033:ロビン・ラックと王子の奪還-4-
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アルヴィスは囚われている。殺されている可能性は極めて低かったが、交渉や状況次第ではかなり危険な事には変わりない。
「山薙の狙いは十中八九囚人の解放ですね」
「成る程、仲間の奪還か」
「軽く聞こえたかも知れませんが、人数がとんでもないから多分大騒ぎになっちまいます」
山薙の解放と拡大。この大騒ぎが成してしまったなら、責任は誰にあるのかと問われれば、アルヴィスと言わざるを得ないだろう。アルヴィスの命か国内の大混乱。どちらを取るにしても、もう一方が重過ぎる。
「この件が本格的に取り扱われる前に片を付けなければかなり不味い事になる」
「ですね、スピード勝負か」
「サジとロビンには悪いが、全快を待つ暇はない」
「俺は大丈夫だよ!」
「俺も、今更休ませろなんて言いませんよ」
「で、お前ら殿下の居る場所に心当たりはあるのかよ」
ラディックのこの発言を受けて、サジが反応を示す。
「奴らがこの辺りで根城にするのであれば、ここの一択でさァ。俺の事も死んだと思ってる筈なので、まずもって無警戒かと」
「俺たちは手負いの軍勢で、しかも情報も無しって思われてるだろうな」
「ですです、そこが唯一有利な点。このアジトなら俺は抜け道を使えます。大将の解放は、見張り次第ではありますが、まぁ5分ほど頂ければ鍵があっても出してみせます」
これを言い切ったサジの表情は真剣そのものであった。普段飄々としている彼からはやや想像出来ない顔をしていたが、事態が事態なので誰も言及しなかった。
「問題は恐らく檻の近くにいるゼルドリスと、中程の部屋にいるペルフェンダー。こいつらが俺に気付いたらアウトだと思って下さい。少なくとも、俺では勝てません」
「成る程な、俺の相手はソイツって事か」
「アンタがどれ程のものかは知らねぇし無理強いもしない。だがもし頼めるなら、ゼルドリスの足止めが出来るとかなり助かるのは間違いない」
「足止めとか言うなよ。やっちまっても問題ないんだろ?」
「まぁ出来るなら問題はねぇ。アイツはかなり手強い風使いだ。気をつけくれ」
「わーってるよ、任せろ。借りを借りたままで殿下に死なれた日にゃ寝覚めが悪い。借りた物はキッチリ返すぜ」
「頼もしいな」
フッと笑いを零すクライブ。思えばかなり張り詰めた時間が続いており、立場も状況も悪かった。漸く見えた一筋の光明に思わず笑みが出てしまったのだ。
「おっと、油断は禁物ですぜクライブの兄貴。多少マシになったとは言え綱渡りには変わりねぇんだ。頼みますよ兄貴」
「あぁ、今度こそ仕留めてやるさ」
拳を強く握り、宿敵を思い出すクライブ。あの時自分が奴を仕留められていたら今頃状況は違っていただろう。歯痒い思いだった。
「ロビン少年は案外と視野が広い、判断も鋭いし時々ハッとさせられるほど良い動きもしている」
「ありがと」
「だから悪いが、ちょっと付き合って貰えるか?」
「当たり前じゃん! アルヴィスのピンチに俺だけお留守番とか絶対嫌だから。なんて言われても着いて行くから」
珍しく怒り心頭のロビン少年。平生は装っていても内心穏やかではなかったのだ。彼に出来た初めての大切な友人。そして兄の様な安心感のある存在。そのアルヴィスのピンチである。じっとしていられる筈などなかった。
「ならもう何も言わねぇ、戦力に数えるからな?」
「任せてよ。頼りない俺だけど、やれる事は精一杯やるから」
こうして一行は、アルヴィスの囚われるアジトを目指す事となった。
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「成る程な、見張りが三人か」
「アイツらはザコだ、それ程問題にはならねぇ。問題は中程まで進んだ部屋に居るであろうペルフェンダーだ」
「任せろ」
四人は山薙のアジトと思しき場所に来ていた。そしてサジの読みは当たり、物々しい雰囲気を放っていたのだった。
「悪いんですがザコも含めてクライブの兄貴の担当ですぜ。突っ切ってペルフェンダーに接敵して、そのままラディックとロビンを行かせてやって欲しい」
「任せろ、今度こそ仕留めてやる」
クライブの表情は険しく、また燃えていた。やはり本来ならばこの中で最もしっかりすべき立場のクライブだが、作戦指揮はサジ、戦闘面ではラディックの方が優れており、どうしても任せる形になってしまう。申し訳なさで一杯だった。故に、この役割りに関しては十二分に応えると決意に満ちた表情をしていたのだ。
「そして、ロビン少年」
「オッス」
「少年はそこからワラワラ集まってくるであろうザコを引きつけてどこか適当な場所で物を壊しまくって暴れてくれ」
「了解!」
陽動担当のロビン少年。彼は誰にも伝えていなかったが、魔力が見えていた。敵の動きを視認する以上の速さで的確な判断が出来るのは、彼の能力に加えてこの視界能力に依存していたのだ。故に、乱戦に強く、また敵や状況が不鮮明な中で最も正しい判断が出来る存在でもあった。これまでの彼の動きからそういった適性がある事を見越していたサジは、彼にこの役回りを与えたのだ。
「ロビン少年が暴れたなら、そこに人員を割かざるを得なくなる。そこからはラディック、すまないが一番危険な役回りだ、頼むぜ?」
「俺の方は任せろ。俺よりお前のが役割としては肝心なんだからな?」
ラディックの役割は単純明快。ボスとの一騎打ちである。どれ程の数の敵がロビンに引きつけられるかは未知数だったが、戦いが始まれば周りの人員は足手纏いにしかならない。必然的に一騎打ちへと移行する流れになるだろう。
そして裏から回るサジの役割。これこそ全員が犠牲になってでも成すべき最重要任務であった。三人が三人とも囮のムーブをして、彼はその隙を着くだけである。だがその可否によって全てが決まってしまう。そんな役割であった。
「勿論さ、ここでしくじったなら大将に合わせる顔がいよいよなくなっちまう。俺は生きて大将を助けなきゃなんねぇ。でないと、大将に傷を作っちまう」
「……だな、言おうかと思ったが、分かってるなら良い。頼むぞサジ」
「兄貴も、頼みますぜ」
四人はそれぞれの役割を最終確認し、そして位置についた。
「時間はかけなければかけない程良い。準備出来たなら行きますぜ?」
「俺は行けるよ!」
「俺もだ」
「大丈夫だ」
それを確認すると少しだけ頷いたサジ。
そして声を発した。
「始めるぜ!」
「おう!」
作戦が決行される。