028:ロビン・ラックと公務への同行-3-
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時は少し遡る。
全員で、決められた正規の隊列で進行中。
そんな折に突然襲撃に合ったのだ。
しかもそれは両サイドからの挟み撃ち。そして何故か露骨に開かれている正面の道。この形で待ち構えているのなら、前を突っ切って突破しようとも罠が仕組まれている可能性が高い。
(万全の正面よりも厄介な右か左を突破するのが逆に安全か?)
故に、瞬時に判断する。
「左だ! 応戦しろ!」
アルヴィスはすぐに指示を出した。敵を視認してから僅か0.5秒の出来事。この対応の早さは流石であったが、襲撃を予定していた攻める側と、予想だにしていなかった守る側ではどうしても対応に差が出てしまう。能力差以上の差が生まれてしまう。敵の方が一呼吸分動きが早い。具体的に言うならば、敵は詠唱を終えた状態で構えられるのだ。
そんな一行全員の緊急時に。
「おりゃぁぁぁぁ!!」
真っ先に飛び出して行ったのがロビン少年。敵を察知するや否や馬から降り、最後尾から先頭へ向けて急発進。その上で、アルヴィスの「左だ!」の声を受けて進路を左へと確定させる。この時点で下馬した戦闘要員はロビンだけであり、射線軸から見て彼は斜めに介入しようと駆けていた。そんなロビンが進む先には二人の刺客が待ち構えている。
「燃え盛る大火炎!」
「荒れ狂う暴風の嗎!」
事前に詠唱を終えていた敵が味方本陣へと魔法を放つ。無論その先に居たのはアルヴィスとクライブ。魔力の高まりを察知したロビンは進路を射線上に切り替える。直ぐ様、彼らの間に割って入り、正面から二発の魔法を受ける構えを見せるロビン。
「行くよ、烈破!」
両腕にガントレットを展開し、この中級魔法の二重攻撃に対して魔力を込めた肉の盾となって防ごうとしたのだ。
ガントレットを正面に構え、一枚の盾と化したロビン。魔法の直撃を受け大爆発、そしてー
「クライブ!」
信頼する仲間の名を叫んだ。
無傷とはいかなかったが、ダメージを受けつつも意識を残してこれを防ぎ切ったロビン。その姿を受け、クライブはワンテンポ遅れてしまった事に舌打ちしつつも構築した魔力を攻撃へと転換する。
「【燃ゆる炎の種、我願いに応え炎塊に秘めし大いなる力を顕現せよ】、火炎の円柱!」
詠唱、そしてそれを終えた思うと同時に敵の足元から火柱が立ち昇る。油断していた足元に不可避の攻撃である。
「突破する!」
アルヴィスのその言葉に全員が進路を左へと向け、攻撃体制を取った。そしてその最中に。
「良くやったロビン、大した判断力だ」
「へへ、少しは役に立てたかな?」
馬をコントロールし抱え上げる様にロビンを回収するクライブ。火傷と切り傷であちこち酷い事になっていたロビンだが、命に別条は無さそうで安心した。
「何なんだコイツら……」
ただの追い剥ぎかチンピラだとばかり思っていたが、初手から中級魔法を二人同時に仕掛けてくる様子から、そうでもない事が窺えた。だがしかし、そうなると。
「追撃が来るぞ!」
逃げた先にまた伏兵が。咄嗟に左と指示を出してしまった事を小さく後悔するアルヴィスだったが、そんな事を気にしている場合ではない。
両側から姿を見せた伏兵は弓を構えており、味方の馬がこれを被弾。崩れる様に落馬させられる。だが構っていては全員が飲み込まれる。前に進むしか道は残されていなかった。そう思われた時。
「チッ。すまない虎丸、頼む!」
