041:ロビン・ラックと魔核の脅威-1-
アルヴィス一行の襲撃事件。
それはアルヴィス本人から伝えられる事で周知の事実となった。
この件でアルヴィスの査察は当面凍結、公務は王城の近くまたは城下町に限るとされ、その一方で事件を解決し、更に問題の根幹となった山賊も解体しており、その功績も認められる所となった。そしてあわや学校生活にも影響が出るかと思われたが、そこだけは何とか回避し、アルヴィス、クライブ、サジの三人はセブンズ魔法学校へと通い続ける許可を得る事に成功した。
またロビンは臨時とは言え公務同行者としてアルヴィスに付き従い、これを大いに助けていた。その功績から小さく賞状を貰い、僅かばかりの給金を受け取る運びとなった。そしてその賞状を額に入れ部屋の中に飾り、見るたびにニヤニヤしていたという後日談は言うまでもない事だろう。
「悪いな、あれだけの事に巻き込んでおいて紙一枚で済ませるなんて」
「俺アレすっっっごく嬉しくて、すぐに部屋に飾ったよ?」
「え?」
「ん?」
たたが紙一枚、されど紙一枚。
アルヴィスはまだロビンの純粋さを侮っていた。
「ま、まぁ喜んで貰えたならよかったよ。それにみんな無事だったしたな」
「一時はどうなるかと思ったけどね」
「だな。檻の中に居たのにゼルドリスの奴がこっち向いて飛んできた時は焦ったなー。もう終わりかと思ったよ」
「うぅ、アレ……俺のミスだよね」
「結果オーライだろ、そのお陰で丸く収まったんだし」
「そうかな?」
「そうに決まってる」
漸く落ち着いて話せる機会に恵まれ、二人は情報の共有に勤しんでいた。
「そっちはどうなったの?」
「まー大体はお咎め無しかな。クライブとサジも引き続き俺の側近としてやれそうだし、今回味方に死人も出てないしな。俺としてはその辺りに関わったロビンも加算評価して欲しかったが……」
「みんなが居てくれて俺は嬉しい!」
「ま、ロビンがそう言ってくれるから良かったよ。奴ら二人はまだやり残してるやり取りがあってな、今日は席を外してる。それに校内なら先ず以って大丈夫だろうし」
「うーん、サジの話難しいもんね」
「サジの件はちょっとボカして伝えたけどな」
「そっか。仕方なかったけど、そのまま伝えるのはやっぱりマズイよね」
「だな、流石に無理だ」
サジの無事と、それに纏わるちょっとした報告齟齬を「あはは」と笑い捨てるアルヴィスに、より一層惹かれていくロビン。今回の一件で、元々アルヴィスに好意的だったロビンは、その想いを更に深めていた。
「で、そっちはどうだったんだ?」
「んーラディと仲良くなった……と思う」
「思う?」
「学校だとあまり話してくれないんだよね」
「あーアイツっぽい」
「そうなの?」
疑問の残るロビンに対して「あいつ権力とか嫌いそうだから」というと更に疑問を深めるロビンに、「ま、それは良いとして」と横に置いてしまい話題を変える事に。
「あの時さ、何回か魔力が跳ね上がった気配を感じてたんだけどさ、サジの話と総合すると回数に辻褄が合わないんだよなぁ。アレって結局なんだったんだ?」
「あーアレかー」
自身は檻の中に居た為、疑問が疑問のままとなっていた事を思い出したアルヴィスは、それを聞いてみる事にしたのだ。
そしてその事に関して、ロビンは帰ってからニクスへと質問し、粗方の答えは得ていた。故に彼は返すべき答えを持っていた。
「内緒にって、ニクス先生に言われてる」
「もうなんだか大体察しはついたよ」
「何で!? 秘密なのに!」
答えは持っていたが、解答は秘密としておくべきだと結論を付けていたのだ。だがその一言で何故かアルヴィスに答えた形となってしまっていた。「どうしよう、秘密が……」と悩むロビンに「誰にも言わねーよ」と頭をくしゃくしゃ掻き乱してくるアルヴィス。ロビンは納得いっていなかったが、アルヴィスは話を続けた。
「ならロビンは良いとしてさ、他の奴の話、ロビン目線で教えてくれよ」
「他?」
「魔力上昇だよ」
「あー、まずね、んっと、敵の人が怪物になった!」
「だな。他にもあっただろ?」
「ラディかな?」
「まぁあいつしか居ないな」
「ラディはね、聞いたんだけどさ。ちょっと頭整理してくるから待ってくれって言われた」
「成る程、本人だしな。そりゃそうか」
とは言えアルヴィスは事の流れを概ね理解出来ていた。それこそ先程のロビンの返答が最後のピースだったと言っても良いだろう。彼は情報に於いては他の人よりも多く持っており、尚且つ整理する頭脳も持ち合わせていた。故に今回の件であっても、彼にとって道筋立てて考える事は難しい事ではないのだ。
「で、そのラディックはもう学校に来ているのか?」
「来てるよ!」
「なら、改めて礼を言わないとな」
「ラディ、借りを返したって言ってたよ?」
「でも俺が礼を言っちゃダメって訳じゃねーだろ?」
「ほんとだ! そしたら一緒に行こうよ!」
「だな、それなら昼にでも言うか。どうせアイツ外で昼飯食ってんだろ?」
「そうなんだー、何で学食で一緒に食べないんだろ」
「ま、気持ちは分からなくもないがな」
「何で!?」
二人は談笑しつつ教室へと入り、自身の席へと着いた。変わらぬ日常、そこへ帰って来られた喜びを噛み締めながら。
「よーしお前ら席に着いているな。今日は公欠していた上に事件に巻き込まれた馬鹿二人も揃っている。お前ら二人は他の奴より遅れている分、きっちり取り返しておけ。因みに俺は知らん、勝手に追いつけ」
「うっ、はい……」
「では今日の授業を始める、教科書を開け」
相変わらずなジャミールに苦笑しつつも、アルヴィスとラディックと学校で笑い合える。その事が堪らなく嬉しいロビン少年だった。




