032:ロビン・ラックと王子の奪還-3-
「おぅおぅ、心配させて悪かったよ。それにありがとな、お前は俺の命の恩人だ。いくら感謝しても仕切れねぇ」
「そんなの、大好きな村の人達を人質にされて、アルヴィスに斬られる事にしちゃったサジに比べたら、俺なんてなんでもないよ……」
「ま、身から出た錆ってやつよ。切り替えて行くしかないねぇ」
「で、そうなるとだ」
少し顔に喜びが現れていたが、穏やかに団欒していられる場合でも無い。緩みかけた空気を仕切り直したクライブは改めて椅子に座り直し、少し暗い表情をして自身の考えを述べた。
「アルを助けに行けるのはこの三人になる。サジはどう見る?」
他のメンバーは傷こそロビンの回復魔法で何とかなっていたとしても、馬がなかったり魔力を喪失し過ぎていたりと、戦力としては心許ない状況だった。故に戦力として考えられるのはここにいる三人に絞られる。それを、戦略性に優れたサジに問いかけてみたのだ。
「俺ァ魔力的にはピンピンしてますからね。身体張らせて下さい。それにアジトの場所も目星は着いてる」
「それは助かるよ。ロビンは?」
「俺もまだ行けるよ!」
またロビンは道中の殆どを眠っており、回復に魔力をある程度使ったものの、実はこの中で一番回復していたりしていた。押し入れの中でせせこましく寝てきた彼にとって、例えどこで寝ようともあの状況以下になる事は早々無く、結果的にいつ何処ででも寝られるという睡眠能力を身に付けていた。悲しい能力である。
「三人か……」
アルヴィスを檻から解放する者、この役目はサジにしか出来ない。その上で彼は敵に見つかる訳にもいかないので戦力にも数えられない。そして敵にはクライブと斬り分ける手練れ【ペルフェンダー】と、アルヴィスをして苦戦を強いられたリーダー【ゼルドリス】がいる。
そうなると、実質的にゼルドリスと当たるのはクライブしかいない。ペルフェンダーがクライブが戦ってしまうとロビンがゼルドリスの相手となる。これは流石に無理どころの話ではない。相手との差があり過ぎるのだ。
「仮に俺が山薙のリーダーとやるにしても、確かもう一人手練れがいたよな?」
「ペルフェンダーの野郎ですね。奴は多分クライブさんと互角くらいの力がありますね」
「なら……俺じゃリーダーには勝てないか」
「多分、無理でしょうね」
戦力が足りていなかった。ザコと戦うにしても、リーダーやサブリーダーを抑えるにしても。せめて、後一人。後一人でも味方に戦える者がいたら。
そうすればクライブがペルフェンダーを抑え、ロビンを危険に晒す事なくゼルドリスを抑えられる。サジがアルヴィスを解放するまでの時間、それを作れる仲間が後一人でも居れば……。
答えの出ない難題に三人が頭を抱えていた、そんな時だった。
「話は聞かせて貰った」
突然三人のいる部屋の扉を開け、作戦会議をする中に乱入する者が現れたのだ。その者は背は低くくまだ幼さを残す見た目をしているが、服装からデマイズの人間だと分かる人物だった。「デマイズの人間が何故ここに?」クライブとサジがそう考えた隣で、その人物の事を見知った者がこの中に一人。そして声を荒らげる。
「ら、ラディ!! どうしてここに?」
「どうしてって、ここは俺の里だぞ?」
「え、でもどうして……学校は?」
「休みだぞ、今日は」
「え、そうだったっけ」
学校のある日は寮暮らしで、休みの日は里に戻り生活していた彼は、このタイミングでここに居たのだ。そして彼は言った。
「殿下には汁をぶちまけた借りがある」
「し、汁の借り?」
クライブとサジは不思議そうな顔をしている。だが、あの件は彼にとって死活問題と言っても過言では無かった。もしアルヴィスに不敬罪とでも言われていようものなら、彼は今頃学校にも、里にも居られなくなっていただろう。学校はまだしも里に戻れないというのは、彼にとっては死んだ方がマシな程の屈辱な事なのだ。ましてや自分発端で里に迷惑を掛けていたならば、そうやってあの時の事を考えれば考える程、彼にとってこれは見過ごして良い状況では無かった。
「それにお前にもな、ロビン」
「ラディ……」
だから彼は殿下一行が襲撃を受けたと聞いてここに飛んできたのだ、借りた物を返す為に。そして、受けた恩に報いる為に。
「俺が同行する、戦闘は任せろ」
ラディック・デマイズが、三人に向かってそう言い切った。




