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ロビン・ラックと魔法学校  作者: 生くっぱ
ロビン・ラックと王子の邂逅
41/88

039:ロビン・ラックと王子の奪還-10-

 タイミングはシビアだった。


 肉薄するゼルドリス。


 解錠を進めるサジ。


 そして詠唱を始めたアルヴィス。


 そんな張り詰めた空気の中、まず声を上げたのは。


「開いた!!!」


 サジだった。そしてそれと時を同じくして。


猛りも従う嵐の狂順(テンペスト)!!!」


 アルヴィスの魔法の構築が完了する。

 と同時に魔力を足に集め、地面を強く蹴り真上へと飛び上がる。彼はこの時魔杖を所持しておらず、にも関わらず帝級魔法を発動させるその集中力は流石の一言。そして檻上部にあった扉にぶつかる様に飛び出すと、眼前に肉薄するは変わり果てた姿のゼルドリス。


「王子テメェエエエエエエエ!!」


 即座に狙いをサジから強力な魔力を誇るアルヴィスへと切り替えるゼルドリス。例え敵がどれだけ増えようとも、今のゼルドリスであれば全員屠れるのだ。届き得るとすれば、今しがた解き放たれたばかりのこの男。嵐にも匹敵する旋風を従え、彼の命へと爪を突き付けるこの男だけである。


 故に、取り除かねばならない。

 何よりも際優先度で。


 突如立ち塞がったこの難敵を、魔杖を持たぬ今のうちに仕留めなければならなかった。だがそんな彼の下には。


「おっと、俺も居ますぜ?」

「サジィィィィィィ!!」

進撃を阻む泥鉄の壁(マッドシールド)


 かつての盟友、サジが控えていた。

 彼は攻撃力こそ高くないものの、サポートという意味ではクライブをして敵わない側面を持っている。そんな彼が下から魔杖を構え攻め掛かって来たのだ。


「コンノ野郎ォォォォ!!」

「へへ、悪いな」


 その攻撃はダメージが目的ではなく、守る事が目的でもなく。アルヴィスの姿を僅か一瞬隠す、その為だけに。そしてサジの魔法で生まれた極僅かな隙に。


「頭を下げろ、サジ!」

「ゲギャッ!?」


 轟々しい嵐を従えるアルヴィスはその全魔力を右手へと集中。結果、鉄の様に硬質化していた筈のゼルドリスの皮膚を最も簡単に突破。彼の渾身の手刀が、ゼルドリスの首を一撃で、跳ね飛ばした。


「……!!」


 驚愕の意をその悪魔と化した顔で示すゼルドリス。

 紫に変色した血液が丸い玉となり飛散する。


 そんな首を断たれた彼とすれ違う様に、その場で前を向き、哀愁の表情を見せるサジ。首と胴体が切り離されて尚意識を保っていたゼルドリスに対して。ゆっくりと口を動かしー


「せめて、人の姿で送ってやりたかったよ。ゼルドリスの旦那」

「く、そ、が……」


 少し水気を帯びた目したサジが、そう溢した。

 そして一秒の間も置かず、アルヴィスは追撃を放った。未だ反撃の余地があると見ていた彼によって、一瞬の内に細切れになるゼルドリスの頭部を見送り。


「あばよ」


 そう、一言だけ花を添えた。




 ______




 そうなってからは早かった。

 アルヴィスが合流した事で安定感が一層増したロビン一行は、比較的余力を残したサジとラディックがクライブとロビンをフォローする形で帰還する事に。上層を失った【山薙】のアジトでは、蜘蛛の子を散らす様に末端構成員たちが逃亡。これ以上何かをしようとする者は誰も残されて居なかった。出来る事ならそれぞれを確保したかったアルヴィス達であったが、流石の彼らにもその余力は残されていなかった。


 地に沈んでしまったロビンは、その後ラディックに支えられる様にして起き上がるも、全く身体が動かず、結果背負われて帰還する事になっていた。彼は未だ未熟な身、いくらニクスに鍛えられたとは言ってもまだまだやれる事は少ない。難敵蔓延る戦場で、これ程までに何も出来ないのかと未熟を痛感していた。だがそんなロビンに「お前が居なきゃ俺は死んでたよ、ありがとな」と声をかけたラディックのお陰で、ほんの僅かだけ、今日までの努力に誇りを持てたロビンだった。


 そんな一件の後、デマイズの里に身を寄せたボロボロの一行は、開眼したラディックの口添えとアルヴィス本人がいた事で、先に訪れた時よりも高位の対応を受けて二日程過ごす事となった。すぐにでも立ちたい気持ちはあれど、負傷者のダメージが甚大過ぎた為、大事を取る事に。


 そしてクライブとロビンがある程度良くなった時点を以って、彼ら一行は学校へと帰還すべく、デマイズの里を後にした。


 事前の取り決めで、解散後は学校へ向かう段取りとなっており、ひとまずその様に行動し、改めて報告作業をこなす事で落ち着いていたのだ。


 またデマイズとして信用と発言権を得た開眼者ラディックは、この事によって学校生活の継続さえも必要無くなった訳だが、本人の希望で一度やり始めた以上は最後までやり切るという路線で家族を説得。自分達の都合で俺に道を強いたそれを今更無かった事にはさせないと言い切ったラディックを見ていたロビンがボロ泣きし、ラディックが涙鼻水唾液の三重被害にあった事は想像に易いだろう。


 そしてラディックがその道を選んだ理由は言うまで間も無く、アルヴィスとロビンとの時間をもう少し過ごしてみたくなってしまったからだ。彼にとって守るべき存在や共に闘う仲間というのは貴重な存在であった。


 そんな一連の流れがあり、一行は学校へと無事に帰還する事が出来、困難な連続であった査察に疲れ切った一同はそのまま深い眠りへと誘われる……かと思いきや。


「ふぅ、こんな物かねぇ」


 その日の夜中、自身の荷物を纏めて旅支度をするサジの姿がそこにはあったのだった。

誤って一度削除してしまいました。。

申し訳ありません。

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