クライブがそう声をかけると、何処からともなく大型の四足獣ライガーが姿を現した。そしてその口に落馬した者を咥えると、ヒョイと自身の背中に移してクライブと並走する。
虎丸は騎乗用に鞍をつけられており、背中に乗せられた者は体制を立て直すとすぐに杖を構えた。戦線に復帰である。
「……?」
と、ここである事に気が付いたアルヴィスとクライブ。こういう時、逸早くポジションを取って上手く味方を誘導してくれる仲間の姿が見当たらない。
「サジはどうした!?」
「分からん、何処かではぐれたか!?」
「いや、そんな雰囲気もなかったが……」
馬の上で互いに情報を出すも進展せず。だが敵はそんな事お構いなしで、攻撃の手を緩める事はなかった。
「正面、誰かいる!」
ロビンのその声に戦場全体に意識を向けていたアルヴィスとクライブは正面に視界を集中させる。そしてロビンが声を荒らげた理由に得心がいった。そこに居たのは手練れだ。
「頼めるか?」
「任せろ、ただロビンを頼む」
「分かった」
クライブはロビンをアルヴィスの方へと移動させると馬から飛び降り、そのまま曲者と正面から向き合う形に。互いに魔杖を構え牽制し合う。
ここさえ抜けられればアルヴィスの無事はある程度確約出来る。ここさえー。
「チッ、そんなに甘くはないか」
思わず舌打ちしてしまう。敵は更にアルヴィスを取り囲む様に展開しており、接敵は必至。
「【吹き抜ける風の始め、我願いに応え蒼穹に秘めし
大いなる力を顕現せよ】、爆ぜる風神の嘲笑!」
紡がれた魔法は味方を避けた周囲全体へと突進する風圧の攻撃。これはダメージよりもノックバックが目的、だが両サイドは目的通りの効果を遂げるも、受ける事が前提だった正面には防がれてしまう。
「殿下、御武運を!」
「すまない……」
正面の敵と相対す味方が二騎。仲間がまた一人、また一人と自分を逃す為に離脱する。何とかこれを以て凌ぎ切りたい所だが。
「ダメだアルヴィス、左に!」
「しまっ!?」
仲間が命を賭して切り開いた道を抜ける、それに意識を集中した瞬間の襲撃。これは偶然と呼べるタイミングではなかった。狙いすまされた一撃がアルヴィスを襲う。
ーイィィィンー
鈍い金属音が辺りに響いた。
「ぐぎぎっ!」
「くっ!」
「ほぅ、まさかこの後に及んでまだ護衛を連れてるとは。つくづく王子ってのは高貴な御身分だ事で」
アルヴィスを正確に狙った飛び蹴り、この奇襲は間一髪の所でロビンか防ぐ、防いだが。
「ぐっ、クッソ……まだ……」
「やめとけ坊主、身体が動かねー筈だ。大人しくそこで寝ていろ」
「ぢぐじょう……」
とんでもない勢いで蹴り飛ばされ、その先にあった大岩に激突。中に減り込む形で身動きが取れなくなってしまっていた。そしてロビンに庇われたアルヴィスもまた、下馬を余儀なくされていた。
「どうやら、お前を倒さないと行けないらしいな」
「そういうこった。まぁテメーはここで終わりだがな」
魔杖を構える相対す曲者。そしてそれを解放する。
「起きやがれ、【貫通牙】」
「その魔杖……お前、【山薙のリーダー】か」
「やれやれ、俺も偉くなっちまったもんだぜ。魔杖を解放しただけで素性が割れちまうとはな」
「名前と特徴だけはな。危険人物としてリストに上がっていた」
「危険人物か、光栄なこった」
全てを破壊し貫くと言わんばかりの大槍、それを上段に構える山薙のリーダー、ゼルドリス。
「何故山薙がこんな事を」
「テメーはただの引換券だ、黙ってやられろ」
「そうは行くか、抵抗くらいするさ」
抵抗はする、そんな言葉を口にするアルヴィスだが、その顔に負けるなどとは微塵も感じさせない戦意が表れていた。
「やるぞ、【龍瞬】」
剣気が解放される。