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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと死の少女
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前談 ミアと月と柵と

新章です。よろしくお願いします。

「ほぁ、今日の月、綺麗」


 見上げた空に輝いていた大きな月。ほとんど満月と言えるそれは、夜だというのにとても雄大に辺りを照らしていた。セブンス魔法学校に通う少女ミアは、夜にひっそりと月を見るのが趣味だった。


 本来であれば見る事もままならない筈の月。何故なら月自身は何の光も発しておらず、本来は誰に見られる事もない目立たない存在だから。ところが月には太陽という相方がいた。眩しく輝く太陽が全てを平等に照らし、光を与え、木々を育て、水を浄化し、命を育んでいる。世界に暖かさをもたらし、闇を照らす神の如き存在。ミアは太陽に憧れていた。


 ところがゆっくり観察しようにも太陽はその眩しさ故に直視できなかった。だがその太陽の光を受けて輝く月であれば、じっくりと観察する事が出来たのだ。そして、月は美しく輝き、第二の太陽として夜の闇を僅かに照らしている。太陽ほどでは無いかもしれない、だが太陽の居ない闇の中に漫然と立ち塞がり、闇に染めてなるものかと輝いている。月の存在で夜は少しだけ明るさを保っているという事実、ミアはそれをどこか誇らしく感じていた。


 そして、自身と重ねてもいた。輝く事が出来ない自分の様な出来損ないでも、もしかしたらいつの日か輝ける時は来るのだろうか。それは殆ど諦めがついてしまった、子供の頃のミアの夢だった。また、憧れでもあった。


 今のミアは白馬の王子様がパカパカとやってきて「ハァイ、君、可愛いね! 僕のハニーにならないかい?」と言いながら何もかもを解決して奇跡のハッピーエンド、は現実には起こらないという事を知っていた。故に冷静に考えるに、自分の可能な範囲で地道に頑張る他ないのだ。


 そう信じて生きてきた。だがそれさえも。複数の存在に小石を積み重ねられ、行手を阻む程の高さにされてしまっては進む事もままならない。頑張っても頑張っても、先には繋がらない。ミアは先が見えずにいた。




 そんなミアを語る上で避けては通れないホワイトニュートの話。数いる貴族連中の中でも、特に国内最大規模を誇る家名が七つ存在する。その七つの貴族は殆どその実力に差もなく、互いに研鑽しあっていた。国に安寧を齎す由緒正しき七つの貴族、人々はこれに敬意を表し【七大貴族】と呼んでいた。


 ミアが所属するホワイトニュートもその中の一つであり、その家に産まれた者は光に適正を持つものが殆どであった。故に光に特化した術式、武具、兵器などを数多く所持しており、中枢に近付けば近付くほど光の素養は不可欠となっていく。


 逆に言えば、ホワイトニュートの家に産まれたにも関わらず光の素養を持たない者など、家の中に置いておくのも恥ずかしいとされるほどであった。


 そして、ミアにあったのは【水】の適正だったのだ。


 彼女の母親はホワイトニュート家に使える召使いの一人で、その日もせっせと仕事をこなしていただけなのだが。何の戯れか当主に襲われ、懐妊。ホワイトニュートの血を継ぐ者として出産を管理され、そんな中で産まれて来たのがミアだった。だが先述の通りミアに光の適正はなかった。そう、何を隠そう彼女の母の適性が水だったのだ。光の父に光の母、その子供であれば高確率で光に強い適正を持つ子供が産まれるだろう。だがミアは1/2の確率で見事に水を引いてしまったのだ。そこから、ミアの母親は召使い時代よりも遥かに辛い日々が始まってしまう。


 問題点は大きく二つ存在していた。一つはミアが家の中にいる事を好ましく思わない他の母親たちや、光の属性に拘る上層の人間たちが彼女ら親子を激しく冷遇した事だ。日当たりの悪い部屋に押し込まれ、まともな布団なども与えられず、食事も何かの残りのような物が与えられていた。何をしようにも難癖つけられて、罵声や罵倒は日常茶飯事。とにかく、毎日が地獄の様な日々だった。


 そしてもう一つの問題が、ミアが10歳を越えた辺りから、当主がミアに執着し始めたのだ。何かにつけては呼び出し、ベタベタと触れては誉めちぎり、物を与え、側に置きたがった。母親の手前、自分だけが特別扱いされるのがとにかく嫌だったミアは、当主に呼ばれている最中はひたすらに母親への謝罪の言葉を考えていた。行いそもそもが不快だったというより、申し訳のなさから辛い時間を過ごしていたのだ。


 そしてこの二つ目の問題が特に不味かった。家を管理する上層の人間がこの状況を危険視し始めたのだ。もしこれでその【紛い物】を政治的な権力に関わらせたり、発言権を持ち始めてしまったり、何かが間違って当主にでもなろうものなら大問題だった。【光】という適性の中に育まれてきたホワイトニュートの血が汚れる、そう考える者が大半だった。


 故に、遠ざけたのだ。魔法学校に入学させるという手段を以って。


 そしてその状態で公務として任務を授け、達成困難な状況に向かわせて、名誉の戦死をしてもらう。これが当主を除く、ホワイトニュート家がミアに望んでいる事だった。


 そして当主はというと。勿論彼女に発言権を持たせる気などなく、政治的な権力を与える気もなく、オモチャとして可愛がるだけ可愛がって、飽きれば捨てるくらいのつもりでミアに接していた。ミアの母親は惜しかった。あと少し若ければ本当に好ましい見た目をしていたのに。そこにきて瓜二つの娘が産まれてきたのだ。赤子の頃はともかく、時が立てば経つほど母に似てくるミア。そんな彼女が単純に欲しくなったのだ。己の欲求を満たすオモチャにする為に。


 つまり、ミアの人生は既に詰んでいた。

 何をどう努力しても、先に続く道は途中で途絶えているのだ。


 彼女の選べる道は二つにひとつ。


 一つはホワイトニュートとして名誉の戦死をする道。

 一つは卒業後に現当主の性玩具となり、やがて来る破滅を待つ道。


 そして彼女自身、この事に何となく気がついていた。それは本人が察したり考えたりした訳ではなく、周りのお節介な連中があれやこれやとミアに吹き込んでくる為、そういった事情にはある程度詳しくなってしまっていたのだ。


「ほぁ……月、綺麗」


 もしも光を持たずに産まれてきた自分が、月の様に輝けるのなら、それはどれほど素敵な事だろうか。


「いいなぁ……」


 自身では光の素養を持たない筈の月がこんなにも綺麗で。

 闇の中に漫然と輝いていて。

 ミアは月が大好きで。

 そんな月に嫉妬していた。

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