴチャゴチャしていて、迷路の様でもあり、騙される可能性もある場所。ロビンにとってはそんなイメージだった。
「誰かに頼むってんならラディはどうだ?」
「あー! ラディが居た! 誘ってみる!」
アルヴィスからの提案を受け、踵を返してラディックを探して回るロビン少年。まだこの時間であれば教室にいる可能性が高かった為一目散に目指し、そして。
「ラディ居た!!」
「ん? 何かあったのか?」
間も無く教室を出ようという感じのラディックと扉を挟む様な形で出会う事に成功する。あわや行き違いという場面だった。
「えっとね、この後時間あったら少し街に行くのに付き合って欲しいんだ」
「街? 俺と?」
「うん、あの……その……」
突然しどろもどろになってしまうロビン。その理由は。
「怖い、から」
「怖い? 街が?」
「俺街とか殆ど行った事なくてさ……」
「え、そうなのか?」
行ってみたい場所ではある、だが勇気を出すだけでは恐怖に負けてしまう。故に、誰かの助けが必要だったのだ。
「街に行くくらい何でもねーよ。予定も空いてるし、荷物だけ置いたらそのまま行くか?」
「行ってくれるの!? ありがとラディー!!」
「ちょ、おまっ、引っ付くのやめろって!」
こうして二人は荷物を自室へと置き、服装を正した後に街を目指す事となった。私服で出てきたラディックに対して、綺麗な制服に着替えて出て来たロビン。「いやお前マジか」と一言零すと、彼はそれ以外に服を持っていないと聞かされる。俄に信じ難い話であったが、ひとまず時間も無い為、自分の服を貸してやる事にしたラディックだった。